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2016年07月01日22:51

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下駄日記【30,000km報告・その2】

■二度雲洞を踏む

 雲洞庵はこの地域の名刹になっていることもあり、インターからは地図もナビも無しに行くことが出来る。案内標識が要所に立っているからだ。見渡す限り田が広がる。水が張られ、日の光に反射して眩しい。米どころ特有の光景が広がる。標識通り進んだら難無く着いた。舗装された農道の小脇にはかわいい庚申塚の石が並んでいる。のどかな田園の風景だ。

 ここは2度目。雲洞庵は曹洞宗の庵寺である。豪雪地帯ならではの工夫が随所に見られて他の曹洞宗の寺院と比較しても、一線を画しているところがユニークだ。特に火打窓は他県の曹洞宗のお寺にはちょっと見ない。ゴールデンウィークはさぞや賑わったことと思うが、今日は連休後の平日。観光客(というか参拝客)も地元長岡ナンバーか新潟ナンバーのセダンと軽自動車が3台。多摩ナンバーをぶら下げているのは自分のヴィッツだけだ。じっくり堪能出来る環境である。これだけ緑が溢れる名刹だから、秋の紅葉の時期は紅のカーテンが包むだろうが、緑溢れる今の時期も良い。何しろ観光客が少ない。

 雲洞庵は戦国時代、越後国内で禅に励む者であれば、「雲洞を踏んだか」という愛称で親しまれた。上杉謙信の息子・景勝と直江兼続が共に学んだ曹洞宗の禅寺である。2人が学ぶことになった背景に、当時の和尚である通天存達が長尾出身だったことが大きい。彼は謙信の姉・仙桃院が嫁いだ長尾政景の弟だったのである。が、NHK大河ドラマの「天地人」にもあったように、政景が事故死すると、景勝らはこの禅寺に引き取られた。仙桃院に見出された兼続もこちらで学ぶことになったのである。ここで四書五経を始めとする武将として相応しい教養を彼は身に付けた。

 お寺は禅宗でも臨済宗の禅寺に見られるような華やかさはないが、いかにも山寺という感じで、空気も清々しい。建物は本堂の火打ち窓がとても印象的で美しい。

 この名刹は坂戸山の麓に位置する。坂戸山には戦国時代、坂戸城という山城があった。この地こそ、直江兼続生誕の地とされている。

 知り合いに風水師がいるが、庵寺を包み込むようにして建てられたこの寺は山の龍の力を宿すと聞いた。それが本当だとすれば、山龍に護られて周辺の人たちをいつまでも見守ることだろう。


 ■数奇な運命を送った戦国武将

 
 帰りの宝物殿で興味深い人物の存在を知る。上杉景勝の代で荻田主馬(長繁)という名だ。上杉謙信は不犯の名将、と云われるが、養子に景虎と景勝がいた。彼は天正6(1578)年、信長討伐の為、6万人の兵を集めて翌朝進軍しようとしていた矢先に脳溢血で呆気なく斃れてしまう。なまじ雪国で身体を温める為、夜、酒を多く摂取していたことが脳溢血の原因ではと云われているが、彼が後継者を正式に指名する間もなく病死したことで、後継者争いに発展する(御館の乱)。直江兼続らと共に景勝を積極的に支援したのが、この荻田主馬で、乱で景勝が勝利した後、景勝は主馬を絶賛している。秀吉の時代になり、景勝は秀吉に臣従を誓う。北陸を戦わずして抑えた秀吉は大喜び。景勝、兼続だけでなく、主馬まで朝廷から官位を授けた。

 しかしその高い評価は長くは続かなかった・・・。

 文禄3(1594)年、上杉屋敷に招かれた豊臣秀吉は酒宴の後、薬を飲む為、主馬の嫡男・孫市が湯を秀吉に手渡そうとしたところ、こぼしてしまった。「豊臣家の天下に水を差す」と非難されたため、景勝は激怒して主馬親子に出仕を解いた(今で言えばリストラ)。景勝は感情を滅多に示すこともせず、関ヶ原の戦いで、西軍に与し、会津若松120万石から米沢30万石へ大減封された時ですら、家臣達をリストラしていないから、余程の事だったのだろう。

