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2017年09月17日13:50

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国主淵

貴志川流域を旱魃が襲い、雨乞いも火降りの効験もなく、国主渕の水が残るだけとなった。
里人は相談の上、この渕から水を引こうとしたが、淵の鞍懸岩の下の竜宮の入口と呼ばれる洞窟を何かが塞いでおり、それが水を止めてしまっていることが分かった。
里人は武勇の誉れ高い橋口家の橋口隼人にこの塞の除去を頼んだ。
隼人は家の桜井刑部にその役を命じ、帝からいただいた銘刀・国次をあたえた。
刑部が鞍懸岩の下へ潜ってみると、確かに大きな洞窟の前を大木が塞いでいる。
しかし、その大木は抱えて引いてみてもびくともしなかった。
そこで刀を突き立ててみると手ごたえがあり、大木はズルズルと動き出した。
見る間に洞窟からは泥水が吹き出し、大木のようなものも泥水に消えたが、それは竜蛇が雲と水を得て昇天するようであった。
そしてその直後、一天はにわかにかき曇って豪雨と雷の荒れ狂う大嵐となった。
刑部はようやく鞍懸岩へと泳ぎ戻ったが、国次が無くなっていた。
おどろいてふり返ると、水面にたくさんの面がうかび、恨むように、呪うように見つめていた。
刑部は「おのれッ」と再度渕に飛び込み、鬼の面、三番叟の面、翁の三面をとったが、あとの面は没した。
その後も刑部は刀を求めて毎日渕へ行ったが見つからず、七日後に急死した。
三面のうちひとつは高野山へ納め、ひとつは橋口家が保管し、もうひとつは領主に献上された。
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