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2017年05月05日21:24

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春を捕まえに横須賀へ

 去年の7月に世界を席巻したポケモンGO!は、その後どうなったのだろう。一時期、私の住むエリアには大勢のゲーマーがスマホをかざして歩き回っていた。
 本日も引き続き快晴。春を捕まえに鎌倉を出た。ポケモンとは比べ物にならないくらい春はあちらこちらにいる。ポケモンと違ってスマホは要らない。どこかに麦畑でもあれば穂が出る頃合いだからいいのだが、あいにく三浦半島では見たことがない。大船の植物園だと今ごろはアヤメが見頃なのかな。
 横須賀だ。ヴェルニー公園は市民ボランティアがバラを丹精込めて育てている。今日のような青空だと普段でも穏やかな内海は凪で鏡面のようになっている。海面上には春春春春春……と無限に春が沖合までひしめく。1年365日停泊している原子力空母も日本のイージス艦も仲良く日本海へ出張中なので、目障りな障害物もない。
 横須賀駅に行く途中に、ほとんど知られていない田浦駅がある。駅の両端の先は共にトンネルで、不思議な空間が広がっている。どうしてこんな山と山の間の窪地に駅があるのだろう、と40年以上、不思議な気がしている。海軍機関学校の先生をしていた芥川龍之介は鎌倉・横須賀間を往復していた。うら寂しい田浦駅の風景に絶対、魅力を感じていたはずだ。線路脇は青々とした雑草のデパート状態で、ここで最初に春を見っけ。
 トンネルを抜けるといきなり春の陽光、続いて横須賀港が見えたかと思うと海から潮の香りが漂う。鎌倉からわずか15分くらいで、三浦半島を縦断。小さな半島だ。稲葉真弓さんの『半島へ』は傑作中の傑作だけど、その万分の一でも彼女の感性が欲しいところだ。
 横須賀駅で降りて、港に沿ったヴェルニー公園を歩く。予想していたよりバラの育ちは遅かったが、それでも公園のあちらこちらで花は咲いていた。黄色と白より、赤が目立っていた。花もきれいだが、いまの時期の葉は若々しい緑で、生命力が感じられる。バラの葉はあっという間に汚くなるので、この葉っぱも春だ。
 連休なので、行き交う人は多い。でも(横浜の)山下公園よりましだろう。横須賀は米軍関係者とヤンキー(日本人の)が多いので、まだ5月初旬だというのにタンクトップや短パン姿の人が目立った。私はコットンセーターを着ている。
 知人の中華料理屋を目指す。彼とは8年前に入院としたときに知り合った仲で、呆れたことに病院裏にある喫煙所で友だちの契を交わしたのだった。彼の作る中華は、「昭和の大衆中華料理」としては、日本で2番目に美味しい。1番と書けないのは、私が食道楽ではないからで、大言壮語をしたくない。
 私が社会人になった頃まで、酢豚の基本味は醤油と酢と砂糖が基調で、タレは黒に近かった。いまの酢豚は大衆食堂であれ中華街であれ、トマトピューレかケチャップが入っていて、多少とも赤みがかっている。彼のこしらえる酢豚は黒い。酢豚に限らず彼の手によるあらゆる料理は、昭和40年から50年代当時の「大衆中華料理」で。私世代の料理上手な母親の味だとも言える。知り合って8年。彼の一品料理メニューはほぼすべて食べた。ハズレなし。ホンネを言えば、中華街で食べる中華料理より彼の料理のほうが、私には親しみやすい。
 食べている途中で、だいたい1回か2回、心の中で涙ぐむ。それはなつかしさでもあるし、彼が元気な様子でもあるし、自分がいまも生きているという実感でもある。
 そんなに話し好きではない彼と、5分くらい話す。
 たくさんの客は来て欲しくないこと。働けるだけ働きたいとは思うがお金は欲しくないこと。自分の味を守っていきたいこと。
 半年後にテナントビルが建て替えになるので、場所を移さなければいけない。
「でもまだ物件探しはしていないんだ。俺は不器用だから、新しい物件を見つけてしまうとこの店に魂が入らない気がするんだ」
 そんなことを彼はポツリポツリと私に話す。私と似て少し人間嫌いなところがある。だから私は通い続けているんだろう。
 おいしかった、ありがとう!
 心を込めて彼に挨拶をして、店を出た。
 帰りにさいか屋で開催している「鉄道忘れ物市」に寄った。3日前、テレビニュースの企画モノで、このイベント特集を偶然に観た。あ、フリマより10倍面白そう、絶対に行ってみようと、そのとき思った。鉄道での忘れ物だと何があるんだろう。少なくとも傘はいっぱいあるだろな。
 現在使用している複数の傘はいずれも10数年使い続けている。物持ちがいいというより、酒を飲まないこともあって忘れ物をしにくいのが原因だ。折りたたみを含めてて4本をその時々の気分で使い分けているのだが、そろそろ1本買って気晴らしをしたい。
 催事場へ行くと、やっぱりいちばん目立っていたのが傘のコーナーだった。いったい何本あるのだろう。デパートの売り場と同じくらいに揃っている。
 値段は子ども用の1本100円からブランド物の新品6千円くらいまで。
 私は特価品だとおぼしき一角から16骨の風に強い傘を選んだ。大雨のときのラズリ散歩用傘としてゲット。少し生地に汚れがあったせいか200円だった。これで梅雨を楽しく迎える準備ができた。これも春と言えば春の個人的な行事だ。
 ささやかな贅沢の、春の一日だった。
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