 その後秀吉の甥・秀次の誘いで仕官したが、待遇が悪くて辞している。が、結果的にはそれで良かったのかもしれない。秀吉は秀頼かわいさのあまり秀次一家郎党を殺しているからだ。彼が火の粉をかわせた保証は無い。ちなみに羽前(今の山形県)の大名、最上義光は娘を秀次の側室に嫁がせているが、その矢先にこの事件に巻き込まれ、彼女も連座して処刑されている。わずか数カ月の結婚生活だった。彼女はみすみす殺されに嫁いだものではないか。この悲惨な姫君の話は諸大名に伝わり、秀吉の残虐性が関ヶ原の戦いの折、上杉家以外、悉く東北の諸大名が徳川家康に味方する原因になったと指摘する人は多い。家康も流石で、秀吉に対する義光の怨念を最大限活用し、関ヶ原の戦いで勝利した後、羽前庄内の最上家を24万石から伊達家に比肩する57万石にまで大加増した。

 秀次の後に仕えたのは徳川家康の次男・秀康(結城秀康)。一千石で仕えている。転々としたが、薄給だったものの、貧しいながらに生活は安定。しかし父・家康は主馬の武勇を惜しみ、たかが千石で召し抱えているのは家の損失だと絶賛し、1万石に加増している。大坂の陣では越後高田2万5千石の小大名になった。上杉家出身の者では破格の出世といえる。

 数奇な運命を辿ったと思うのは自分だけではあるまい。結局彼は徳川家康という勝ち馬に従い、上杉家の中では唯一、小さいながらも越後の大名として戻ることが出来たのである。大河ドラマにも採りあげられてもおかしくない人物で興味深い。


 ■「日本のミケランジェロ」と元祖ミケランジェロの作品の違いを知る

 
 実は中越でもうひとつ見逃せない禅寺が自分の中にはあった。

 もう少し長岡寄りのお寺でこちらも矢張り曹洞宗。赤城山・西福寺開山堂という名刹である。小出インターを降り、17号線を一旦湯沢方面に南下。巡航速度が時速75kmくらいなので、名刹といいつつも、30分もしないうちに呆気なく着く。寧ろ巡航速度が速すぎて標識を見落としかねないほどだった。こちらも山を背にして建ったお寺だった。「日本のミケランジェロ」と評される石川雲蝶の作品が新潟県の重文に指定されている。圧巻なのは雲蝶の作品が展示されている「道元禅師猛虎調伏図」である。ただ展示されているのはお堂の吊り天井なのだ。曹洞宗の宗祖・道元が滝の近くで修業をしていた時に、虎が彼に襲いかかった。この虎を龍が現れて撃退(調伏)した図である。

 元祖ミケランジェロは石の彫刻で有名だが、石川雲蝶は木の彫刻である。このあたり暖かみを感じる。また両方とも宗教がテーマであることは多いのは共通だが、ミケランジェロの作品は厳格なキリスト教文化を感じずにはいられないのに対し、石川雲蝶のこの図も勿論宗教なのだが、よくよく見るとユーモラスな面も感じる。例えば道元を守ろうとして出現した龍の雲の中には小鳥がいる。修行場の滝には龍の影で何事も無かったように鯉が滝登りしている図も描かれている。ミケランジェロの作品にはピーンと張り詰めた緊張感を覚えるのに対し、石川雲蝶のこの図にはそんなアソビ心も感じるのだ。

