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2016年06月21日17:01

1946 view

6/19 国吉康雄展〜少女よお前の命のために走れ〜@そごう美術館

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国吉康雄を観たのは27年前1989年庭園美術館で行われた生誕100年記念大回顧展だった(当時はよく図録を買っていた)。フランスに渡った藤田嗣治の“乳白色”に対して、アメリカに骨を埋めた国吉康雄の、“クニヨシブラウン”で描かれた女性は物憂げで私を魅了した。国吉の作品は色が素晴らしい。特に戦後は明るい色調に変わったのだが、当時の私はモチーフが示すメッセージまで理解が及ばず、以降ずっと「気になる画家」であった。これは行かずになるまい。
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http://www.yasuo-kuniyoshi-pj.com/pgSOGOEX.html

「日露戦争(1904-05年)が終わった翌年、横浜港から旅立った16歳の少年は 、二つの世界大戦をアメリカで過ごし、1952年、アメリカを代表する画家としてヴェネチア・ビエンナーレの会場に作品を飾りました。画家の名は国吉康雄(1889-1953)。20世紀前半という激動の時代、アメリカは国吉という類い稀な色彩センスと独自の絵画技法を生み出した画家を誕生させ、熱狂し、そして、冷戦期の社会情勢の変化と抽象画が絵画表現の主流となっていくなか、忘れていきました。そんな国吉の回顧展がワシントンで開催され、ワシントンポストやニューヨークタイムスは絶賛し、49万人が訪れました。今、アメリカは、国吉を画家としてだけではなく、自由と権利のために戦った社会活動家として、また多くの芸術家を育てた教育者として評価し、移民であり敵性外国人であった国吉が掴んだアメリカン・ ドリームを必要としているのです。 本展は日本初公開の大作「クラウン」や、国吉研究の視点を変えたといわれる「ウィリアム・グロッパーの肖像」を、国吉の故郷である岡山以外で初めて展示します。約50点あまりの油彩、カゼイン、水彩、墨絵などの作品に、研究者や国吉の教えを受けたアーティストのインタビュー映像などを交え、日米で再評価が始まった国吉の魅力を最新の研究成果と、国吉康雄と現代をつなげる、様々なアートプロジェクトや教育活用の現場の様子などと合わせて紹介します。」

構成は
少女からの手紙
国吉のアトリエ

旅立ち
デビュー
帰国
ヨーロッパへ
静物画が持つ意味
ウイリアム・グロッパーの肖像
ユニバーサル・ウーマン(戦争画)
心にある風景
クラウン
クラウン

修復プロジェクト


であるが、展示の仕方が一寸変わっている。
1946年に描かれた《少女よ、お前の命のために走れ》
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この絵の中の少女の案内で鑑賞しようと言う趣向だ。

国吉が生きた時代は現代と似ていると言う。急速な発展の中で経済や文化が世界規模で繋がっていく華やかな時代、が、一方で、自由や平和の価値が問われ、世界規模でおこる諍いで、国、命、昨日まであった普通の暮らしが奪われる時代。
二つめのセクションは国吉のアトリエを再現、画風の異なるそれぞれの時代の作品が並び、これらは撮影可であった。
ちなみに、国吉が撮った写真も多数展示(飼い猫はロシアンブルーだった模様?)。絵で食べられない時代に写真で食べていたと言う腕前。
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そして次からは年代順。絵の解説は一切無く、セクション毎に少女が問いかけていく。「私は何に向かって走るの?ずっと走り続けなければならないの?」

国吉の絵は年代がいくほどメッセージ性が強いのに読み解きが多重的で、惹き込まれるが難しい。ほぼ見終えたところで、2時からワークショップとギャラリートークがあると館内放送があった。これが実に面白かった。この日曜日が最高に楽しい日曜日になったのもこのイベントのおかげ。

本展の企画者で岡山大学准教授才土(さいと)真司のレクチャー。准教授と言っても日比野克彦風のお方。帰宅後ググってみたらこんな人でした。びっくり〜

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%89%8D%E5%A3%AB%E7%9C%9F%E5%8F%B8

まずはワークショップとして、絵を言葉で説明するという事を体験。二人一組になってひとりが目隠しをする。プロジェクターに写し出された絵を見て、それがどんな絵かをひとりが言葉で説明、質問もOK。目隠しの人はそれをを頭の中で思い描く。そして答え合わせ。大体イメージ通りだった人、説明は的確だったのにイメージしたものは全く別だった人、笑いが起きる。計4回行う。

