昨年日本で公開された映画の一つに『ファイアーブランド ヘンリー8世最後の妻』(2023)という作品がありました。16世紀前半の英国に君臨したヘンリー8世とその6番目の妻キャサリン・パーを描いた作品でした。
https://www.youtube.com/watch?v=dVHyoImSGJQ
この予告編にもあるとおり、ヘンリー8世といえば、英国王室史上最もスキャンダラスで残虐な王と云われ、ちょっとYouTubeを“ヘンリー8世”で検索してみても、「絶倫王」、「冷酷無慈悲な暴君」、「史上最悪最凶」等の救いがたいほどスキャンダラスな言葉がタイトルに並んだ動画がわんさかヒットします。
でも、ヘンリー8世という王様は単にスキャンダラスで残虐なだけの人物だったわけではなく、一方で、ラテン語、スペイン語、フランス語を理解し、英国王室史上最高のインテリだったとも云われてます。
また、以下のような曲の作曲者でもあり、自らも楽器を演奏出来たと云われています。
・組曲《棘のないバラ》
I. 私にとって大いなる喜び
https://www.youtube.com/watch?v=ZcKfFjv1m1g
II. 良き仲間との気晴らし‐ああマダム
https://www.youtube.com/watch?v=PlzuprKbhWg
III. さよならマダム、そして愛しい人
https://www.youtube.com/watch?v=_P8-sQnfFHU
IV. タンデル・ナーケン
https://www.youtube.com/watch?v=LznRcEcYaY8
V. 別れはつらい
https://www.youtube.com/watch?v=G9ka8izaaDo
・良き仲間との気晴らし:
https://www.youtube.com/watch?v=v0AmtORu0mU
加えて、若い頃は比較的良心的な王様であったとも伝えられているのに、これらの側面はほとんど忘れ去られ、ヘンリー8世と言えば、上述のとおり、今日ではもっぱら英国王室史上最もスキャンダラスで残虐な王として有名になっています。
なぜこんなことになってしまったのかといえば、ヘンリー8世の凄まじくドラマティックなその生涯が文学、映画、演劇等の作品の恰好の題材とされ、それらの大部分が、スキャンダラスで残虐な面ばかりを取り上げたものであったからです。
特に、1933年、イギリスで公開された映画『ヘンリー八世の私生活』は、国王ヘンリー8世の6人の妻との性生活を大胆にデフォルメして描いて人気を博しました。
この作品は「イギリス映画の歴史は二つの時期に分けられる。『ヘンリー八世の私生活』の前と、それ以後である」と言われたほど、イギリス映画史に一時代を画す傑作でした。残念ながら私は未見なのですが、観た人によれば、この作品は、チャールズ・ロートン演ずるヘンリー8世が、ありとあらゆる手段を尽くして6人もの妻を取っ替え引っ替えして、世継ぎの男子をつくろうとするのですが、ほとんどいつも失敗する、そのドタバタ劇を皮肉たっぷりに面白おかしく描いたものだということです。
ただ、ここで、なぜヘンリー8世はそこまでしたのかを考えると、この王様が単に好色だったわけではないことが見えてきます。男尊女卑的発言になって恐縮なのですが、この時代(今でも?)、好色な欲求を満足させさえすればよいのであれば、国王なら高級娼婦を使っていくらでもその欲求を満たせたはずだと思うのです。でも、お世継ぎともなると、とても高級娼婦に産ませるわけにはいかず、どうしても王妃に産ませる必要がありました。
つまり、次々に王妃を取っ替え引っ替えした背景には、世継ぎのスペア(男子)を沢山もうけておかなければならないという側近たちの勧めがあったのであり、王は(確かに好色であったとはいえ)真面目にそれに取り組んでいたという側面もあったわけです。
ですから、あくまで憶測ではありますが、『ヘンリー八世の私生活』は、よく観ると、世継ぎを男子にすることばかりにこだわって、スペア作りに勤しむことの滑稽さも見えてくる作品なのではないかと思われます。
流石にこの作品を実際に製作・監督したのはハンガリー出身のアレクサンダー・コルダでしたが、それにしても、ドイツでヒトラーが政権を握った年に、こんな作品を英国でよく作れたものです。
なお、この作品は戦前に日本に輸入されたものの、検閲で引っかかり、一般公開されず、今も、一般公開されないままになっています。
ふと、日本で今問題になっている皇室典範改正のことが頭に浮かびました。
535年前の今日はヘンリー8世の誕生日でした。
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