 時間が無くて行けなかったが、新潟県内各地に彼の作品があるらしいので、そこからどんな人物像が炙り出されるのか今度見てみたいと思う。

 ここはお寺だが、観光バスも来ることが多いようで、50台ほど駐車出来そうだ。土産屋で新潟の地酒を買い、後にした。親類はどういう訳か、祖父以外日本酒は飲めない。ということで、旅館で地酒が無かった場合、夜酒としよう。

 
 ■ちょっと温泉レヴュー

 

 この日は栃尾又温泉に泊まることにしていた。持病にアトピー性皮膚炎があるため、源泉掛け流しの温泉ばかり泊まっている。その効果があってか、40歳以降は2カ月に一回、塗布する薬をもらいに通院するだけで済んでいる。この病気の厄介なところは通院を止めれば終わり、というほど単純ではないが、それでも生死に関わる病というほどでもないところにある。どう捉えるかは患者次第というところだ。

 栃尾又温泉へは小出インターを通過し、奥只見に向かって進むと出て来る。R352は進めば進むほどクルマの数が減って来る。山岳地帯に向かっている証拠ではある。標識通りに進むと当地に着いた。信号密度も減り続け、「筋斗雲」にとって、エンジンに負担が少ない好条件が揃いに揃って来る。赤城高原SAで給油して貰い、燃費はぐんぐん伸びてくる。19.9km/Lという良好な数値を示した。ハイブリッドカーでも無く、アイドルストップもないクルマでここまで走れば上々だろう。

 現地はこの地区で最も老舗の宿で、源泉掛け流しだが(この2つが最大のヒントなので、捜してみてください、笑)、お値段は高過ぎず、安過ぎず、リーズナブル。しかも一見さんの私に対しても全く気取っていないところは好感が持てる。地域の人たちにとっても穴場的存在のようで、この日も高齢者のご婦人たちが友達と湯治に来ていた。まあ、シティホテルで中国人のやかましさに辟易したことがある人間であれば、童心に戻った彼女達の大声などかわいいものだ。

 こちらの温泉はラジウム温泉だが、山梨の増富温泉とはまた違い、放射能に対する耐性をあげるのではなく、生命力をあげるタイプのようだ。泉質は飲水出来るほどなので、「当館は源泉掛け流し」という宣伝に嘘は無い。ただ、今の時期から10月までであれば良いが、早春、真冬では肌寒かろう。いつも41℃くらいで浸かっているので、こちらは温度は38℃くらいに感じた。
 
 温泉は熱い方が良い、充足感がある、というのであれば、群馬の老神温泉あたりに行く方が良いかもしれない。こちらはそれぞれ旅館が自分達の井戸を持っているので、源泉掛け流し、というところが多い。山を下りれば直ぐ沼田で必要最小限のものは揃う。インターも近い。物足りない人は滝もある。ひと足伸ばせば日光にも行ける。泉質は熱いからそういう方にはこちらの方が満足感は大きいかもしれない。

 何とこちらでは貸し切りも可能だ。幸いにして平日だったので、自分も体験した。40分までだが、泉質そのものがやや温めなので、これで十分という気がした。

 こちらは魚沼なので、食事は勿論今や世界的ブランドになっている「魚沼産コシヒカリ」。それをラジウム温泉の水を使って焚き、お代わり自由というのが付加価値になっている。パン食は休日、米食は平日、と割り切っている私だったが、結局4杯も小さいお茶碗にお代わりさせて頂いていた。

 まあ・・・おうし座で丑年生まれだから、食意地張っていない人の方が珍しい方かもしれないが(笑)。貧乏育ちの恩恵ゆえ、嫌いなものは全く無い。

 奥只見に近いということで、Wi−Fiは途切れ途切れ。ネットオフの生活も悪くないと思い、持参した安全衛生管理者の資格試験の参考書をめくり、就寝時間に近づくと、開山堂の土産屋で買った新潟の地酒を飲んで寝た。

 帰り、チェックアウトする際、駐車場を見ると、松本、大阪、岐阜・・・意外と新潟よりも西の地域からも観光に来ている人が目立っている。一瞥した限りだけど、関東のナンバーは私だけ。ネット時代の恩恵かもしれない。


