さて短篇小説の歴史で重要な位置を占めるカフカですが、
私の周囲では「難解で現実味が無く読み方がわからない」と、
色々有名なワリに好かれて無いと判明したカフカさん（−ω−）
私としては逆に「カフカはパターンが決まってて楽に読める」と思って読んでますので、
自己流ですがカフカの簡単な楽しみ方を書いておこうと思います！
今回取り上げる作品は４つ、いずれも長い話ではありませんよ〜（・ω・)ﾉｼ
「流刑地で」（青空文庫
http://www.aozora.gr.jp/cards/001235/card49867.html
「判決」（青空文庫
http://www.aozora.gr.jp/cards/001235/card49865.html
「家長の心配」（青空文庫
http://www.aozora.gr.jp/cards/001235/card49858.html
「橋」（個人訳（１２行目から）
http://kamiyadouhompo.blogspot.jp/2013/02/die-brucke.html
ではいきましょう！
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実はカフカは、僅かなテーマと手法の組み合わせで不条理世界を演出しています。それは
1,主なテーマ：不可知性
2,主な手法：現実とフィクションの混合
になります。
2,手法に関しては特に説明は不要かと思いますが、
テーマに使われる1,不可知性、に関しては説明致しますと、
要するに「物語の本質、結末、核心が存在するか否か確認できない」という状況を利用しており
作中の核心部分が見当たらない為、自然と理不尽で不条理な世界が構築されて行くのです。
シンプルな例としては、
”冒険譚の目的となる宝が最初から存在してなかった物語”という物や
”推理小説で最初の定義が間違ってるので、絶対結論にたどり着かない物語”などです。
そしてカフカの場合はこの1,不可知性を更に２つに分けて使っていまして
a,本質や核心の部分がそもそも存在してなかった、本質の虚無
b,本質や核心の部分がすりかえられている、本質の変異
この２つの大まかに分類出来るようになっています。
a,本質の虚無、の話は物語が当然核心に辿り付く事は有り得ない、
更に物語が主人公や読み手を核心から遠ざける性質を持っています。
主人公も読者も、物語の外堀をうろつき、遠めに隠された核心をチラ見する事だけが許されており、
自分が歩いた足取りや、道筋が暗喩する”何か”で、核心を予想する事になります。
単純に考えれば意地の悪いだけの物語にも見えますが、
これが後に述べる手法と上手く融合されるのです。
b,本質の変異、は核心や本質が最初から読者や主人公の前に提示されてますが、
それが”何か奇妙なもの””何か奇妙な現象”であり、
これまた核心が何であるか、誰も断言出来ない状況に追い込まれてしまいます。
手法の話に移りますと、これもカフカは２つに分離して使い分けてたようで
c,幻想から現実へ
d,現実から幻想へ
と、この２つの流れを用いています。
どちらの流れを使うにしても、問題になるのは境目になる部分、現実と幻想を繋ぐ部分です。
そこを相似、鏡面対称、射影と言った”本質や核心じゃなく、その残像や影絵を写し取る”という、
前述の不可知性と非常に相性の良い手法を選択してると言えるのです。
そして結論として、カフカの物語は
（a,本質の虚無、b,本質の変異）×（c,幻想から現実へ、d,現実から幻想へ）
この２×２の４つの基本パターンを縦糸と横糸のように使い、
千差万別の短篇や長篇を書き上げていった作家だと定義出来るかと思います。
さて、これを実際の作品と照らし合わせてみましょう！
今回、「城」「審判（訴訟）」「変身」など有名長篇は、上記の構造を
入れ子（枠物語）や反復構造、二重対称などで複雑化してて説明が長くなりますので、
それぞれに当てはまる（と私が思ってる）短い作品を４つ挙げてみた次第です〜
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「流刑地で」 a,本質の虚無×c,幻想から現実へ
流刑地で一人の将校が、異様な刑罰（最終的に必ず死刑）を下す、異様な機械を管理しています。
そして彼は、単なる訪問者である主人公がこのシステムを存続させるか否かを判別する
