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2016年09月17日23:31
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松方コレクション
今月はじめに新聞を賑わせたニュースも耳にあたらしいとき
なんとタイムリーな展覧会でしょうか。
幻の松方コレクション 作品リスト英で発見
http://
神戸開港１５０年プレイベント
松方コレクション展
〜松方幸次郎 夢の軌跡〜
＠神戸市立博物館
松方コレクションといえば上野の国立西洋美術館ですが
単にそこから作品が来ているのではありません。
展示されているのは美術品１４２点（浮世絵は展示替えあり）、
関連資料１７点。
美術品のうち国立西洋美術館から来ているのは１５点にすぎません。
初日に、今回の展覧会を統括された方の講演会を聴きました。
『松方コレクション再考』
岡泰正（神戸市立小磯記念美術館 神戸ゆかりの美術館 館長）
岡さんは１９８９年にも松方コレクション展を企画されたのだそうで
２７年前と同じことをやるわけにはいかない、という意気込みでスタートされたといいます。
そのため、オルセー美術館の主任学芸員だったカロリーヌ・マチューをコーディネーターに迎えました。
「（コレクションをつくった）松方幸次郎は慶応元年の生まれです。江戸時代のひとなんですよ」
◆メモリアルイヤー
幸次郎は１８６５年、鹿児島に生まれました。
父は、後に蔵相になり、さらに首相を二度務めた、松方正義です。
東大を中退後エール大学等に留学、帰国後は父の首相秘書官を経て
３１歳で川崎造船所（現川崎重工）初代社長に就任。
第一次大戦後、船の売り込みにいった第4次渡欧でブラングィンと出会い
美術コレクションをはじめたのが１９１６年でした。
つまり今年・２０１６年は
幸次郎生誕１５０年
コレクション収集開始から１００年
さらに川崎重工創立１２０年
神戸開港プレ１５０年
というメモリアルイヤーということになります。
◆松方コレクションのたどった道のり
コレクションの運命は３つに分かれました。
関東大震災後の１００%関税の問題などから全ては日本に運ばれなかったのです。
まず、２０回に分けて日本に運ばれた１３００点。
これは昭和２年の恐慌で売り立てられ、散逸してしまいました。
浮世絵８０００点については皇室に献上され、東京国立博物館の収蔵となります。
次にフランスのロダン美術館で保管されていた４００点。
第二次大戦中はパリ郊外に疎開して難をのがれましたが（疎開費用捻出のため２０点売却）、
戦後はフランスが接収。
吉田茂らの返還交渉の末、３７０点がフランス政府から寄贈返還されました。
ただし１９点はフランス留め置きとされました。（今回そのうちいくつかも来ています）
この返還の条件となったのが新しい美術館の建設であったことは周知のとおりです。
これが国立西洋美術館のコレクションとなりました。
もうひとつ、イギリスで保管されていたもの。
これは１９３９年に火災で焼失し、内容については謎となっていました。
それが明らかになったと今年９月発表されたというわけです。
その数、９５３点。
そのうち４５０点はブラングィンのものでした。
これで、ようやく松方コレクションの全貌がわかったというわけです。
◆ハンセン・コレクション
コペンハーゲンで１９１６年〜１８年に形成されたコレクションです。
幸次郎はベネディットの仲介で、これを１９２３年に一括購入しました。
次のような作品が含まれています。（★は今回出品）
○自画像（マネ） →現ブリジストン美術館蔵
○積み藁（モネ） →現大原美術館蔵
○雨のベリール（モネ） →現ブリジストン美術館蔵
○菜園（ピサロ） →現ブリジストン美術館蔵
○シュザンヌ・アダンの肖像（ルノワール） →現ブリジストン美術館蔵
○ブラン氏の肖像（マネ） →現国立西洋美術館蔵
○マネ夫妻の肖像（ドガ） →現北九州市立美術館蔵
○カードをするメアリー・カサット（ドガ） →現ワシントンナショナルポートレートギャラリー
★罪を悔いる女 マク゛タ゛レーナ（コロー） →個人蔵
★収穫（ピサロ） →現国立西洋美術館蔵
◆恐慌時に売り立てられた作品たち
