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2013年11月27日23:07

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ガリシア人と、フットボールを観に行く

勤め先の研究所は、年に一度、施設の公開をしているらしい。
先月のその公開日、せっかくの機会だからとツレが遊びにやってきたので、一緒に所内をブラブラしていると、突然、一人の背の高い外国人が、飛びつかんばかりに話しかけてきた。
「どうして君は、こんなところで、僕のホームタウンのシャツを着ているんだ!」

10月中旬にしてはやけに暑かったその日、同居人は、デポルティボ・ラコルーニャという、たぶんこれをお読みの方のほとんどはご存じないスペインの弱小サッカーチームのシャツを身に着けていたのだ。
その10秒後には、ガリシア地方アコルーニャ出身の彼と、横浜出身の我が亭主という二人のサッカーバカは、東京郊外のこの町で、数年前の欧州チャンピオンズリーグでデポルがイタリアの強豪ACミラン相手に演じた名勝負を二人して反芻し始めていた。
(そして、この夏にガリシアの中心都市サンチャゴ・デ・コンポステラでおきた痛ましい列車事故のお悔やみを述べることを忘れないのが、我がツレのなかなかよくできたところだ。)

記念撮影をした後で彼は、僕はこれから数ヶ月間ここで働くことになっている、と言ったのだが、「ここ」というのはまさかこの研究所じゃないだろうな、きっと「東京」とか「日本」っていう意味なんだろうな、とその時は適当に解釈した。


ところがそれから数週間後のある日、所内で、私は遠くにヒョロリとした外国人を発見したのだ。
あれ?あの時の彼だ。
「ここで」働くってのは、言葉通りの意味だったのか。
その時は話しかけるチャンスを逸したため、私はこの4ヶ月の間に張り巡らした情報網を駆使して彼と同じ研究室にいる若手研究員を捕まえ、やっとのことで彼のメールアドレスを聞き出した。

Eは音響関係の専門家で、スペインの企業に数年勤めた後、数年前からイングランドの大学の博士課程に在籍、どういうわけだかここトーキョーで半年ばかり騒音とかノイズとか、そういったものの解析手法を研究することになっているらしい。(この辺りのことは、アウトサイダーの私にはさっぱりわからない。)


とまれ、季節は秋。
11月も半ばにさしかかっている。
こいつは急がなければならない。
Jリーグは残すところあと数節、年内で日本のプロサッカーのシーズンは終わってしまい、来季開幕する頃には、彼はすでに東京を去っているはずなのだから。

先日はどうも。
ところでJリーグに興味あるかしら?
よければ、首都圏のスタジアムに一緒に行ってみない?
そうメールを書いて、残り4節、近場で観られる試合の一覧と、目下のビッグマッチをいくつかマークして渡すと、Eは、そいつは素晴らしい!実は今週末、一人でどこか探して行ってみようかと思っていたんだ、と大喜びで乗ってきた。

そして土曜。
カラリと晴れ上がった絶好の観戦日和に、Eはスペイン人であるにもかかわらず、スペイン人であるにもかかわらず、スペイン人であるにもかかわらず、こちらが指定した時間ぴったりに、待ち合わせ場所にやってきた、スペイン代表の真っ赤なシャツを身につけて。

Jリーグが創設されてはや20年。
カマモトやオクデラの活躍にもかかわらず、日本人はサッカーができないと思い続けている旧大陸と新大陸の人々に、私はぜひこの国の選手の、スタジアムの、サポーターの、熱狂と幸福感を知ってほしいと願っている。
それにはまず何をおいても、スタジアムを真っ赤に染め上げた大観衆が一斉に咆哮する、埼玉スタジアムでのゲームを見せなければならないのだ。

