人生いろいろ

　昨日、早大近くの喫茶店に入ると、偶然Ｙさんに会った。僕がＹさんに会うのは、ほぼ20年ぶりのことだった。彼は学習院大卒で現在68才の独身。ご両親が残してくれた大きなマンション棟の家賃収入で生計を立てている人なのだ。
　そんなＹさんに、僕が知り合ったのは30年ほど前のことになる。10年間ほど一緒に飲みに行く仲だったが、いつのまにか会うこともなくなり、ここ20年間ほどは音信不通となっていた。

　ひさびさに会ったＹさんが、ニコニコ顔で僕に言った。
「いや〜、ずいぶんと会わないうちに、俺太ったでしょう？」
　・・・Ｙさんは、もともと太っていたので僕にはその変化がつかめず、ちょっと不思議そうな顔をしながらＹさんを見た。
「太った、ってあの頃と比べて何キロぐらい太りました？」と僕は訊ねた。
「笹川さんと遊んでいたころは100キロ。今は110キロもあるんだ、まいったよ〜」と笑顔で答えるＹさん。
「・・・はあ」僕の口からは、返事とも溜息ともつかない声が漏れ出ていた。
「Ｙさんは、今も独身なのですか？」ほかに話すこともない気がして、仕方なくそのことを訊ねてみた。
「うん、まあね。いまさら結婚したいとは思わないよ。淋しい時にはデリヘル呼べるしさ」とＹさんは当たり前のように答えた。

　・・・世の中にはいろいろな考えの人がいるんだな、といまさらのように僕は思い知った気がした。でも、何でもかんでも難しく考えて、偉そうにしている男なんかより、何倍も信用できるし、幸せなのかもな、とＹさんのニコニコ顔を見ながら、僕はそう思うのだった。