たとえば。
○レスタックの岩（セザンヌ） →現サンパウロ美術館蔵
○ひびわれの家（セザンヌ） →現メトロポリタン美術館蔵
○カーニュのテラス（ルノワール） →現ブリジストン美術館蔵
○アルジェリア風のパリの女たち（ルノワール） →現国立西洋美術館蔵
○愛の杯（ロセッティ） →現国立西洋美術館蔵
○黄昏 ヴェネツィア（モネ） →現ブリジストン美術館蔵
（親戚の黒木三次・竹子夫妻がかかわったので松方コレクションか微妙？）
◆フランスに留め置かれた作品たち
返還されなかった１９点のうち今回５点が来ています。
★庭に座る女 ジュスティーヌ・デュール（ロートレック） →現オルセー美術館蔵 今回のメインビジュアル
★読書する夫人（ピカソ） →現ポンピドゥーセンター蔵
★つるされた鶏（スーティン） →現ポンピドゥーセンター蔵
★「田園の奏楽」模写（セザンヌ） →現ルーブル美術館素描画室
そして
★★★ジョット（モロー） →ルーブル美術館素描画室
（ジョットとはもちろん中世イタリアの画家。ヴァザーリの『芸術家列伝』で
…ジョットの生涯は羊の群れをあちらこちらに連れて行き、それらを見守りながら
ある種の霊感にとらわれたかのように彼の視線を強くとらえたものや、心を占めている空想を
土や砂の上に描いた…とされていることに基づき羊飼いの姿で描いたもの。
小品ながら本当に素敵です）
◆共楽美術館
これらの作品群に先だって１６世紀の★《ヴィーナスとキューピッド》や
貴族の館の壁に２段がけにされているような肖像画などもあり、
幸次郎のコレクションは混沌としていてイメージがつかみにくいように思われます。
しかし、このバリエーションこそが大事だったようです。
自分の美意識でなく様々なサンプルを選び、一般大衆に提示することがねらいでした。
ブラングィンとのあいだで当初から美術館としての構想もあり、建物のデッサンが描かれています。
その名も
「シェア・プレジャー・パビリオン」
共に楽しむ。しかもミュージアムではないのです。
◆作品を借りるということ
さて、今回の展覧会のために海外の美術館から借りた作品がたくさんあります。
その裏話もちらりと。
「とにかく交渉のテーブルについてもらうことが大変なんです」
カロリーヌ・マチューには幸次郎がコレクションを買い付けていた時代の
関連作品の選択を依頼しました。
松方コレクションではありませんが幸次郎が見れば買ったであろうという作品。
この１８点がそうそうたるもの。
「それをひとつ借りるたびに美術館の方がついて来られるので経費がかさむ。
もちろんビジネスクラスで(笑)」
国内においても作品を借りるのが容易でないのは同じです。
個人蔵のものも１９点あります。
大山崎山荘から借りたトロワイヨンは階段の途中に架かっていて
足場を組まなければ外せなかったり。
「返すときも足場を組まなければなりません」
◆ジールハウス
今回、ジールハウス所蔵、というものが１９点出ています。
これは揚げ菓子・チュロスを売る会社ですが画商もされています。
松方コレクションは２４点あります、ときいて岡さんも驚いたそう。
（商品としてでなく所蔵していらっしゃいます）
その全てが図録には掲載されています。
初公開の ★《月光》（マリー・カザン） が美しい！
夜のとばりがおりた空の下、平原の中に灯りのついた家、空には星。
「カメラマン泣かせでした」
◆アボンダン
岡さんは忙しい交渉の合間をぬって、パリの松方コレクションが疎開したという
パリ郊外アボンダンの家を訪ねられました。
そこには築３００年の家がかたちを変えながらも残っていました。
当時、疎開のことは手配した日置��三郎と村長しか知らなかったそう。
その家から黒い猫が出てくるいい写真がありまして
図録に載っております。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
個々の作品については
たとえばピカソの《読書する夫人》の特徴的な右手が
↑
アングル《座るイネス・モワテシエ夫人》
↑
ひいてはポンペイ壁画《赤ん坊のテレフォスを発見するヘラクレス》
と関連するなど興味深いお話も沢山あるのですが、それはそれで。
とにかく
ホンモノを見せたい！
