mixiユーザー(id:3210641)

2012年06月28日12:51

90 view

【バレエ】新国「マノン」(26日)

先日マイミクさんと、
「“Kバレエは高い”という認識は、そろそろ改めるべきだ」
という話をしました。

そもそもKバレエが、
「高い」と言われるようになったのはなぜか。

創設当時のKは、踊る芸監を筆頭に、
キャシディさんや優れた外国人男性群舞、
ダウエルさん、デュランテさんといった魅力的なゲストなど、
見どころはいろいろあったものの、肝心の女性陣が、
直線的でちまちました動きの体育会系だったため、
バレエ団としての実力は、総合すると、
新国や東バとおおむね同じレベルでした。

そのころのバレエのチケット代は、S席で比較すると、
国内のバレエ団が1万弱〜1.3万、
海外からの来日バレエ団が1.6〜1.8万でしたから、
Kバレエの1.8万は、
「実力は国内並みなのに、チケ代は海外級」。

加えて席種割も問題で、
S席の範囲が広く、B席(1万円)までしかありません。

こうなるともう、
熊さん一個人の熱烈なファンでもないかぎり通う気にはなれず、
「実力は(当然)海外級、だけどチケ代は国内並み」
というマールイ(ルジさんの日でも1.5万)を例に出すまでもなく、
「Kは高い」というイメージが定着したのでした。

しかし昨今、海外バレエ団の来日公演は軒並み2万を越え、
実力派の著名ダンサーが次々と引退し、
レベルも言われているほど高くはない。
国内バレエ団も、価格据え置きながら(新国はやや値上げ)、
新国と東バは世代交代期でレベルダウンしています。

けれどKは、この2、3年で急激にレベルアップを果たし、
チケ代も据え置きですから、そうなるともう、
ここの公演を「高い」と決めつけるのは、
「情報が古い」と言わざるを得ません。

問題は席割ですが、先日、こんな話を耳にしました。

新国の4階席センターは、C席4200円と、
会社帰りにふらりと寄ってみようかな、という気にさせる価格です。
ところがその1列目で観た人によると、座高が低いと手すりが邪魔で、
それこそ「マノン」で言えば、机より下が見えず、
非常にストレスを感じたとのことでした。

一方、Kバレエには、
熊さん出ないけどS席1.2万円、という日があり、
その日は席割もC席(6000円)まであります。
(年末の「くるみ」は一律1.1万円)

もちろん、オーチャードのC席など、
恐ろしくて試そうとは思いませんが、
「Kは高くてちょっと」と敬遠されている方は、
まずはこのS席1.2万でご覧になってみてはいかがでしょう。


さて、本題。

新国の実力に懐疑的な私は、
最近すっかり初台から足が遠のいてしまいました。
チケット代の絶対値は安いけれど、パフォーマンスを勘案すると、
相対的に「高い」と感じていたからです。

今回もパスのつもりでしたが、
さる筋からチケットをいただけることになり、ならばと赴いたところ、
やはり舞台は生もの、自分の目で観ないといけない、
そして世界は広いということを、改めて痛感しました。

まず新国のダンサーたちですが、先日のシュツットガルトと違い、
おおむねどのダンサーも、最低限の基礎は身につけているということ。

日本にはなんちゃって教師があちこちにいる代わり、
本場で学んだダンサーや先生もいて、
大手や老舗に所属していれば、
上を目指せる環境は一応あるということなのでしょう。

群舞の足音も静かでした。
古典になったらわかりませんが、
26日の舞台は丁寧に踊っている印象を受けました。

配役表に名前のないダンサーの中にも、目をひく人がちらほら。
スカート姿の群舞に混ざり、ひとり男装で踊っていた娘は誰だろう。
良い動きをしていました。

もっとも、ここは群舞にさりげなく主役級が混じったりもしますから、
もしかしたら贔屓のダンサーかもしれませんが。
マールイの真似をするなら、ほかにもすべきことはあるだろうに。

脇役たちも、ただぼーっと観ているのではなく、
いろいろ小芝居を工夫しているのも良い傾向。
これもヴィントレー効果でしょうか。

残念だったのは、湯川さんに代表される、旧来の小さな踊り。
彼女はヴィントレーさんに目をかけられるだけあって、
表情豊かな演技や柔らかな腕使い、
音楽に乗った流れるような動きをしたかと思えば、
止めるところではぴたりと決めて流さないなど、
良いところはたくさんある人ですが、
唯一の弱点が最短距離を無機的に移動しがちな手足の使い方。
このため、パによっては手足が短く見えてしまう。

