最初の3ヶ月 5（作成中）

あーもうやだ。気まずい。最悪だ、、、
翌朝、自分の席に座って頭を抱えていた。実際にそんなポーズはできないので、机の木目模様を睨みながら固まっていた。
どんな顔をしてここにいれば良いのだろう。体はもうここに来てるけど、まだここにいる顔が決まってないんだ。
「春名さん」リキコさんの声が上から聞こえてきてビクとなる。「おはよう！」びっくりして見上げると、リキコさんが机のすぐ横を通り過ぎるところだった。「お、おはよ…」と返したけれど、彼女はもう前の方に歩いて行ってしまった後だった。
怒っていない、よね？良かった…のかな？多分…。

そうか、まだ来たばかりだからだな。1時間目の授業中、少し落ち着いて考えていた。今のうちはまだ分からなくても大丈夫だけど、何ヶ月も立って慣れた頃が怖いな。

その日の午後、体育の授業は体育館だったので、出遅れないように早めに行った。更衣室で着替え終わったが、まだ誰もやって来ない。ちょっと早く来すぎたのかな。張り切っていると思われたら嫌だなあ…と考えていた。
それにしても、やけに遅い。
本当にここで良かったのかな。でも今日はここでやるってちゃんと確認したから間違い無いはず。
しばらくして、どこかのクラスの男子達が話しながら体育館に入ってくる声が聞こえてきた。授業が始まるチャイムが鳴った。アリーナでバスケットボールをつく音が聞こえてくる、ホイッスルが鳴る。
どういうことだろう。体育なくなった？
一度教室に戻ってみよう。そうしたら何か分かるかも。もし授業やってたら体操服のままだとまずい。とりあえず制服に着替えて、体操服の入ったナップサックとダンスに使うスティックを抱えてそっと出る。誰も気づきませんように、と願いながら舞台の脇から体育館の端をそっと歩く。体育館には体育座りをする生徒達。どう考えても丸見えなのだが、できるだけ気配を消して、そっとドアを開けて外に出た。

教室に戻ったが誰もいない。窓のところに行き、グラウンドを見下ろすと体育の授業をしているのが見えた。黄色いスティック、ああ、うちのクラスだ。なんでグラウンドにいるの？変更になったのかと思い黒板をみても何も書いていない。なんでみんな間違えずにちゃんと集まっているの？
また着替えなきゃ、と思った。

遅れて運動場に出ていくのは恥ずかしい。でも仕方がない。なるべく端の方を歩いて行った。ダンスの列に近づいて、横に立って、入るときを待っていた。入るときは来なかった。ずっと立っていた。程なく授業終わりのチャイムが鳴った。整列して、礼をして、教室に戻る群衆に混ざって歩いて行った。

転校は慣れているから、自分が覚えた常識なんて次の場所では通用しないことを知っている。その場所のやり方は何も知らないことを知っている。最初から全部覚え直すのだ。何かする度に戸惑い、固まり、何が正しいのか考える。答えに絶対の根拠なんてない。その場の常識ではそういうことになっている、それだけだ。