上野オークラで東盛直道監督の新作「変態の季節 恍惚のいぶき」を観る。ヒロインは自身の恋愛を小説化する究極の私小説作家。最近はろくな男と恋愛していないためスランプ気味。幼馴染の男と再会したヒロインは、妻が浮気しているらしいことを聞き出し、小説のため接近する。
夫は妻の浮気を想像すると、意に反して性的に興奮する。この場面の夫はコメディのようにおかしい。妻は夫の多忙さからセックスレスとなったことが浮気の原因なのはありがち。しかし恋愛至上主義者であり、そのためならヒロインと同性愛関係になる。この夫婦のキャラが立っていて、事実上の主役。それに夫の友人であり妻の浮気相手、鬱陶しいまでにモラリストである夫の後輩が絡む。
ヒロインは登場人物たちの人間関係を壊すクラッシャーだが、その行為がなぜかハッピーエンドにつながってしまうのは楽しい。
かつて初心だった自分を調教した男に再会するが、すっかり家庭人になっている。ヒロインは「つまらない男」と非難する。この場面はよかったが、ヒロインの根底にあるのは小説。幼馴染のことは本気で好きになったようだが、夫婦と比べて面白みに欠けた。
夫が妻の寝言で浮気に気づいたり、ヒロインがかつての男に襲われたとき、タイミングよく妻が通りかかる。夫が同じ屋根の下にいるのに、濃厚なラブシーンを始めてしまう妻と浮気相手の浅慮さも、ヒロインと夫に浮気現場を見せるためとしか思えず、ご都合主義が目立った。
東盛監督としては、パワハラ上司に一撃を加える痛快な前作「変態ぞうさん 私の桃色指導」の面白さに及ばなかった。
「人妻のじかん 夫以外と寝る時」は、松岡邦彦監督０３年作品。夫の仕事で旅行が急に中止になったことに腹を立てた妻は、家出して駅まで行くが、勇気がなく引き返す。
夫は偶然会った大学の同級生を連れてくる。大学時代に文学の新人賞をとったが、今は売れない脚本家で、カルチャーセンターのシナリオ教室の講師で食いつないでいる。妻は男に興味を抱く。
男は教室で悲劇について「不安定な関係に異物が投げ込まれることで起きる」と教える。文学少女の成れの果てである妻は、強欲資本主義にどっぷりつかっている夫に不満を抱いている。そこに現れるこの男は、その通り悲劇の予兆。そして妻は言葉巧みに接近する男と関係してしまう。
しかし男は元カノとのやり取りから、金目当てで近づいたとわかる。この男は夫と同じ俗物だ。もう結末は見えている。
男と関係した妻は、それまで押さえつけてきた情熱が暴走し、見た目も性格も変貌する。冒頭の家出が出来なかった妻とは別人であり、この様子は演じる山口真里さんの熱演もあってホラー映画のよう。
予想と違い、ぶった切るようなラスト。松岡監督はエクセス末期に異様な作風で狂い咲きしたが、その面目躍如の快作。
「ねっとり妻おねだり妻�供”廚妨�られながら」は、的場ちせ、すなわち浜野佐知監督９７年作品。竹本泰志さん演じる編集者は、夜中になかみつせいじさんの人気作家にたたき起こされる。家に行くと、妻を変態的に責めるセックスを見せられる。
この男は自らを「邪悪な文学の神と向かい合い、格闘する特別な存在」とする超人思想の持主。周囲を苦しめるのも、小説のためではなく「純粋な悪意」。
作家は妻と編集者を意図的に関係させ、その代償に編集者の妻を差し出せと言い出す。編集者の上司は逆らえず容認。妻も夫のために作家のもとへ行く。
作家は浜野組でよくなかみつさんが演じた傲慢な男以上の悪人であり、この男こそいつものように成敗すべきだった。しかし全員なすすべなく傷つけられる。作家の妻は出て行くが、カタルシスに欠けた。
今回の３本は作家特集。そして東盛監督作と浜野監督作に出演していた竹本泰志さんと、山口真里さんの夫婦特集でもあった。この組み合わせはよかった。
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