背の高い人は、たいてい手足も長いから、
「動きで手足を長くみせる」ということを、
あまり意識しないのでしょうか。
背の低い人やロシアで学んだ人たちは、
日本人のDNAを熟知しているため、
踊りが大きいのと対照的です。

新国のダンサーは、男女問わずスタイルが良いだけに、
手足を長くみせることを意識すれば、さらに見栄えがよくなり、
動きもしなやかになるのに。もったいない。

また、どの役もそこそこ上品にまとめてしまう、
という点も変わっていませんでした。
良くも悪くも、それがここの特徴なのですが、
作品や役の理解度という点からみると、どうなのでしょう。

マクミラン作品の特徴はリフトだけでなく、
「そういう設定」の一部お上品キャラを除くと、
どの登場人物も、時に醜く思えるほどに「生々しい」。

慈愛や恋心だけでなく、嫉妬や欲望、憎悪など負の感情も、
隠すどころかむしろ強調されているからで、
何をやっても綺麗にまとめてしまう新国ダンサーたちにとって、
実は一番苦手とする振付家なのです。

たとえばムッシュが金貨をばらまく場面。
(観た日はトレウバエフさん。
彼は自分の役柄を、きちんと理解していました。さすが!)

乞食たちはそれを拾い集めるわけですが、
舞台から心の中に聞こえてきたセリフは、
「一個でも残しては足を取られて危ないからね、
みんなで手分けしてすべて回収するのよ」でした。

でもこの場面、
金貨は生きるため、生き延びるための大事な収入のひとつ、
他人をかきわけ押しのけてでも意地汚く集め、
時には醜く奪い合う、というのがマクミランの意図のはず。

2010年の来日公演では、誰が決めたのかは知りませんが、
ロイヤルは恥も外聞もなくプティパの古典を捨て、
「リーズ」「うたかた」「R&J」と得意技で固めてきました。

NYCBとパリオペの公演では、
バランシンやヌレエフ観るなら、別にここでなくともいいや、
という気分にさせられましたが、
この時のロイヤルは、さすが本家は違う! と納得の舞台。

それと比べると、まだまだ脇が甘い。
Kがアシュトンに関しては本家と肩を並べつつあるのですから、
新国にはもうひと頑張りしてほしいところです。

そして主役のふたり。

サラ・ウェッブさんとコナー・ウォルシュさん。
なんか聞いたことあるようなないような...。

新国が「マノン」を演る、と聞いた時、
「ぜひ、ゲストに島添さんを呼んで!」
とヴィントレーさんに直訴しました。

するとヴィントレーさん、
「ヒューストンの2人もいいから、観てね」
とのたまう。

う〜ん。

ヒューストンはたしか80年代終盤に、
マクミランさん自身が参与になってるから、
当然レパートリーに「マノン」もあるはず、
そこのダンサーなら踊り慣れてはいるでしょうが、
ヴィントレーさん、ゲストの引き、弱いからなあ。
それに前回観た時は、フェリさんとテューズリーさんだし。

というわけで、「今回はパスしようかな」
になったわけですが、結果は。

「観に行って良かった!」
(チケをくれた方に大感謝!)

2人とも、風体・踊りのスタイルともに派手ではないから、
見た目重視の人には受けないでしょうが、
私はすっかり気にいってしまいました!

とにかく動きがしなやかで正確、かつのびやかで、
音楽ともぴったり合っているのです。
(そういえば、東フィルがこの夜も良い仕事をしてくれました。
本当に3軍、リストラされたのかな?)

しかも彼らの凄さはその先にありました。

まず、ステップ間の「つなぎ」が素晴らしい。
ひとつひとつのパが上手い人はたくさんいますが、
パとパの間やポーズとポーズの転換時に
ぎくしゃくしてしまう人はベテランにも少なくない。

というか、そこを綺麗に出来るかどうかが、
ダンサーのレベルを測るひとつの指標となります。
2人はそこのところがほれぼれするほど見事でした。
これは相当鍛えているにちがいない。

そして踊りから、
驚き、喜び、後悔、逡巡、怒り、といったさまざまな感情が、
手に取るように伝わってくるのです。
踊りでそうなのですから、2人の演技力は推して知るべし。

素晴らしいダンサーは、まだまだ大勢いるのでしょうね。
世界は広い。
6 2

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2012年06月>
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930