シネマ・カリテで「アイヒマンの後継者 ミルグラム博士の恐るべき告発」を観る。ユダヤ系アメリカ人スタンレー・ミルグラムは、ヨーロッパで同胞が大量虐殺されたことに衝撃を受け、学者を志す。
ミルグラムが1961年にエール大学で行った服従に関する実験から始まる。
被験者2人にくじを引かせ、先生と生徒役に分かれ、先生の質問に生徒が答えられないと、電流が流れる。答えを間違えるたびに電流が強くなる。しかし電流は流れておらず、生徒役も仕込みで、悲鳴を上げるだけ。教師役の被験者が、命令に従い続けるかを観察するのが目的。
長い邦題と違い、アイヒマンは記録映像で少し出てくるだけ。被験者たちが誰も電流を止めず、「指示されたから」と答えるのが、「上司の命令でやった」と裁判で答えたアイヒマンと共通することからつけた題名だろう。原題は「EXPERIMENTER」。
この実験の映画化と思っていたが、実はミルグラムの伝記映画。主演のピーター・サースガードの超然とした雰囲気は悪くないが、いきなり観客に向かって話しかけたり、あからさまなスクリーンプロセスなどの演出が、どれほどの効果を挙げたかは疑問。
それよりも、後の妻となるウィノナ・ライダーの女性とのエレベーター内での不思議な出会い、実験を繰り返したために、ケネディ大統領暗殺を信じてもらえない悲喜劇、そして実験がテレビドラマ化され、出演のウィリアム・シャトナーとオシー・デイヴィスと語り合う挿話の方が記憶に残る。
この映画はストーリーよりも、自分が電流を止めるか、悪意ある力に逆らえるかを考えさせることの方が重要ではないか。
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