ボクが子供の頃に見た光景のようだった。
北海道や沖縄などの遠隔地からやってくる代表校。当時は飛行機などは今で言えばロケットみたいな存在だった。一生乗ることなどないと思っていた。列車と船で試合の2日も3日も前から出発しなければならない。当然アルプススタン後はガラガラだった。
相手が近畿勢だったりしたらもう目も当てられない。実力も応援も圧倒的に支配され考えられないミスも起こる。その支配にジャッジすら微妙になる。
そして、そこで立ち上がるのが甲子園のファンだ。縁もゆかりもないチームに誰かしらが応援を始める。次第にその輪は広がり遠いところからやってきた弱小チームに勇気を与える。
それが今日起こった。
北北海道代表の旭川大高校。アルプスは相手の佐久長聖の3分の1にも満たない。そして初回早速安打を打たれるとバントを1塁へ悪送球。これでまず1点。そうだ、ボクが昔観たあの弱小チームそのもの。さらに四球を許し安打を打たれて2点を奪われた。
だが、そこからだった。旭川の沼田投手は頑張った。少ない応援を背にピンチを招きながらも併殺で凌ぐ。
1回も2点を奪われてなおも無死満塁の場面。3回の1死1・2塁の場面。4回は無死1・2塁の場面、すべて併殺にとった。4イニングで3つの併殺。1回のエラーが嘘のように立ち直るのは昔ボクが観た地方からやってきたおどおどした野球少年とは違っていた。
そして2回に1点、3回に2点と逆転し試合は終盤に向かう。ここでドラマが起こった。ここまで好守備を見せて盛り上げてきた旭川。あっさり2死を奪い上田君の打球はレフトへのライナー。左翼手は前進し下からグラブを出した。3塁側ネット裏にいたボクは完全に捕球したように見えたが、2塁塁審は両手を広げた。ショートバウンドしていればあのグラブさばきはない。ボールをこぼしたわけでもない。これまで乗ってきた旭川守備陣がここで崩れた。ストレートの四球を与えると西藤君の打球は高く上がったレフトフライ。完全に打ち取った当たりだったが、今度は左翼手がこれを落球。グラブの土手に当てていた。おそらく西日が目に入ったのだろう。
甲子園常連校ではない、昔ボクがいた地方からの出場校に戻ってしまったのか・・・
だが、違った。9回の裏、安打と犠打で2塁へ走者を進めると中筋君が2塁打で同点。さらに安打で2・3塁とサヨナラのチャンスまで広がった。少ないアルプスを球場全体が後押しする。しかし、後が続かず延長へ。
そこからだ。10回裏は2死満塁。11回裏は2死2・3塁。12回裏は1死2塁とサヨナラのチャンスを逃すと史上初のタイブレイクにはいる。しかも13回は両軍無得点。14回表に佐久長聖は1点をとり14回裏の旭川。
無死1・2塁から始まる攻撃はバントを失敗し最後は併殺に取られた。
併殺でピンチを凌いできた旭川の最後のプレーはそれをやられて形だ。だが、球場に残った少ない観衆は大きな拍手を送った。旭川の選手は清々しい表情をしていた。
ミスもでた。タイブレイクに入る前までの4失点はすべてエラーがらみだ。球場に圧倒されジャッジすら微妙だった。それでも最後は甲子園が応援してくれた。史上初のタイブレイクという歴史も刻んだ。
昔ボクが観た甲子園が蘇った。へたくそな野球。それでもボクが甲子園を好きになった理由はまさにそこなのだ。
2018年8月8日 第100回全国高校野球 1回戦(於 阪神甲子園)
佐久長聖
200 000 020 000 01 = 5
012 000 001 000 00 = 4
旭川大
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