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2022年10月31日13:59

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歌いあげる

 先週の土曜日の夕方5時。山手線上野駅ホームに久々に降り立った。
 同郷の友達二人との待ち合わせ場所である中央改札口を目指して、ぼくは駅の構内を歩き始めた。歩きながら上野駅の懐かしい匂いを仄かに感じながら、人混みの喧騒の中をぼくは縫うように、そして漂うように歩を進めていくのだった。

 <あの日もそうだった> と自分が大学進学のため上京した日のことをふと思い出していた。これから始まるであろう都会での一人暮らしに大いなる希望と期待を抱き、胸を膨らませていた当時の自分。またその一方で心細さと不安に押しつぶされそうにもなっていた自分。
 そんな遥か昔のことに思いを馳せながら、ぼくは突然、井沢八郎さんの往年の昭和歌謡『あゝ 上野駅』を歌い出していた。

 どこかに故郷の 香りをのせて
 入る列車の なつかしさ
 上野は俺らの 心の駅だ
 くじけちゃならない 人生が
 あの日ここから 始まった ♪

 ・・・ぼくは、はっきりと思い出したのだった。青年時代の自分が、都会での暮らしのスタート地点であるこの上野駅で、まさにこの曲を歌うことで弱気な自分を鼓舞するように闊歩していたことを。
 周囲を往きかう人々の姿かたちは変われども、この駅が持つ雰囲気や匂い、ほどよい喧騒感はあの頃と何も変わっていない。見かけは老いぼれてしまったこのぼくも、胸中に幾ばくかの不安を抱えていることでは、当時とほとんど変わらないのだ。

 コロナ予防のマスクのおかげで、多少大きな声で歌っても構わない気がしていたし、マスクで覆われていては、口の動きが分からないことをいいことに、まさか、ぼくが歌っていとは誰も気づかないだろう、と思っていたのだ。だが気がつくと、あたりの人等が、怪しい者を見るような視線でこちらを見ているのに気づき、途端にぼくは声を張れなくってしまった。
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