ガラにもなく恋愛小説を読んだ。そして、ガラにもなくシミジミとしてしまった。本作には、偶然に知り合った女性への、主人公の思慕はもちろん、母や、気の置けない友人たち、職場の同僚との愛もいっぱい描かれていた。それぞれにカタチの違う愛ではあるけれど、愛に変わりはない。読み進めるうちにいい小説だな、と素直に思えた。
この小説『アナログ』は、僕が書きたいと思う小説の真逆に位置する作品なのかもしれない。だが、愛に溢れた小説と愛を一切拒絶した小説、どちらも現実の生活においては稀なことだろう。愛にこだわり過ぎる生活も、愛をまったく信じない生活も、ある意味で異常だからだ。
そうこう考えると、この異常さこそが双方の共通点なのかもしれない、と思い当たる。どちらにとっても、本当は愛の存在こそが避けて通ることができない命題なのだ。過剰な愛も、見て見ぬ振りする愛も、意外にその本質は同じなのかもしれない。・・・愛の渇望と、その後の成れの果て。違うのはそこだけだ。そんな気がした。
ビートたけし 著『アナログ』新潮社 刊
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