流刑地の所長や上層部から派遣された人間と断言し、主人公に機械の説明と実演をしようとします。
しかし、本来は部下の処刑のはずが最終的には将校が、しかも機械の故障によって唐突に処刑され、
その後、主人公が島と島民の様子を見回り、最終的に島を見捨て帰途に着くところで終わります。
これはカフカが何度も取り上げるテーマですが、”司法と刑罰の本質は虚無”と捉えた話です。
最初は異様に思えた機械と将校が、結局は信念を持ち司法と刑罰の理想を追求してた存在でしたが、
”究極的に人間性を排除した司法と刑罰は、不条理な結果しか生まない”という、
後段を通して仮定から現実に投射されていくと見て良いと思います。
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「判決」 a,本質の虚無×d,現実から幻想へ
結婚を控えて商売も好調な主人公が、ロシアで苦労してる友人への手紙で
結婚式に彼を招待するか否か、苦慮する所から物語が始まります。
そして招待の手紙を書き終えた後、身体や視力が弱った父へ友人の件を伝える段階で話は急転します。
実は手紙の相手は友人などではなく父で、
主人公は父と３年間文通していて、主人公は友人の現状など何も知らなかったのです。
身体や視力が弱ったと思い込んでいた父は、実は足腰も丈夫で、
尚且つ主人公が父親を商売や夫婦生活から排除しようとしている事も見抜いていました。
そして父親から死刑を宣告された主人公は『父さん愛してました』と言い陸橋から飛び降ります。
これは主人公が前段で語っていた事実が、後段で次々崩れ、現実も不確かになる物語です。
主人公と父の弁は矛盾し、言い負かされ飛び降りる主人公が虚言を言ってた様にも思えますが、
実は本文からは結局どちらが正しかったのか、判別できない構造になっていますね。
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「家長の心配」 b,本質の変異×c,幻想から現実へ
”オデドラク”と呼ばれる、動物の様な星型の糸巻きや木の様な生物の話、しかもしゃべる。
何者かわからないが、作中で一つだけ語り手が核心に近づく部分があります。
「死ぬものはみな、あらかじめ一種の目的、一種の活動というものをもっていたからこそ、
それで身をすりへらして死んでいくのだ。このことはオドラデクにはあてはまらない。」
と、この生物は生の目的が逆説的に変化した不死の存在＝『生きる目的が無ければ死なない』の
”可能性が高い”と言えるでしょう。
あるいは無害に見えるものこそ死の不安や恐怖の具現化という事も考えられますが、
やはり核心を突くには至らず、宙ぶらりんの感覚が残ります。
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「橋」 b,本質の変異×d,現実から幻想へ
擬人化された橋の独白から始まるこの物語。序盤は橋の役目を独白していきますが、
一人の男が橋を渡ろうとして状況が変わります。
男が橋の上をうろつき、背中に激しい痛みを感じた橋は身をねじり男の姿を見ようとしますが、
見事に崩落して木っ端微塵に・・・
この物語を、橋が崩落した瞬間を橋目線で逆説的に捉えた物と考えれば、
橋の最期をもたらした人物は、神様や運命、それに準ずる存在が変異した、と考えても良いでしょう。
橋は自分を破壊した人物を最期まで見る事が出来ず、ただ川底に小石と共に沈んでるだけ、という結末です。
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以上、私の勝手な解釈も多いのですがｗ核心が見えない小説は、読んだ人の数だけ解釈が有っても良いもので、
自分ひとりでも、読み直す度に新しい世界が広がっても良いモノだと思うのです。
近代や現代の作家さんは”言葉の性質”を利用した”手品”を頻繁に用いますので、
こういった主題や核心が意図的に隠された作品に、迷宮探索のつもりで飛び込む楽しみも有ると思いますよ〜
カフカ作品は、単純に不思議なおとぎ話として読むのも楽しいですしね。
では、今宵はこのへんで（・ω・)ﾉｼ
拓也◆mOrYeBoQbw
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