 ■人生後半の他人との付き合い方

 
 こういう辺鄙な地域に来て同じ都道府県のナンバーを見ると無性に連帯感を覚える。街に降りて来たら品川ナンバーのBMW・Z4のドライバーがコンビニで話しかけて来たのは意外だった。

 もちろんそれっ切りで別れる。向こうはその気になれば0−400mで14秒台のスポーツカー。幾ら今乗っているヴィッツがヴィッツ・改と言っても差し支えないほど性能がアップしたといっても、ついて来て、と云われてもついて行ける訳が無い。悪く言えば上っ面かもしれないが、そのある種のちょっとした袖触れる程度の親しさが心地よい。人生の残り半分は多分切っている身としては、本音の付き合いよりも上っ面の心地よい付き合いの方が寧ろ重要ですらある。歳をとればとるほど、その重要度は増すと思う。

 帰りは渋滞の名所、花園と鶴ヶ島を16時までに突破すれば難無く帰れると見込んでいたので、早々と帰った。ETCの料金体系は複雑で行きは5,890円に対し、帰りは3,830円に留まった。これにガソリン代を加えても、確かに新幹線よりは安い。

 
 ■燃費問題に物申す


 熊本大地震が無かったら、確実にトップの話題になったと考えられるのが、自動車業界の相次ぐ燃費偽装問題である。三菱は軽自動車の販売台数で昨対比75%減に陥り、日産の傘下に入り、スズキも販売は苦戦を強いられている。ただ三菱の不正は相変わらず・・・という感じだったが、スズキの方は言っていることに一応筋は通っている。何回か記者会見を開いているが、その回答をまとめると次のようになる。

 「燃費を意図的に良く見せようとは全くしていない。試験コースは海風も強く、指定された方法で行なうと燃費が安定しない。そこで独自の方法で行なったら大差が無かった。後日指摘されたので、試験コースで定められた方法で行ったら、寧ろ指定された方法の方が好燃費であった。」

 とのことである。

 こんなことはクルマをお持ちの方だったら、言うまでも無いが、カタログ燃費など、余程好条件が重ならない限り、出ることは滅多にない。今回新潟に行き、新潟の郊外の道、高速道路という好条件でこそJC08(ポスト新長期)のカタログ燃費で20.6km/Lのところ、21.1km/Lと越えたが、普段東京の人口密度が1万人を越えるところで走らせると、のべつ幕なし信号で足止めを食う為、14.0km/Lがせいぜいである。

 スズキにしても、三菱にしても(スズキの場合は詐称した訳ではないかもしれないが)、JC08のカタログ燃費など、クルマにちょっと詳しいユーザーであれば、達成不可能な数値なのは分かっているはずだ、という思いがあったとしても何ら不思議ではない。

 そもそもJC08は誰が決めたのかといえば、経済産業省と国土交通省である。勿論クルマに長じた両省だから推進したのだろう。特にこの問題以前から、ユーザーの間でカタログ燃費なんて出鱈目だという批判が上がっていたからだ。そこで変わったJC08では25%をコールドスタートで行ない、最高時速もそれまで時速81.4kmだったのを引き上げたという。しかし、それで現実的な数値になったのかというと、まだまだ程遠い。

 この基準、本来環境負荷に対する意味であれば、環境省が推進せねばならないはずで、ユーザーのカタログ燃費に対する不信感を払しょくする意味では、消費者庁が口を挟んでも良かったはずである。
 
 その結果、新しい基準なのに、上がって来る実燃費は今回も非現実的であることを再認識せざるを得なかった。そこへ来てこの騒動でユーザーのカタログ燃費に対する不信は増すばかりだ。

 こんなお茶を濁したような燃費制度ではクルマ離れは増すばかりではないだろうか。

 最後までお読み頂き、ありがとうございました。

 (了)
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