という幸次郎（と、岡さんたちスタッフ）の意気を感じました。
巡回はありません。
11月27日まで。
http://
なんとタイムリーな展覧会でしょうか。
幻の松方コレクション 作品リスト英で発見
http://
神戸開港１５０年プレイベント
松方コレクション展
〜松方幸次郎 夢の軌跡〜
＠神戸市立博物館
松方コレクションといえば上野の国立西洋美術館ですが
単にそこから作品が来ているのではありません。
展示されているのは美術品１４２点（浮世絵は展示替えあり）、
関連資料１７点。
美術品のうち国立西洋美術館から来ているのは１５点にすぎません。
初日に、今回の展覧会を統括された方の講演会を聴きました。
『松方コレクション再考』
岡泰正（神戸市立小磯記念美術館 神戸ゆかりの美術館 館長）
岡さんは１９８９年にも松方コレクション展を企画されたのだそうで
２７年前と同じことをやるわけにはいかない、という意気込みでスタートされたといいます。
そのため、オルセー美術館の主任学芸員だったカロリーヌ・マチューをコーディネーターに迎えました。
「（コレクションをつくった）松方幸次郎は慶応元年の生まれです。江戸時代のひとなんですよ」
◆メモリアルイヤー
幸次郎は１８６５年、鹿児島に生まれました。
父は、後に蔵相になり、さらに首相を二度務めた、松方正義です。
東大を中退後エール大学等に留学、帰国後は父の首相秘書官を経て
３１歳で川崎造船所（現川崎重工）初代社長に就任。
第一次大戦後、船の売り込みにいった第4次渡欧でブラングィンと出会い
美術コレクションをはじめたのが１９１６年でした。
つまり今年・２０１６年は
幸次郎生誕１５０年
コレクション収集開始から１００年
さらに川崎重工創立１２０年
神戸開港プレ１５０年
というメモリアルイヤーということになります。
◆松方コレクションのたどった道のり
コレクションの運命は３つに分かれました。
関東大震災後の１００%関税の問題などから全ては日本に運ばれなかったのです。
まず、２０回に分けて日本に運ばれた１３００点。
これは昭和２年の恐慌で売り立てられ、散逸してしまいました。
浮世絵８０００点については皇室に献上され、東京国立博物館の収蔵となります。
次にフランスのロダン美術館で保管されていた４００点。
第二次大戦中はパリ郊外に疎開して難をのがれましたが（疎開費用捻出のため２０点売却）、
戦後はフランスが接収。
吉田茂らの返還交渉の末、３７０点がフランス政府から寄贈返還されました。
ただし１９点はフランス留め置きとされました。（今回そのうちいくつかも来ています）
この返還の条件となったのが新しい美術館の建設であったことは周知のとおりです。
これが国立西洋美術館のコレクションとなりました。
もうひとつ、イギリスで保管されていたもの。
これは１９３９年に火災で焼失し、内容については謎となっていました。
それが明らかになったと今年９月発表されたというわけです。
その数、９５３点。
そのうち４５０点はブラングィンのものでした。
これで、ようやく松方コレクションの全貌がわかったというわけです。
◆ハンセン・コレクション
コペンハーゲンで１９１６年〜１８年に形成されたコレクションです。
幸次郎はベネディットの仲介で、これを１９２３年に一括購入しました。
次のような作品が含まれています。（★は今回出品）
○自画像（マネ） →現ブリジストン美術館蔵
○積み藁（モネ） →現大原美術館蔵
○雨のベリール（モネ） →現ブリジストン美術館蔵
○菜園（ピサロ） →現ブリジストン美術館蔵
○シュザンヌ・アダンの肖像（ルノワール） →現ブリジストン美術館蔵
○ブラン氏の肖像（マネ） →現国立西洋美術館蔵
○マネ夫妻の肖像（ドガ） →現北九州市立美術館蔵
○カードをするメアリー・カサット（ドガ） →現ワシントンナショナルポートレートギャラリー
★罪を悔いる女 マク゛タ゛レーナ（コロー） →個人蔵
★収穫（ピサロ） →現国立西洋美術館蔵
◆恐慌時に売り立てられた作品たち
たとえば。
○レスタックの岩（セザンヌ） →現サンパウロ美術館蔵
○ひびわれの家（セザンヌ） →現メトロポリタン美術館蔵
○カーニュのテラス（ルノワール） →現ブリジストン美術館蔵
