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2020年01月13日11:44

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休日の午前

 休日の朝っぱらから某作家先生からお呼びがかかる。近所の喫茶店で落ち合い、モーニングセットをご一緒した。先生のお仕事での愚痴や次回作の構想について聞かされた。ぼくにも概ね納得できる愚痴だったり、作品の構想だった。「よろしいのではないでしょうか」とぼくが言うと、先生はホッとしたかのように相好を崩すと「君に分かることが、あのK君には理解出来んのだよ。困ったもんだ」と不満そうに言った。K君とは私も知る大手出版社の副編集長のことだった。どうやらKさんは先生の作品構想の内容に難色を示しているらしいのだった。
 
 ぼくは先生に言った。「ものの見方はいろいろです。読者もいろいろいます。Kさんの考えは、そんな読者の中の一つの考え方に他なりません。だからこそ侮れませんよ。それにKさんは、ただの読者ではなく編集者です。先生が書きたい作品が売れるか、売れないか? の問題についてだけは誰よりも執着しているはずです。そんなKさんの意見は尊重された方がいいと思います」と。

 先生が少し驚いたようにぼくを見た。
「それは、わかっている。K君からの指摘は時として腹立たしくもあるが、自分の構想を再考したり、作品の精度を上げることには寄与していると思う。だからこそ彼のことは認めてはいるのだが・・・嫌いなんだよ、彼のことが。どうしょうもなく大嫌い」と苦虫を潰したような表情で言った。
「先生、作家にとっても読者にとっても作品のデキがすべてです。担当編集者との相性が少しばかり良くないことぐらいご辛抱ください」ぼくが笑顔で言葉を返すと「君、それ本気で言っているのか?」と目を丸くして先生がおっしゃったので「もちろん、本気です」とだけ答えた。

 ややあって先生は声を上げて笑い出した。
「いやいや、君に会ったのは正解だった。そうだな、君の言う通りだ。スッキリとした」
 先生はそう言った後、満足そうに自宅に帰って行かれた。
 ・・・かくして、貴重なぼくの休日の午前中が潰れた。
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