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2017年10月11日17:26

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生きてればいろいろな事がある

「これまで隠してたんだけど・・・俺、本当は同性愛者なんだ。テレビで“ ルイルイ ”している太川陽介の尻を見ていると胸の鼓動が止まらなくなる。興奮するんだよ」

 それは、高校の同級生で、部活も僕と同じボクシング部に所属していたMからの、いきなりのカミングアウトだった。高校を卒業し、地元の国立大工学部に進学した彼としばらく会うこともなかったが、3年ぶりに会ったら、この衝撃の告白が始まった。
 ボクシング部では、僕が主将で彼が副将の間柄だった。マッチョな体躯と武骨な振る舞いのMは、どこからどう見ても“ 男らしい男 ”だった。そんなMから自分が同性愛者だということを知らされた僕は、最初は冗談だと思った。
「あはは! おい、何だよ〜藪から棒に。くだらない冗談はよせ」
 言いながら僕はMの顔をまじまじと見つめた。・・・しかし、Mは無表情のまま突っ立っていた。
「・・・えっ? マ、マジ? マジなのかよ!?」
 僕は、少し狼狽しながらMの目の色を探った。暗く沈んだ目をしたMがそこにいた。
「俺は今、大学でオッサンの教授と付き合っているんだ。付き合い出してもう2年になる。お互いが男色家であることは直ぐに分かった」
「・・・えっ、そ、そうなの? それはスゴイことになっちゃったなぁ」
 何を言っていいのか分からなくなった僕は、ふと、思いついた事をMに尋ねてみた。
「お前さ、ひとつだけ聞かせてくれ。俺たち高校時代の部室でみんな素っ裸で着替えたりしてたよな。ひょっとしてお前、俺の身体に興味があったのか?」自分的には至極素朴な質問のつもりだった。
「ふっ、ないよ、ないない。俺、それほど趣味悪くないから」言いながら、Mの表情がその日初めて和んだような気がした。
「・・・あ〜、そう」軽く侮辱を受けたような屈辱感と、なんだかホッとしたような安堵感の中で、Mの笑顔を懐かしいものでも見るように僕は眺めていた。
 そんな高校時代に戻ったようなMの表情に視線をやりながら、僕は言った。
「なぁ、お前。今日までそんな秘密を抱えて一人で苦しんできたのか? 良かったな、告白できる相手がいて。これからもツライ時や、困ったことがあったら、いつでも俺に連絡してくれよ。俺とお前は、部活で血反吐を吐くような練習をして、どっ突きあった仲だからな。一生の友達に違いない。あの苦しい練習を思えば、どんなことでも耐えれるさ」
「・・・」Mは何も言わずに僕を見ていた。
「何かあったら必ず連絡くれよな、絶対だぞ」僕は念を押すようにもう一度言った。
「ああ、そうする。絶対だ」
 Mは僕にそう答えると、左拳を一度だけ僕に向かって突き出し、ジャブを繰り出すマネをした。

 ・・・あれから、39年経った。Mからの連絡は、まだ一度もない。
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