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2016年08月07日04:29

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映画『シン・ゴジラ』作品レビュー

★★★★★特選
 12年ぶり、29作目の日本版ゴジラ映画。

 本作に登場するゴジラは、原点回帰して1954年の第1作「ゴジラ」同様、全く未知の脅威として出現します。
 異変はまず、東京湾で謎のトンネル崩落事故を引き起されることから。政府は対策協議に入りますが、当初は原因がさっぱりわかりません。内閣官房副長官の矢口(長谷川博己)だけが、「巨大不明生物」の可能性を指摘します。しかし誰にも相手にされませんでした。ほどなくゴジラが上陸しても、政府は即応できません。法律に則った手続きにこだわるあまりに、現実に迫った危機よりも、危機に対応する法的根拠探しと手順に躍起になって、結論に至るプロセスを先送りしてしまう。そんな官僚や政治家のやり取りの何ともどかしいことでしょうか。その間にも「巨大不明生物」は、街を破壊しながら進み続けているというのに。

 そういう点では、パニック映画というよりも、架空のゴジラをメタファーにした政治劇というべきでしょう。

 ゴジラというのは現実の日本の問題点を浮かびあがられるメタファー(比喩的存在)なんです。作品のキャッチも、「現実Vs虚構」をうたっています。
 ではゴジラが浮き彫りにする「日本の現実」とはなにかというと、作品で描かれているような法律解釈にがんじがらめに縛られたわが国の防衛や危機管理です。
 「巨大不明生物」が日本を襲っても、官邸は日本国内の首都圏での防衛出動を躊躇うあまりに、まだ幼獣段階だったゴジラに危害の可能性がないと断定して、国民に安心して見守るように記者発表してしまいます。
 これは深刻な被害を具体的に受けないと、住民の生命や財産に二次被害の出るような軍事力の行使などリスクを伴う意志決定が出来ないという、今の政治の弱点をあぶり出していると思います。

 「巨大不明生物」による被害が深刻化するなかで、やっと自衛隊に防衛出動命令を発令して、重い腰を上げたかと思いきや、わずか2名の逃げ遅れた老夫婦を庇うあまり、攻撃中止命令を出して、「巨大不明生物」の蹂躙を野放しにしてしまうのでした。得体の知れない「巨大不明生物」も怖いけれど、国民の生命と財産が危機に晒させたまま放置される「現実」も怖いことです。

 『シン・ゴジラ』があぶり出しているのは、政治における決断力の欠如と責任の所在の曖昧さです。
 それはたとえ巨大生物が国土を蹂躙しなくとも、たった数名のゲリラが国内で破壊工作を行うとき同様の問題が発生することでしょう。

 さらに官邸は外国からの圧力にも弱腰であることを本作で露呈していきます。ゴジラ殲滅という大義名分のために、アメリカの言いなりになって、東京に核爆弾を落とすことに同意していく過程を凄くリアルに再現していました。
 この展開は、危機に屈していいのかと観客に問いかけてきます。そんなどうしようもない状況と格闘するのが、矢口副長官だったのです。官民から各分野のプロたちを集め、実効性のある一手を打とうとします。
 切羽詰まった情況に、かすかに希望を灯していくのは、熱い人間たちのドラマでした。
 自衛隊は相変わらず弱いけれど奮戦。その弱点を日本の科学技術力でリカバリーして、ゴジラに対峙していく過程がなかなか見物でした。

 それにしても、本作の官邸の動きや自衛隊の作戦行動のリアルさには脱帽しました。それを感じさせるためには、膨大な内閣府や自衛隊からの情報提供を受けてのものでしょう。
 脚本・総監督は、アニメ「エヴァンゲリオン」シリーズの生みの親、庵野秀明。2時間の枠組みのなかで、もしゴジラのような「巨大不明生物」が東京を襲ったらどうなるかという考証を、限りなくリアルティに再現させてみた庵野総監督の脚本は、なかなかの力作です。

 フルCGで描かれるゴジラは史上最大の体長118・5メートル。都市の高層化に併せてサイズを巨大化。そんなゴジラが都市を破壊していくさまは圧巻です。やがて火の海と化した都心にゴジラが屹立する光景は、恐ろしくも魅惑的。破壊はあらがいがたい神の意志のようにも感じさせてくれました。
 戦闘場面では、戦闘機や戦車のみならず、建設機械なども大活躍。まさに総力戦。ぐっと来ます。ついでに言えば、登場人物が声を荒らげる場面がほとんどないのもよかったと思います。

 長谷川、竹野内豊、石原さとみをはじめキャストは総勢329人!南原さんも出演していましたね。だからちょい役もなにげに豪華。意外な役者が、最前線にいる名もなき人間を演じることで命の重みも一層際立つというものです。
 また、演技巧者による紛糾する会議のシーンは見応えたっぷりの役者合戦を見せつけてくれました。

 とにかく日本の主立った俳優を総動員し、また自衛隊と日本政府の全面協力を得て製作された本作は、これまでの邦画のスケールを遙かに打ち破り、東宝の本気度が伝わって
傑作でした。

 それにしても、今回のゴジラをモーションキャプチャーで演じた野村萬斎さんの所作が秀逸。ゴジラに狂言のスピリットを与えて、動と静のメリハリを効かしてくれました。
 かなり腰の据わったポーズも狂言師ならでは、「胸騒ぎの腰つき」といえるでしょう(;´・ω・)


●INTRODUCTION
 『エヴァンゲリオン』シリーズなどの庵野秀明と『進撃の巨人』シリーズなどの樋口真嗣が総監督と監督を務め、日本発のゴジラとしては初めてフルCGで作られた特撮。現代日本に出現したゴジラが、戦車などからの攻撃をものともせずに暴れる姿を活写する。内閣官房副長官役の長谷川博己、内閣総理大臣補佐官役の竹野内豊、アメリカの大統領特使役の石原さとみほか300名を超えるキャストが豪華集結。不気味に赤く発光するゴジラのビジュアルや、自衛隊の全面協力を得て撮影された迫力あるバトルに期待。

 東京湾アクアトンネルが崩落する事故が発生。首相官邸での緊急会議で内閣官房副長官・矢口蘭堂(長谷川博己)が、海中に潜む謎の生物が事故を起こした可能性を指摘する。その後、海上に巨大不明生物が出現。さらには鎌倉に上陸し、街を破壊しながら突進していく。政府の緊急対策本部は自衛隊に対し防衛出動命令を下し、“ゴジラ”と名付けられた巨大不明生物に立ち向かうが……。
[2016年7月29日公開]

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