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2016年05月12日20:16

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奇跡的な買い物

 昨夜、入眠剤を飲んだ直後、奇妙にして正当でもある考えが浮かんだ。
 詩人を研究するにあたって、生前に出した唯一の”自費出版”詩集『木葉童子詩経』の完全コピー本を読んだ。この詩集は詩人が6年にわたって隠棲した湖に戦後建てられた旅館に1冊だけ残っている。だからその原本は手に取っていて、デジカメで接写もさせていただいている。本の装幀を研究するわけではないので、私にとって原本であろうがコピーであろうが影響はなかった。自費出版ゆえ刷り部数も少ないだろうし、東京や甲府では大規模な空襲もあったので、あるとしても多く見積もってせいぜい10冊だ。だから古書目録や古書店総合サイトで探すことははなから考えがなかった。そろそろMacの電源をオフにして寝ようとしたところで、お遊び感覚のような気分で詩集名を打ち込んだら……。
 1冊、検索で挙がった。
 目を疑った。
 ときどきクスリの影響で夢を見るがごとき幻想を抱くことがこれまでにあるので、話半分で信じ、注文することなく30分後に眠った。
 朝、ラズリの散歩を済ませたあと、昨夜に見たネット古書店に飛んで在庫目録を調べると、やっぱりあった。
 値段は小遣い1カ月分の相当額だが、躊躇なく注文した。横浜の古書店なので、「もしよかったら本日クルマで買いに行きます」と備考欄に書いた。 
 1時間くらい経ってメールをチェックしたら、ゆうパックで発送いたしました、という文面だった。ネット限定の古書店なのかもしれない。明日には届くようだ。
 飛び跳ねたいほどにうれしい。
 その勢いで、山梨県立文学館の担当学芸員に電話をした。
 3カ月ほど体調を崩して思うように読解できなかった、写本し始めたら想定外に時間がかかったなどと言い訳がましい説明をした上で謝罪。そして相手がひるんだ隙に「4月末は過ぎてしまったので、5月末ということでどうでしょう?」と、「水曜どうでしょう」の大泉洋を軽く真似て質問し、彼女から「いいでしょう」という答えを引き出すことが出来た。
 引きこもり生活から軽口を叩けないようになった自分には、たいへん珍しいことだ。原本を入手出来るということがよほどの勇気になったと思う。
 午後3時、ラズリと散歩・午後の部。
 途中でご近所の保護犬活動に詳しい男と出遭ったので、虐待を受け続けているボーダーコリーについて再度、相談してみた。
 私がボーダーコリー宅の隣人から相談を受けてかれこれ3年になる。いろいろと奔走するも解決出来ず、放置状態にしていた。が、昨日、「見るも無惨なほどに毛が汚れていて、わずか50センチの紐で繋がれていて、ウンコだらけ」とその隣人さんからまた聞かされた。
 私から話を聞いた彼は少し首を傾げ「ひょっとして、この道を猛スピードで走るオデッセイ(ホンダのクルマ)に乗っている女性?」と訊いた。
 そうだ、彼女の家を見に行ったら、オデッセイが駐まっていた。それにしても、犬だけじゃなく素行も悪いんだ? これはこれで難敵だね、と私は応える。
 個人で注意に行ったところで聞く耳は持たないだろうから、保護団体の代表者が押しかけて引き取るくらいのことをしないと、前進出来ないと思うよ、と付け加えた。
 しばし考えて彼は「保護団体にあたってみる。引き取り手についても心当たりがあると言えばある。少し時間をくれ」と言った。
 これで一段落とは言えないが、気持ちが少し軽くなった。
 散歩から戻って、詩人のご長男に手紙を書き、それをファクスで送った。
 借り受け期間を今月末にしてもらったことに加え、原本が明日手に入ることになった、という慶事もうち明けた。書くのを控えようかと思ったが、続けて書いた。
 しばらく私がお預かりしたあと、差し上げたいと存じます。
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