実はこれらの絵に本展を読み解く手がかりがあった。

アンディ・ウォーホルフォト

ジョン・シンガー・サージェントフォト

ベン・シャーンフォト

国吉康雄《ここは私の遊び場》フォト

いずれもアメリカで活躍した画家である。時代的にみると、国吉はベン・シャーンと同世代、ジョン・シンガーはその前世代で、ウォーホルはその後の世代である。
同世代のベン・シャーンの絵は社会派でメッセージ性が強い。では、国吉はどうだろう?
国吉は自分の絵について全く語らなかったそうだ。聞けばはぐらかして煙に巻く。が、絵を観ると多くのメッセージが込められているのが分かる。
例えば《ここは私の遊び場》に登場するブランコの少女は冒頭の《少女よ、お前の命のために走れ》の少女と同じ。意味するものは?
「JU 4」は7月4日アメリカの独立記念日を示しているが、この文字は本展で他の2作品にも見られる(《カーニバル》《鯉のぼり》)。何故独立記念日?
また、繰り返し用いられるモチーフの中には「マスク(仮面)」もある。意味するものは?
《カーニバル》フォト

《鯉のぼり》フォト

面白いエピソードを話してくれた。
藤田嗣治と国吉康雄は同世代で共に外国で活躍した画家。有島生馬を介して最初は交流もあったが、戦争を機に徹底的に仲が悪くなった。戦後、藤田がアメリカで個展開催の時には国吉が邪魔しようと周りをうろついていたというし、藤田も国吉を「あんな度量のちっさい男」と公でけなしたそうだ。
藤田はもともと裕福な軍人の家の生まれで、第2次大戦が勃発すると帰国し国からの要請で戦争画を描いた。すでにフランスで確固たる地位を築いていたから「故郷に錦を飾る」面持ちで引き受けたのだろう。(もっとも、戦後は日本からの非難に失望してフランス国籍を取得)
一方、国吉は、移民としてカナダ、アメリカに渡り、職を転々としていた時に現地の人から絵の才能を見出され、絵描きになった人。いわば、アメリカンドリームを体現したわけだ。国吉はやがて単に優れたひとりの画家だけでなく、絶大な人気を誇ったカリスマ的存在となり、アーティストでありながら、社会活動家、教育者でもあったので、その言動は大いに人に影響を与えた。国吉にとってもアメリカ人は恩人で、奨学金を得る時や日米関係が悪化の時も署名嘆願や応援をしてもらい、多くの人に助けられたという。いざ日米開戦となる時、国吉は「敵性外国人」と認定されてしまった。が、国吉は日本に帰る事をしなかった。戦後もやはりアメリカに留まり、骨を埋めた。が、最後まで市民権は得られなかった。
国吉の心情を考えると、日本に全く帰りたくなかったわけではなかろう。が、帰れば、それまで応援してくれた人たちは敵性外国人の味方をしたと酷い目に遭うだろう。愛する人たちを裏切る事は出来なかったはず。もとより、アメリカの自由主義を愛していた。日本の軍国主義を率先して非難もしている。が、自由、平等を愛するアメリカに敵性外国人というレッテルを貼られ、自由、平等でない風潮が表れた大いなる矛盾に対する心情やいかに。

いろいろな思いが交錯して描かれた作品群。全く語ろうとしない画家本人とモチーフを手がかりに読み解こうとしてきた歴代の評論家たちをまずは忘れて、まっさらな気持ちで作品を観て下さい、考えて下さい、というのがこの展覧会の展示主旨とのことだった。

ギャラリートーク含めて1時間超。「会場では個別に質問して下さいね〜」と才土先生がおっしゃって終了、解散。すごーく面白かった!
もう一度観ていたら、すぐ近くにいらしたので、思い切って質問をしちゃった(我ながら、こういう時に勇気がでてしまうのだww)そしたら、《鯉のぼり》の鯉のぼりはたった1回の帰国時に日本から持ち帰ったものらしい、独立記念日の文字とともに赤で描かれているのは何故だろう、等とまた別のエピソードもいろいろお話しくださって感激。結局会場には3時間半以上もいた。

最後に、気に入った作品を画像がある分だけ紹介。

《カフェNo.2》フォト
ヨーロッパ滞在時代のリトグラフ。モンパルナスのカフェかな。

《くつろぎ》フォト
国吉は敵性外国人が誰をモデルにしたか悟られないように(モデルに迷惑がかかる)、デッサンをしてから半年放置してから描いたそうだ。そのためだけかどうかは分からないけれど・・・肌の色はあらゆる人種の色を混ぜた色にした、と。

《西瓜》フォト
片方は熟れすぎているようにみえる、よくみると不思議な静物。何を意図しているのだろうと考えてしまう。(全く映り込みのない最新高級アクリルガラスがはめてあった)

《彼が王様》フォト
雄鶏の表情が印象的。タイトルも意味深で・・・雄鶏は誰なんだろう?

《安眠を妨げる夢》フォト
戦後の国吉の色遣いはさらに美しい。白地の上に真っ赤を塗り、その上に薄く青、白、黄色を重ねると、赤が透けるようにみえる。独自の色彩感覚。17年前はクニヨシブラウンばかりに眼がいっていたけれど、今回はこの美しい明るい色に魅せられてしまった。

《クラウン》フォト
相当傷んでいたものを修復し、60年ぶりに展示。大きい。強制収容された日系人のチャリティのために描いた作品。

7月10日まで。
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