本書は心理学や脳科学の論文や著書を紹介し、それに著者の私見を加えてパッケージされた物だ。著者はバイアスフリーではなさそうだから、ここに私の私見をブレンドしてもよかろう。
脳にとっては劣った者は報酬で、優れた者は損失だという。だからSNSで著名人のスキャンダルをこきおろす書き込みで炎上するのだという。
確かに優れた者の存在は自尊心を毀損するから、脳がアラートを発するのは解る。だがその自尊心の毀損は損失だろうか?本書では誰しも自尊心の危機は重大だから必死でその危機を回避するという。それは同意だ。
逆に劣った者は報酬だと?たしかに一時的にはそうだ。だがそれが続くと絶望する。
尊敬とか嫉妬パワーが説明されていない。
唐突だがバイクの話をしよう。私のバイクは遅いバイクだ。だから他のバイクや車にぶっちぎられるのが当然だ。ぶっちぎられた時は納得するが、逆に私がぶっちぎってしまった時はストレスを感じる。凄くがっかりする。
本書で紹介された心理学的実験では人為的に劣った者を作る。私が置かれた状況はそれなのだろうか?だが私はこの劣ったバイクが好きだ。私は自尊心が低いのだろうか?
まあいろいろあるが、私は自尊心が高いくせに実力が伴っていない奴に怒りを感じる人らしい。だから速いバイクに乗っているくせに遅い奴には凄く怒りを感じる。
まあこれはブーメランでもある。実力と自尊心は同じくらいにすべきだろう。
写真の話にする。ワークショップで自分より良い写真を撮る人を見つける。もちろん自尊心は毀損されるから「ちくしょう!」と思う。対処するにはもっと良い写真を撮るしかない。だが私はそれを損失だとは思わない。快感だ。嫉妬パワーが得られる。
今思ったが、勝負で負けの原因が自分のせいなら対処するモチベーションが発生するが、負けの原因が他人だと怒りが発生する。負けの原因が自然だったら諦めるしいかないかな?
ホモ・サピエンスが発生したのは20万年前、アフリカから出たのは6万年前。それから近代までの私達の先祖は自集団の維持に努めていた。他集団から侵略されれば男と子供は皆殺しにされ女はレイプされる。狩猟採集では人類のキャパシティーは多くないから、そのような事にもなったろう。
今や農耕社会を超え産業革命を経てキャパシティーは比較にならないほど増大した。だから自集団を維持する為に他集団を排他する動機は少なくなったと思われる。
グローバルと言われて久しいが、それもたった数十年のこと、数万年の人類の記憶を書き換えるのには足りないのだろうか?
経済戦争といっても、会社が潰れたら殺されたりレイプされたりしない、次の仕事を探すのに手こずるだけだ。しかも今や戦前みたいに餓死の心配もなかろう。
技術革新・イノベーションは勝った者にしか報酬を与えない事象ではない。全体を良くする。そろそろ脳を書き換えた方が良かないか?前史から近代までは勝負は生死を分けるものだった。だが現代の勝負はゲームにすぎない。だからプーチンさんよ!なんでそんな昔の勝負を仕掛けるかな?
我が国には「情けは他人のためならず」ということわざがある。回り回って自分のためになるのだ。全体を見据えたことわざだ。全体が良くなれば結果的に自分も良くなる。
これは逆も言える。一時的に自分が良くなっても全体が悪くなれば結果的に自分も不幸になる。学術的にもゲーム理論で証明されている。「囚人のジレンマ」でググってみて欲しい。
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