この劇作家、詩森ろばは信用できる。
本気でエンタメ演劇で感動を伝えようとする気概を感じる。
3.11までどんな作品だったかは知らないが、今、きっと彼女は本気で切実だ。
きちんと資料に当たって台本に反映させているのが分かるから、すごく誠実だと思う。
序盤、20分で物語が退屈な方向に行きそうになった。
しかし性同一障害のキャラが出てきて、話が走り出した。
そこで初めて観客全員が世の中の偏見に改めて気づかされ、問題を共有するべき切実な芝居になった。
エンタメ作品を本気で作るってこういうことだ。
惜しむらくは物語を昇華しきれていないこと。
理由ははっきり、物語がジャンプする瞬間、ピークエクスペリエンスがないことだ。
誠実に資料に当たり、現実的な問題の抽出に苦心する余り、それに引きずられてフィクション的な飛躍がない。
だからこの作品は、現実を飛び越える瞬間がある、フィクション込みの続編を作るべきだ。
そしてその時は(きっとこの劇作者なら大丈夫だと思うが)、現実には問題解決不可能なことにへこたれてしまわないこと、あくまでハッピーエンドを目指すことが大切だ。
そして本作のDVDもぜひ売って欲しい。
僕の勉強の為に、ぜひもう一度見たいから。
そういう意味で、ビリーエリオットなどに較べるととても惜しい作品だった。
でも絶対に見る価値はある。
こういう挑戦があるから、私たち演劇ファンは常に芝居で元気を与えてもらえるのだ。
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