たくさんの屋台が立ち並んだ道をスタジアムへ向かう人々の荷物には、埼玉のゆるキャラ「コバトン」のマスコットがてんでにぶら下がり(ニホンではあらゆるプリフェクチュアにマスコットがいるらしい、とEも知るに至っていた)、壁面には、過去のビッグマッチでスタンドを飾った圧倒的なコレオグラフィの写真がずらりと並んでいる。
スタジアム前の広場で4分でラーメンをかっこみ(これは彼の生涯タイムレコードである由)、午前中の審判活動を終えてシャワーも浴びずに飛んできた亭主と、我々のチームメイトKと合流して、ビールの入った紙コップを片手に、ウキウキしながらスタジアムに足を踏み入れる。
E、 知らなかったかもしれないけど、スペインと違って我が国では、あらゆるスタジアム内でビールが何杯でも自由に飲めるんだぜ。
(スペインではスタジアム内に酒類の持ち込み禁止、イングランドではハーフタイムの15分間だけ売店で販売されるが、座席に持って入ることは許されないので皆その場でイッキ飲みするのだそうだ。)

この日の入場者は4万5千人。
スタジアムはアウェイエリアを除いて真っ赤に燃え上がり、サポーターはあらゆる選手のチャントを歌って、選手とともにウォーミングアップは完了。
この日の主審は、50歳を迎えて今だJリーグのトップレフェリーであり続けている吉田寿光氏、第一副審は、この3日後にマレーシアでアジアサッカー連盟の年間最優秀副審賞を受賞することになる名木利幸氏。
ビッグマッチにふさわしい、豪華な割り当てだ。
私は、我が軍の全選手の特徴と、予想スタメンをあらかじめEに伝えておいた。
もっともエレガントな選手はカシワギで、ハラグチは近いうちに欧州に移籍するかもしれない。
優秀なGKが二人いるが、おそらくヤマギシが先発するだろう。
マイフェイバリットではあるのだが、キックが上手くないのが難点だ。
二人のヤマダがいるが、若い方のヤマダは天才だけど怪我が多い。
ベテランの方はクラブのレジェンドだが、三菱自動車系のクラブであるにもかかわらず、平気でベンツに乗っている、云々。
ツレはその場で今日のフォーメーションを紙に書いて渡したが、その筆跡をEが解読できたかどうかは疑問だ。

吉田主審が試合開始のホイッスルを拭く。
Eはさっそくデジカメで、試合とサポーターの様子を撮影し始めた。
この試合に勝てば、我々は優勝に大きく近づくことになる。



試合後、我々は、混雑緩和のためにスタジアム前の広場に用意された即席ビアガーデンのテーブルの前に、ヤレヤレといった風情で腰掛けていた。
いや、独りKだけが、ニヤついた顔でビールをすすっている。
奴は川崎市民。
敵チーム川崎フロンターレのシーズンチケットまで持っているという悪党なのだ。

試合後の夜、Eから届いたメール。
" I really enjoyed and everything was great except the result ;( but I should say that this is football, sometimes you win, sometimes you lose but you have to be very proud of Urawa supporters, all the time supporting even when the team was loosing, this is the greatest thing of Urawa Reds. I was very impressed. "

温かい言葉をありがとう、E。
そうだよね、これがフットボールだ。
Jリーグができて20年、私の人生は、サッカーを知る前と知った後では、確実にこの20年の方が幸せなのだ。
いや、もしかしたら不幸なのかもしれないけれど、自分の不幸に気がつかない程度には、バカになれたってことだろうな、きっと。
来日2ヶ月で本物のサッカーバカと知り合えて、Eのフェイスブックも相当盛り上がっているに違いない。
最高の試合をお見せすることは叶わなかったけれど、たいていの場合、サッカーの試合なんて最低なものさ。
デポルサポーターのガリシア人なら、きっとそれはわかっているはずだ。



<その後の彼>
ラテン男とクールジャパン
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1920314861&owner_id=24016198
富士登山はゲームの前に  天皇杯決勝 横浜F・マリノス vs サンフレッチェ広島
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