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2016年08月19日16:19

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映画『君の名は』試写会レビュー[2016年8月26日公開]

★★★★★特選
 昭和生まれには『君の名は』というタイトルを聞くと、1952年にラジオドラマを浮かべてしまうけど、本作は全く新しい平成の青春物語でした。共通点は、すれ違うところとお互いの名前を知らないこと。少しネタバレすると、時空を超えたすれ違いが描かれるところに斬新さがありました。

 物語は、1000年ぶりという彗星の接近が1カ月後に迫ったある日のこと。長野の山深い田舎町糸守町に暮らす女子高生の宮水三葉(声-上白石萌音)は、自分が東京の男子高校生になった夢を見る。日頃から田舎の小さな町に窮屈し、都会に憧れを抱いていた三葉は、夢の中で念願だった都会を満喫するのです。
 一方、東京で暮らす男子高校生の立花瀧(声-神木隆之介)も、行ったこともない山奥の町で自分が女子高生になっている奇妙な夢を見ていました。 繰り返される不思議な夢。そして、明らかに抜け落ちている記憶と時間。 何度も入れ替わる身体とその生活に戸惑いながらも、現実を少しずつ受け止める瀧と三葉。 お互いの抜けた記憶の穴を埋めていくため、二人は互いの体験したことをメモに残すことにします。そのメモを通して、二人は互いに会話し合い、時にケンカし、時に相手の人生を楽しみながら状況を乗り切っていくでした。

 しかし、気持ちが打ち解けてきた矢先、突然入れ替わりが途切れてしまうのです。 入れ替わりながら、同時に自分たちが特別に繋がっていたことに気付いた瀧は、会ったことのない三葉に会いに行こうと決心します。 辿り着いた先には、意外な真実が待ち受けていたのでした…。

 ストーリーのポイントは、瀧と三葉がリアルには出会えないこと。そして時間が立つとお互いのお名前も忘れてしまうこと。なぜ出会えないのか、それでもふたりは出会えるのだろうか、ストーリーは大きな謎を残しながら、ラストの『君の名は』のタイトル画面へ突入していきます。その伏線の張り巡らせ方が予想もつかない展開なので、ついついどうなるのだろうと引き込まれるのです。
 すれ違う思いをよくある精神的なズレや物理的な距離や時間のズレではなく、全く別な発想で出会えなくした上で、ふたりの入れ替わりを思いついた点は、なかなかの着想ではないでしょうか。もどかしい恋模様に、きっとキュンとなりますよ。

 またラストに彗星の接近から町民を守ろうとする三葉の活躍するシーンは、なかなかダイナミックで、スリリングでした。三葉の救助活動に、出会えるはずのない瀧がどう関わっていくのかというところも見どころです。

 そして思春期の男女が入れ替わるシーンでの、瀧と三葉が驚くシーンがリアル過ぎて愉快でした。三葉が、朝起きてみるとあるものがにょきにょきと勃起しているわけですから当然ビックリするわけです。股間をまさぐっているところを母親に見られて赤面する、なんてところも描かれていました。瀧も朝起きたら突如胸が大きくなっていて、確認のため何度も胸を揉んでいるところを妹に見られてしまうのです。このように一つ一つのシーンの心理描写が細かく描かれているのも本作の魅力です。
 
 最後に、本作に込められた新貝ワールドの魅力について、補足しておきます。
 前途したように、まず一番の魅力は情景描写の美しさにあります。特に空と雲の描写は素晴らしい!また背景の描写にも手を抜かず、繊細そのもの。予算の関係で背景描写に手を抜くアニメ作品もありますが、何気ない風景にも、そこにはヒビットな物語が反映されていて、物語の雰囲気を醸し出す大切な要素だと思うのです。
 なかでも宮守神社の祭礼の美しい描写と奥の神域の神秘的な描写には新海監督の日本の神々に対する畏怖の念を感じました。そこがシブリと大きく違うところですね。
 惑星の接近など、どこか現実離れした設定にも、監督の畏怖の念いが反映しているのかもしれません。そんな幻想的な設定が、この物語の描写をいっそう耽美なものへ駆り立ててくれることでしょう。

 次に、深い余韻に満ちたモノローグ(独白)も素敵です。
 全編に渡って、飾り気のないリアルな台詞づかいの本作。なのに詩的で胸を打ちます。なかでも登場人物が心の内を語るモノローグでは、心にすっと染みこむ言葉ばかり。
 絵の美しさばかりでなく、台詞の言葉にもきっとグッとくることでしょう。

 瀧役の神木隆之介は、声優をやらせても上手い! 三葉の行方を必死に追い求める瀧の
一途さを好演していました。

 大きな謎を秘めながら進んでいく本作は、二度三度楽しめます。ネタバレを分かってみることになる2回目には、全然違った観点で見直すことになるでしょう。

 シブリが大作から撤退して2年目の夏。精巧な情景描写とで、繊細な言葉選びで、ストーリーにぐいぐい引き込まれていく傑作。そんな新海監督のファンタジック世界観を余すところなく描ききった本作により、新海監督は今後のアニメ界のトップリーダーに躍り出るだろうと感じさせてくれる作品でした。

●Introduction
 『星を追う子ども』『言の葉の庭』などの新海誠が監督と脚本を務めたアニメーション。見知らぬ者同士であった田舎町で生活している少女と東京に住む少年が、奇妙な夢を通じて導かれていく姿を追う。キャラクターデザインに『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』シリーズなどの田中将賀、作画監督に『もののけ姫』などの安藤雅司、ボイスキャストに『バクマン。』などの神木隆之介、『舞妓はレディ』などの上白石萌音が名を連ねる。ファンタスティックでスケール感に満ちあふれた物語や、緻密で繊細なビジュアルにも圧倒される。

 1,000年に1度のすい星来訪が、1か月後に迫る日本。山々に囲まれた田舎町に住む女子高生の三葉は、町長である父の選挙運動や、家系の神社の風習などに鬱屈(うっくつ)していた。それゆえに都会への憧れを強く持っていたが、ある日彼女は自分が都会に暮らしている少年になった夢を見る。夢では東京での生活を楽しみながらも、その不思議な感覚に困惑する三葉。一方、東京在住の男子高校生・瀧も自分が田舎町に生活する少女になった夢を見る。やがて、その奇妙な夢を通じて彼らは引き合うようになっていくが……。
[2016年8月26日公開]

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