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2019年07月17日05:59

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阿部豊監督「戦艦大和」(1953)には、さまざまな思いが交錯する。

僕が中学生になる前後に、プラモデルというものが流行しました。マルサンという会社が発売し、それまで木で作っていた模型作りが一変した記憶があります。なにしろ、飛行機なら、機体のリベットの凹凸まであるわけで、子供の僕にとって青天の霹靂でした。ということで僕も、飛行機ならゼロ戦、戦艦なら大和のプラモデルを手にしたしだい。

そのころ隣家に同い年の友人がいて、彼のお父さんが兵隊だったことから、戦争について博識だったことも影響しました。彼の語る戦争の逸話とプラモデルとで、空想をかき立てたわけです。とはいえ、戦艦大和のプラモデルで買えたのは、全長20センチ足らずのスケールのものだけ。今思うと、この悔しさから僕は、映画の中のミニチュア撮影に対して不満を持ったのでしょう。

阿部豊監督の「戦艦大和」は、1953年6月15日公開とあります。この7年後の同じ日に、安保反対のデモにおいて樺美智子さんが亡くなるという出来事がありました。1952年にサンフランシスコ講和条約が締結されて、ようやく“占領”状態が解けたわけです。だから「戦艦大和」の映画化も可能だったのでしょう。←それまでは占領軍の検閲がありました。

この101分の映画を初めて見たわけですが、ミニチュアによる戦闘シーンが売りであることは明確ですが、とにかく大和に乗りあわせた人々の人間ドラマとしてきちんと作られています。東宝争議により生まれた新東宝作品で、映画人が“戦後復興”を合言葉に大衆に娯楽を提供する使命を全うしていた、と感じられます。応援監督が松林宗恵とありますが、どのあたりをどう手伝ったか僕には分かりません。

しかし、下士官にアメリカ育ちの人間がいて、その弟たちはアメリカ軍人としてヨーロッパ戦線にいるという話が出てきます。その下士官に対して“日本精神注入”を主張する人間がいるわけです。僕の大学時代に、ゲバ棒に“革命精神注入棒”と書いていたやつがいたな。こういうジョークは、今の人にはまず通じないと思う。もちろん「戦艦大和」の場合はジョークではありません。

そのアメリカ体験ある下士官を擁護する主人公が舟橋元でした。もっといかついイメージだったけど、この作品では優しさがいい感じです。その友人として関西弁を使う下士官が高島忠夫でした。と、写真を検索していたら、その隣に丹波哲郎がいました。見ていたときには気づかなかった(写真3)。

戦艦大和は、徳之島の沖合で沈みました。僕は新婚旅行で徳之島へ行ったから、冒頭とラストの夕陽シーンには感慨を覚えます。その時、大和撃沈から26、7年後だったわけですが、それからさらに47年の月日が過ぎていしまった。そういえば乗組員の妹という役どころで嵯峨三智子が登場し、兄が持つ妹の写真を仲間が“美人妻だ”と話題にしている逸話がありました。僕の女房が“嵯峨三智子に似ている”と言われたことがあるそうで、新婚当時の彼女とこの映画の嵯峨三智子をダブらせて楽しみました。

ところで呉にある“大和ミュージアム”には、戦艦大和の1/10スケールが飾ってあるそうです。日本映画専門チャンネルでこの映画の前に放送していた「戦艦大和の最期 乗組員八杉康夫の証言」が興味深かった。1953年の「戦艦大和」(正式表示は「戰艦大和」)は、吉田満の本を原作にしています。舟橋元演じる吉村少尉とは、原作者のことなのでしょう。

この映画を、“精巧なミニチュアによる特撮”という部分だけを取り上げて語るのは、趣味の集まりだけにしてもらいたいと思います。むしろドラマの組み立てがきちんとしていること、登場人物の描きわけの妙味などを評価するべきでしょう。さらに言えば、この映画における基本姿勢は“戦後から見た視点”だということで、本当のドラマをどこまで感じ取れるか、それが我々に問われているわけです。

たまたま映像を探していたら、“39枚の古写真で見る60年前の日本社会”というページがありました。おそらくこの映画の撮影するためのミニチュアを手にした人の写真に、“1953年6月8日、戦艦大和の模型を作る映画スタジオのスタッフ。戦艦大和を描いたドキュメンタリーで使われた”と解説が。劇映画ですねんけど。おまけに公開の1週間前にこんな作業してへんやろ。念のため下記に貼りつけます。

http://japanese.china.org.cn/japaneseapp/2014-12/24/content_34400527_15.htm

とりあえず僕は、72歳まで生きてこられたという事実に、ほっとしています。
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