○アルジェリア風のパリの女たち（ルノワール） →現国立西洋美術館蔵
○愛の杯（ロセッティ） →現国立西洋美術館蔵
○黄昏 ヴェネツィア（モネ） →現ブリジストン美術館蔵
（親戚の黒木三次・竹子夫妻がかかわったので松方コレクションか微妙？）
◆フランスに留め置かれた作品たち
返還されなかった１９点のうち今回５点が来ています。
★庭に座る女 ジュスティーヌ・デュール（ロートレック） →現オルセー美術館蔵 今回のメインビジュアル
★読書する夫人（ピカソ） →現ポンピドゥーセンター蔵
★つるされた鶏（スーティン） →現ポンピドゥーセンター蔵
★「田園の奏楽」模写（セザンヌ） →現ルーブル美術館素描画室
そして
★★★ジョット（モロー） →ルーブル美術館素描画室
（ジョットとはもちろん中世イタリアの画家。ヴァザーリの『芸術家列伝』で
…ジョットの生涯は羊の群れをあちらこちらに連れて行き、それらを見守りながら
ある種の霊感にとらわれたかのように彼の視線を強くとらえたものや、心を占めている空想を
土や砂の上に描いた…とされていることに基づき羊飼いの姿で描いたもの。
小品ながら本当に素敵です）
◆共楽美術館
これらの作品群に先だって１６世紀の★《ヴィーナスとキューピッド》や
貴族の館の壁に２段がけにされているような肖像画などもあり、
幸次郎のコレクションは混沌としていてイメージがつかみにくいように思われます。
しかし、このバリエーションこそが大事だったようです。
自分の美意識でなく様々なサンプルを選び、一般大衆に提示することがねらいでした。
ブラングィンとのあいだで当初から美術館としての構想もあり、建物のデッサンが描かれています。
その名も
「シェア・プレジャー・パビリオン」
共に楽しむ。しかもミュージアムではないのです。
◆作品を借りるということ
さて、今回の展覧会のために海外の美術館から借りた作品がたくさんあります。
その裏話もちらりと。
「とにかく交渉のテーブルについてもらうことが大変なんです」
カロリーヌ・マチューには幸次郎がコレクションを買い付けていた時代の
関連作品の選択を依頼しました。
松方コレクションではありませんが幸次郎が見れば買ったであろうという作品。
この１８点がそうそうたるもの。
「それをひとつ借りるたびに美術館の方がついて来られるので経費がかさむ。
もちろんビジネスクラスで(笑)」
国内においても作品を借りるのが容易でないのは同じです。
個人蔵のものも１９点あります。
大山崎山荘から借りたトロワイヨンは階段の途中に架かっていて
足場を組まなければ外せなかったり。
「返すときも足場を組まなければなりません」
◆ジールハウス
今回、ジールハウス所蔵、というものが１９点出ています。
これは揚げ菓子・チュロスを売る会社ですが画商もされています。
松方コレクションは２４点あります、ときいて岡さんも驚いたそう。
（商品としてでなく所蔵していらっしゃいます）
その全てが図録には掲載されています。
初公開の ★《月光》（マリー・カザン） が美しい！
夜のとばりがおりた空の下、平原の中に灯りのついた家、空には星。
「カメラマン泣かせでした」
◆アボンダン
岡さんは忙しい交渉の合間をぬって、パリの松方コレクションが疎開したという
パリ郊外アボンダンの家を訪ねられました。
そこには築３００年の家がかたちを変えながらも残っていました。
当時、疎開のことは手配した日置��三郎と村長しか知らなかったそう。
その家から黒い猫が出てくるいい写真がありまして
図録に載っております。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
個々の作品については
たとえばピカソの《読書する夫人》の特徴的な右手が
↑
アングル《座るイネス・モワテシエ夫人》
↑
ひいてはポンペイ壁画《赤ん坊のテレフォスを発見するヘラクレス》
と関連するなど興味深いお話も沢山あるのですが、それはそれで。
とにかく
ホンモノを見せたい！
という幸次郎（と、岡さんたちスタッフ）の意気を感じました。
巡回はありません。
11月27日まで。
http://
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