午前11時半に、「ちょっとだけ」というさもしい言い訳を自分にしながら、ブックオフへ行った。昨日から消費税も上がったことだし今日は30分限定だ、みたいな気持。
で、2冊買った。一冊は吉村昭の『熊撃ち』で、『羆』『羆嵐』とこれまで読んできたので、この本で吉村の熊シリーズは揃った。
もう一冊は文芸・外国の棚にあった『ある小さなスズメの記録』(クレア・キップス著)で、今どき珍しい函装だったので偶然目に入ったのだった。訳が梨木香歩とある。えっ、『裏庭』を書いたあの作家?
本を手に取ってみた。函には表裏とも、愛らしいとしか言いようがないスズメの絵が描かれている。原著の絵なのか、日本の版元が用意した絵なのか?
函から本を慎重に取り出してみた。この時点では買わない可能性が高かったから。一瞬、布張りかというような色味で、ずいぶんと高級感がある。
本を開いた。見返しに花のイラストが印刷されている。
見開きの次に「遊び紙」(トレーシングペーパー)が付けられていて、別丁の本扉がある。本扉はカラーで、函の表、裏とは違う絵が4色で印刷されている。トレーシングペーパーが磨りガラスの役目をしていて、タイトルと絵がぼんやりと見える、という構造だ。
本文用紙は白が強い上質の紙だった。この時点で、中身がどうあれ絶対に買おうという気になった。
このところ久しく函入りのハードカバーを買ったことがない。
装幀が贅沢で、かつ美しいという本もめっきり見かけなくなった。
奥付を見たら、2010年10月。震災が起きる半年前だ。発行が文藝春秋なので装幀は大久保明子さんかな、と予想を付けたら、やっぱりそうだった。
家に帰って簡単な昼食(レトルトカレーのみ)をとったあと、すぐに『小さなスズメ』を開いた。
解説まで含めて160ページなので、2時間ちょっとで読了できた。
1940年7月1日、ロンドン郊外に住む寡婦のクレアは偶然、地面に横たわった生まれたてのスズメと遭い、ほとんど死にかけていたその雛を蘇生させる、ということから物語が始まる。スズメはクレアの手厚い看護により九死に一生を得て、育つ。
時は第2次世界大戦中で、イギリスはドイツ空軍による爆撃攻撃にさらされていた。クレアは近所が空襲されると、スズメを抱いて逃げるという日々となり、とうとうリゾート地に引っ越しを余儀なくされた。この間もずっとスズメと一緒にの暮らしだ。
スズメは歌を囀るだけじゃなく、まるでサーカスにいる動物のごとく演技までするに至る。ラズリもそこそこに賢いボーダーコリーだが、クラレンスと名付けられたスズメは私の固定観念を凌駕する賢い鳥で、鳥がこんなにも人間と心の交流ができる種族だったとは思ってもみなかった。
生まれた直後から老衰で亡くなるまでの12年間を、クレアは愛情とユーモアと惜別の意を込めて描く。スズメだから泣けはしなかったが、もしこれが犬や猫なら、確実に涙が出たと思う。
内容も踏まえると、コストが高い函装を選択した編集者の気持がよくわかった。
読んでいる間、内容も含め、とても贅沢な気分になった。
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