さて準備稿もラスト！「水葬」に至るまでのオルフェウスの死について、今までの準備稿を踏まえて解説したいと思います（・ω・)ﾉｼ
今回の絵はアーサー・ハッカー「バッカス(デュオニソス)の巫女」と、ジャン・デルヴィル「オルフェウスの首」です。このデュオニソスの巫女(処女の信徒)＝マイナスと呼ばれる女性達がオルフェウスの命運に関わってきます。
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冥府で愛妻のエウリュディケを再び失い、祖国トラキアでオルフェウス教を広めていたオルフェウスは、その音楽の才能も美貌も衰えず、人間や動物、植物さえも魅了していました。トラキアの乙女達も例に漏れずオルフェウスを振り向かせようと様々な手を尽くしましたが、オルフェウスは伴侶を失った悲しみから乙女達を側に寄せ付けませんでした。
デュオニソスの祭礼の日、酒神デュオニソスの信徒でもあるトラキアの乙女達＝マイナスは、ワインや儀式で興奮して「あそこに私たちを莫迦にする人が居る」と、丘の上で竪琴を弾くオルフェウスに手槍や石を次々と投げつけます。
しかし、オルフェウスの竪琴の音は海の妖魔セイレーンの歌声や魔物も寄せ付けない為、手槍や石はオルフェウスに届かず落ちていきました。
それで更に狂乱したデュオニソスの信徒＝マイナス達はオルフェウスに近づきながら一斉に大きな金切り声を上げて、オルフェウスの竪琴の音をかき消してしまいます。
そこに一本の矢が飛んできて、金切り声で音色がかき消された事でオルフェウスはその矢により腕を傷つけられ、竪琴を落としてしまいます。
そこに狂乱のマイナス達が飛びかかり、オルフェウスを八つ裂きにして、バラバラになった首や手足と竪琴をヘブルス河に投げ入れてしまいます。
竪琴とオルフェウスの首は、河に投げ入れられてからも美しい声で歌い続け、それを哀れに思ったミューズの女神達(オルフェウスの母はその内の一人カリオペーとされます)は、首や手足、竪琴をリベトラ(レスボス島)に集めて、島民達がそれを懇ろに葬り、石碑を作って奉ったと言われます。そのおかげでリベトラのウグイスは、ギリシアで最も美しく鳴くようになりました。
そして今度は魂となって冥府に行ったオルフェウスは、今度は気兼ねする事無く伴侶エウリュディケと常世で暮らした、と言う事です。
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さて、これがオルフェウス神話の結末ですが、ここに幾つかの矛盾と、モチーフの繰り返しが見られるのがわかります。
１．何故デュオニソスの処女(マイナス)達がオルフェウスを殺すのか？
前回お話した様に、”酒神デュオニソスはオルフェウス教における最高神”でありまして、デュオニソス信仰とオルフェウス教は表裏一体か、あるいは兄弟の様な関係と言えます。マイナスにとってはオルフェウスは宗教指導者に当たる筈なのに、何故この様な惨事になってしまうのか？
単純に集団ヒステリーや、ワイルドの「サロメ」の様な偏愛を考えても良いかもしれませんが、重要なのは”オルフェウス教は輪廻転生による、豊穣のサイクル”の宗教である事だと思います。
オルフェウスの亡くなった日がデュオニソスの祭礼日であり、尚且つ儀式が深く関わってる点から、
『オルフェウス殺しもまた豊穣と復活の為の儀式だった』
と、そう考える方が自然じゃないかと思います。それは次に説明する繰り返されるモチーフも裏付けになってきます。
２．オルフェウスとザグレウス
八つ裂きにされ亡くなるのは、前回お話したザグレウスと同じ最期になります。共通するのはそれだけではなく、ザグレウスは死んだ後に心臓をアテネ(あるいはヘルメス)から拾われ、オルフェウスはミューズの女神からバラバラの遺体と竪琴を拾われます。
いわば死後の肉体の一部、あるいは竪琴のような依代（よりしろ）を再び拾い上げる事が、ザグレウス、デュオニソス、オルフェウスに共通する復活の儀式となるのではないでしょうか。
これは農耕において、葉も茎も枯れ、腐った実から取り出した種が再び芽を出すサイクルですし、冬になり不毛の土地になったから、再び芽を出すサイクルを神々の生死に当てはめたものでしょう。
３．竪琴と乙女
オルフェウスの竪琴についても再び言及しておきましょう。冥府下りの時点で、竪琴が豊穣の力を象徴してる一つだと解説しました。今回もまた護符として手槍や石の攻撃を防ぎました。
しかしマイナス達の声や攻撃を防げずオルフェウスは命を落とします、それは何故だったか？
それは竪琴が豊穣の力＝産みの力＝女性原理の象徴だったから、と考えます。
オルフェウスの実際の永遠の伴侶は竪琴であり、それは名も無き豊穣の女神だったとそう考えると、「オルフェウス＋竪琴」が女性を必要としなかった理由も通りますし、逆にマイナス達の女性の声や攻撃は、竪琴の力と同質な物であるから防ぐ事が出来なかった、と考える事が出来ますね。
女性原理を象徴するアーティファクト(魔法の宝物)は、キリスト教の聖杯、ニーベルングの指環等々、オルフェウスの竪琴だけじゃなく後世の神話にもよく登場します。
そして、輪廻転生や不死の鍵となってる例が非常に多いのです。
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さて、こんな感じでアイディアを纏めてみました！今回は好きな絵画から伝承を辿って行きましたが、短篇にする時にはまた現代か近未来が舞台になると思います。
一つのモチーフが物語から物語へと繰り返される、というのは面白いですね。本編書くのがいつになるかは未定ですけど、書いたらお付き合い下さいませ〜(*´ω｀*)ﾉｼ
拓也◆mOrYeBoQbw
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