凍える身体で棒立ちの夜ふけかよ

　昨夜午後11時50分、石油ファンヒーターの換気がてら南と西それぞれの窓を開けた。
　あちらこちらの方角から除夜の鐘が聞こえてくる。空を見上げると満天の星で、南より少し西にオリオン座が見えた。しばし考える人のふりをする。が、何も考えていなかった。
　窓を閉めてファンヒーターのディスプレイを見ると先ほどまで23度もあったのに16度になっていた。寒いし身体をいたわりたいので、そろそろ寝ようと思いながらiPhoneでニュースを読んでいたら、太鼓の音が聞こえた。
　隣がお堂なので、窓を閉め切っていてもわかる。お坊さんたちがお堂を順々に回って新年初の読経と祈願をしているのだ。
　パジャマ姿のままで玄関を出て、お堂の前に行ってみた。三僧が一心で御祈祷をされている。手を合わせたままお堂の前で棒立ちになって、終わるのを待っていた。約10分くらい、いまの私に最大可能な水行（水垢離とも言う）のような修行だ、などと思いながら、寒さに向かっていた。
　三僧がお堂を出られるとき、明けましておめでとうではなく「ご苦労様」と声を掛けられてくすっと笑えた。マジ、寒かったぞ。
　今日は一度午前7時に目覚めたものの二度寝して、９時ちょうどにベッドから降りた。睡眠時間は８時間。
　元日の新聞は分厚い。いきなりコーヒーというのが怖くて、まず水をコップ半分ほど飲み、プロテインを少し入れた牛乳を60ccくらい一気飲みしてから、コーヒー豆も挽いて丁寧に淹れた。新聞を読みながらコーヒーをちびりちびりと飲む。
　午前11時くらいに郵便受けを開いたら年賀状が届いていたので読む。
　年賀状でご挨拶するのと寒中見舞いを出す二つの返信にしたので、ようやくと年賀状づくりを始めた。年賀状としては異例の文章量を書き、門松や干支を配置して、細かなデザインをやってみた。こういう作業は楽しい。
　午後2時半から、サッカー天皇杯を観戦。ヴィッセル神戸の動きがすこぶるいい、と見るのがいいのか、Jリーグで常に強豪として君臨してきた鹿島アントラーズの凋落なのか、判断が難しい。それほどに神戸が優勢に試合を進めていた。
　私は横浜F・マリノスのサポなので、2019年の終盤に鹿島がずるずると後退して結果、マリノスの優勝となったのが嬉しくて仕方なかったのに、今日みたいな難敵の弱り切った試合運びを見ていると哀しくなった。スコアは2対0で神戸の勝利だったが、内容的にはもっと差があった。
　マリノスについて書くと、昨年の6月、突然、マリノスに一つのスポンサーが付いた。「メルコ・リゾーツ」という香港のIR企業で、どうしてまた低迷中のマリノスに……という不可思議さがあった。日産の企業業績が下降の一途を辿っているので、金余り企業に助けてもらったんだ、と勝手に考えた。
　翌月、これまた突如に横浜のふ頭にIR（カジノ）施設案が急浮上、というニュースが湧いて、ウソだろうと思った。そもそも熱心なのは大阪とか沖縄とか北海道あたりで、人口の多い首都圏に新たなギャンブル場を作る政策は不似合いだ。国会でIR法案が成立した時、横浜市民の意識調査では9割以上が反対で、カジノ誘致の気配はほぼゼロに等しかった。
　マリノスサポ（マリサポ）の掲示板では7月の横浜カジノ案が出始めた頃こそ、カジノ反対という声があがっていたのだが、8月以降中位にいたマリノスが快進撃を始め、とうとう最終節のひとつ前で首位に立つと、カジノ賛成派が優勢になっていった。
　マリノスは伝統あるチームなのに資金力が乏しく、選手の総年俸は全18チーム中12位で（2019年）、優勝したうえに今後カジノ会社が後押しすると、確かに常勝軍団になる。しかしそんなことでいいんだろうか？
　世論を二分するような政治的課題では、無難なほうを選択するのがいい。憲法然り、沖縄の基地問題然り、カジノ然りだ。
　スガのお友だち横浜市長は、「ヨコハマは今後住民の高齢化が進み、新たな市税が必要である」ということを前面に押し出して、スガかスカかわからぬグレート・ディクテーターに忖度し始めた。が、そんなことを言うなら、日本中どこでもカジノだ。横浜の財政はまだましなほうで、東京を別にすれば日本が沈没したとて最後まで生き残る県であり、都市である。
　もし万々一、横浜にカジノを作るのであれば、神奈川県として日本から独立すればいい。通貨は円でもY円でもよく、関税は日本とうまく交渉して有利な条件をゲットし、輸出入をバランスよくやって、横浜・川崎・相模原・横須賀・藤沢・鎌倉市民らは約半数が出稼ぎで東京に行って金を稼ぐ。三浦半島の魚、葉山牛、相模一帯の野菜と果樹と、東北から輸入したコメと豆でなんとか食いつないでいけばいい。オリンピックのメダルはせいぜいが2個か3個くらいになってしまうが、日本から逆に独立してしまった県、というのが神奈川だと、ヤフーニュースでも池上彰の解説番組でも面白ネタのいい供給源になるのではないか？　東京から異国を感じられるいちばん近い街は、もちろん鎌倉だ（笑）。
「鎌倉では奇妙な風習がありまして、銭洗弁天というお寺には毎日何百人何千人の人びとが小銭を洗っています。洗った硬貨は100倍になるという言い伝えで、カジノに行くひとはその前にいざ鎌倉、というのが国際的なジョーシキになっています」（池上解説）。
　しかし待てよ、マリノスはJリーグにいられるのだろうか。問題はここだけだ。