ラテンな漫画家

　これから昼ごはん、というところで友人の漫画家から電話がかかってきた。校正などについて相談に乗っているうち、あっという間に1時間が過ぎてしまう。なんだか危なっかしい気もしたが、版元の担当編集を尊重し最小限のアドバイスとお手伝いに留めておいた。
　友人知人は揃いも揃って人間力が乏しい。その中でも彼は頭がひとつもふたつも抜け出した筆頭で、ワールドカップに出てもギリシアのダメ人間を抑えて栄冠に輝くはずだ。再三再四この私見を彼には伝えているのだが、冗談だろうと取り合わない。
　相談のなかで「どうしたら売れると思う？」と問われ、言葉が一瞬詰まる。
　国会議事堂前で焼身自殺したら売れる、と応えたら、売れた印税は全額妻に行ってまうのでおもろないと言う。それなら本が出た週の金曜日、国会議事堂前で本とビラを交互に撒いて戦争反対と大声で訴えてみよう、と現実的な対応策を述べた。
「アカン、人がたくさんいるとこで大きな声、でえへん」
　うーん、このやり取りでは、ことさら彼がダメ人間チャンピオンであるという証明にはならないな。
「ところで、ひかりケーブルは料金が高うさかい、ADSLに戻そうか思てんねんけど、どう思う？」
　どう思うと言われても、HPを巡回するくらいならそれでも不自由ないのでは、と答えたら、「心配なのは無料AV動画が見られるかどうか、ということなんや。どやろ？」
　どやろ？　と私に言われても「ヤフー知恵袋」で質問したほうがいいと思う、と答えたのだが、なんだか不満そうだった。「私もAVは夜のお友だちやけど、ひかりでも23時台は繋がり悪いねん」とでも言って笑わせるのが正解だろうが、そのノーテンキな精神にイラッとしてしまったのだった。
　彼にしてもギリシア人にしても、常々ラテン気質というのはある意味うらやましく思っている。3年前の元日に「本年はラテンで行きます」と宣言したが、これほど難しい変革はないと言っていい。
　昨日、ギリシャの預金封鎖と取り付け騒ぎをニュースで見たあと、少しギリシャでググってみたら、こんなランキングで顔を出していた。

＜2010年の平均月収ランキング＞
1　　ルクセンブルク 397,000
2 ノルウェー 365,867
3 シンガポール 331,867
4 スイス 313,267
5 アメリカ 304,267
6 オランダ 265,200
7 スウェーデン 257,267
8 オーストラリア 254,733
9 オーストリア 253,067
10 デンマーク 252,000
11 カナダ 249,400
12 イギリス 248,200
13 ドイツ 245,200
14 ベルギー 243,667
15 フィンランド 231,533
16 フランス 226,200
17　 アイスランド 223,667
18 アイルランド 223,400
19 日本 223,133
20 スペイン 212,533
21 イタリア 209,067
22 ギリシャ 192,267
23 ニュージーランド 185,800
24 韓国 182,067
25 イスラエル 180,733

　ドイツ、フランスといったユーロの大国と較べて、わりと遜色ない給与水準だ。物価からすると、実質賃金は高いかもしれないくらい。
　ギリシャの公務員率は異常、なんて批判も数多くあがっていたが（20.7パーセント）、これも意外な数字で、フランスは24.3パーセントだった。問題にすべき数字でもない。ちなみに高校の同級生（男）は農協や日本赤十字のような非営利組織も含めると公務員率は5割近い（爆笑）。いくら四国の片田舎だとは言え、日本だって似たようなものである。
　ギリシアについていろんなデータを追っていくと、ぼんやりと一般市民像が見えてくる。
　昭和50年代くらいの物質的豊かさ、平成ニッポンと違って真の食い道楽で、仕事に根を詰めるようなことはなく、陽気でひとなつっこくって雄弁で（＠超優秀なルポライター小松成美さん談）、約束の時間はぜんぜん守らず、男は女の人にすぐ声をかける文字通りのラテン気質。
　こんな国情を知っているクソ真面目気質なドイツ人は怒るだろうな。
　ということより、やっぱ私は日本人がまったく気づかぬふりをしている貧しさを想ってしまう。新幹線で焼身自殺した老人は年金が12万円で生きていけぬ、という私憤だか公憤だがただの興奮なのだかわからぬ理由で自爆テロをしてしまったわけだが、実際、貯金がゼロの老人なら公的施設にでも入居できない限り、12万円で暮らせるわけがない。彼は杉並区に住んでいたらしいが、家賃だけで5万円以上かかるし、たとえ少額であっても年金は収入だから月々保険料も払わなければいけない。老人の貧困率は30パーセントだ、50パーセントだとまちまちな統計が上がっているが、潜在的な高齢貧困者は推定700万人で10年後には1000万人を突破する、という予測に大きな間違いはない。
　ギリシャの財政危機は高い年金もその一因、と新聞記事には書かれてあったが、逆に言うと日本の年金こそが異常に低く、12万円以下。もし厚生年金がないのなら6万円だぜ。正気の沙汰ではない。それなら生活保護申請をすればいいのだが、福祉予算を削る政策が自民の復帰以降毎年とられていて、対象者が増えて申請数は抑えられることになる。そう簡単に生活保護費は受け取れない。家族親族の繋がりがきわめて悪い日本は家族主義のギリシャよりもさらにセーフティネットがないため、どうするんだろう、と我が事、他人事とも不安を感じてしまう。私、いまいくら預金があって、年金額がいくらなのかも実は曖昧なので、なるはやで試算するべきなのだろうな。やっぱラテン気質になれない。
　21時からBSで「廃炉への道・全記録」。内容が想像つかない（苦笑）。まだ端緒にもついてないし、そもそも現時点で道はないのでは？　原発問題とか、リニア建設でのラテンはいやだなぁ。リニアで事故やテロがあったら誰がどう責任をとるのか？　電気とコンピューターで走るリニアなんてハッカーがサイバーテロを起こすことなんて簡単だ。