ひとの市場価値ってなんですか

　昨夜10時、石油ファンヒーターをつけてしばらくの間、暖をとった。が、昼間は暑くて、着ていた長袖パーカーを脱ぎたいほどの陽気だった。
　身体が自然に負けている。暑い寒いに対して柔軟ではない。
　男性の健康寿命は72.68歳らしい。健康寿命の定義は「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」とされる。この言を信じれば、自分が誰からの介護も受けることなく過ごせるのは残り4年半、ということになる。私はいつもこのシミュレーションで生きている。格安チケット＆ホテルを探して沖縄まで飛べるのはあと何年、クルマを駆って信州を旅できるのはあと何年。そんなことばかり考えていると時間が殊更貴重に思えてくるのだが、他方、”タイパ”（＝「タイムパフォーマンス　時間対効果）とかコスパといった概念が心底嫌いな自分も同時に存在している。

　今日（10月18日）の正午前、灯油を買いに近所のガソリンスタンドへ。18リットルのポリタン2個をクルマに積んだ。
　自宅は山の中腹にある。たぶん高い手数料を払えば持って来てくれる業者もいるだろう。が、笑えることに配送従事者はだいたいに於いて私よりご年輩で、気が咎める。
　かつては18リットルのポリタン2つを両手に下げて、山を登れた。
　が、いまはと言うと、やってやれないことはないけどかなり難しい。なので、一つずつ持って家まで運ぶ。ずっと頚椎症性神経根症に悩まされていて、首から右腕にかけて痛みがある。なので、余計に慎重になっている。
　灯油を運び上げながら、「もし中東戦争に発展したら、灯油高騰の騒ぎだけではなくなって、世界平和が根本から揺らいでしまう」などと想う。日本なんて石油は99.9パーセント、他国に依存しているのだから、下手すると国が吹っ飛ぶほどのダメージだ。
　気持ちがズズズっと盛り下がって、灯油を持つ腕が尚更痛い。

　朝刊の「声」欄に「ひとの市場価値ってなんですか」という京都在住大学院生の投稿があった。
＜就活生なら一度は出会う「君の市場価値を高めよう」という文句。大っ嫌いな言葉だ。イマドキ価値が高いのはITなんかを扱えるコンピューターに等しい頭脳派か。そっち系の会社のホームページでよくその言葉を見る。肉体派は価値が低いのか。なんだろう、人身売買みたいな価値観が横行する社会。＞
　こういういちゃもんを唱える変人がいる、というのは嬉しい。
　知り合いにすべての行動は経済活動がベースという男がいる。突き詰めればいまを生きる人間すべてがそうなのか、と思えるけれど、やっぱ自分は納得しがたい。タイパ、コスパ、市場原理。
　綺麗事であるのはわかっているが、愛がすべて、というほうがこそばゆい言い回しながら納得できる。自己愛の度が過ぎると滑稽だし、家族愛については持ち過ぎると利己主義でしかなくなるし、国家愛に至っては国粋主義に繋がるけれど。
　
　今日も一字一字に気を遣いすぎて、思うように作業が進まない。タイパの悪い自分がいる。社会からしっぺ返しをくらっているような、若干卑屈な気分もある。が、そんな自分を否定してしまったらそれこそ哀れなので、受け容れるしかない。