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2020年08月07日16:45

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最初の3ヶ月 4(作成中)

「なあなあ、」ある休み時間、前の席の女子が振り向きざまに言った。「春名さんて、なんでそんなに暗いん?」
はい出た。返答できない定番質問。 
自分が暗い覚えがないので返事をしないでいると、
「自分から話し掛けて友達作りなよー」
作りなよー。なよー。なよー。笑いが込み上げてくるのを堪える。「遊ぼーって声掛けたらええんじゃが」
遊ぼう?遊ぶ?ってなんだ?あそ…ぶ?なんだそれ。
その子達のイケてるグループを見てみると、確かに「遊ぼ」と声掛けて連れ立って廊下に出ているみたいだけど、遊んでいる風はない。外に立ってぺちゃくちゃ喋っていたり、一緒にトイレに行ったり。「遊ぶ」ってそういうことなんだな。えーそんなことをするためにわざわざ人を呼ぶの?それやらなきゃいけないの?義務?
勇気を振り絞ってやりたくないことをやるって何なん。意味がわからない。

他の時には「じゃあ今日からメイと呼ぼう!」と何か始まった。わざわざ「メイ、」と呼び掛けて話してくるっていう。遊ばれている。面白い?
反応がなくて多分つまんなかったのだろう、それも一日で終わった。

ある放課後、帰ろうかなと思っていると女子達がなにやら集まって話をしている。何してんのかなと思ったら、男子を追い出して机を動かし始めた。なんだ?なんだ?
あたしこれ関係あるのかな。帰っていいのかな。それともあたしも入っているのかな。
と考えていると、「春名さん、ちょっと来て。これ集めて」と呼び掛けられた。ホッ、私も関係ありで良かったんだ。身の振り方は分かったが一体何をしているんだろ。私は何を頼まれたのだろう。
「違う、青い布だよ」そう言われてビクッとする。青い布、、これ、かな。適当に青いのを見つけて集めていく。「もう、なにやってるの、ちゃんとやってよ」呆れた顔で言われてしまった。
ああ、どうやらこれは体育祭の準備の何かみたいだなあ。あたしなんも聞いて無いんだけど。

あああ、つかれた、やっと終わった。5時過ぎるとだんだん不安になって、いつ終るのかばかり気にしていた。なんにもできなかったけど、帰れる…。

月末の体育祭が近づくと、授業にその練習の時間が増えていく。9月とはいえまだまだ暑い。ダンスも走るのも辛いが、炎天下で地面に座って待っている時間も辛かった。地面に絵を描いていると、「よおっ」と頭をはたかれた。「元気?」ヨッチンが通りすがりに声をかけてきた。ちょうど同じ時間に別の場所で練習していたらしい。「元気じゃないよー」「またなー」手を振って行ってしまった。「へいへい」手を振りかえす。

「なあなあなあ、体育祭雨降ったらええなー」帰り道の坂を自転車を押して登りながら、ヨッチンが言った。「あんた体育祭楽しみじゃないの?」「メイちゃんは楽しみなの?」「いや、でも、」
「雨降らんかったら休んだろうかな」「へっ?」その手があったのか。「今休んだろ思うたよな?」「休めるんなら」「…雨降ったらええな」
「あんたのクラス応援で何かやるの?」「なんか衣装作ってる。なんかやるのかな。よくわかんない」「あー、夏休みからなんか準備してたからな。えっ教えてもらってないの?」「なんか始まってるから」「途中からなんだから、ちゃんと教えないほうが悪いんだよ。大変だったな」「…なんだ。知らなくて良かったんだ。」「ん?良くはないよ」「そういう意味じゃなくて。」「分からなかったら聞いたらいいのに」「聞いてもいいのかな」「あっ、俺からリキコに聞いといてやろ」「やめて」言っている途中でかぶせて止めた。
「ポンポン隊ってクラスでやるやつ?」「いや別に結成して音楽部隊と出るらしい」「あたし入ってないよね」「しらんよ」「今日なんかボンボン作ったんだけど。」「ちゃんと聞いときな」「…うーん」「だいじょうぶ?」「紙に書いてもいいかな?」「あー、まとめとくのな、ええんちゃう?」「そうしようかな」「うん」

別れ際に「頑張ってな」と言われた。なぜか泣きそうになった。泣かないけど。

次の日の放課後、聞きたいことをひと晩考えて書いた紙をポケットの中で握りしめていた。いろいろ考えては消して残ったのは「これはなに」の5文字。中途半端に分かったようなことを詳細に書くより、一から全部教えてもらわなければいけないと思ったのだ。ただ、誰に聞けば良いのだろう。
布を切っているグループがあったので、側に座って見ていたが、皆作業に忙しく、誰も私に気付かない。
他のところを眺めて見る。何か紙に設計図を書いているグループのところに行って眺めてみたが、やっぱり皆忙しく、誰も私に気付かない。
困った。私はどこに居たらいいんだろう。外見ぼうっとしたまんま、どこにも入れずに時間だけが過ぎていく。どうしよう。
試しに布に手を伸ばしてみるとサッと奪い取られる。邪魔したらいけないな。
どうしよう。
ガラッと引き戸が開いて、リキコさんがダンボールを1個2個、3個も積み重ねて持って入ってきた。もう大変だった〜暑い〜と言いながら。他の子が数人やってきて箱を受け取りに行く。ひと箱2人がかりで降ろす。すごいな。
すべて下ろすと近くの椅子にドカッと座り厚紙で仰ぎ始めた。ああもうしんどい〜と言っている。
ポケットの中で紙を握りつぶしながらリキコさんの前に立った。大声で「なに?」と聞かれて怯んでしまう。「あの、」なんとか声が出た。なんて言ったらいいのか、その次が続かない。「え?何か用事?」しばらく待っても何も言わないせいで、明らかにイライラした様子になった。「用事じゃないなら行くよ、」どうしよう。
くしゃくしゃの紙。これはだめだ。これはなにって喧嘩売ってるみたいかも。これは違う、これ以外で、何か思いつかなくては。どうしよう。
「ちょっと、なんで泣くのよ。あたしが泣かしたみたいじゃない」リキコさんの慌てた声、聞こえてる、悪いのは分かっているのだけど顔が上げられない。恥ずかしい。止めたいのに止められない。
どうしたの、どうしたの、と周りから人が集まってくるのが分かった。誰が泣かしたの?と言っている人がいる。ああ違うんだって。
そうこうしているうちに、私が何も聞かされていないことに気付いた子が出てきた。ごめんね、誰も説明してあげなくて、と謝られた。ここに来てこれをやってと初めて丁寧に教えてくれた。
「そんなん自分で聞いたらいいじゃないの。周りが気づいてくれるのを待つなんて卑怯だよ」リキコさんはプリプリ怒ってそう言った。「何のために口がついているのよ」
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