これまで2作は外国の幻想文学のコラムでしたので、今回は日本の作品、それも推理小説を取り上げたいと思います。小栗虫太郎の「聖アレクセイ寺院の惨劇」（
http://www.aozora.gr.jp/cards/000125/card1318.html）です。
同じ小栗虫太郎作品で私の好きな「黒死館殺人事件」も名作で素晴らしい作品なのですが、なんせ大長編でコラムにしても幾らでも書けてしまう分量なので、
今回は「黒死館〜」の前日譚でもあるこの作品を取り上げる事にしました。
この「聖アレクセイ寺院の惨劇」も、昭和初期の作品の中でもキラリと光るものが有りますので、順に解説して行きます！
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まずは配置される人物と舞台が、ロシア・ロマノフ王朝の絢爛さを持っていながら、いずれもロマノフ朝崩壊（ロシア革命）による病巣を、何処かに抱えてると言う点です。
舞台は東京の聖ニコライ堂をモチーフにした聖アレクセイ寺院、しかしながらロシア革命により、旧来の支配層であり、革命後に迫害、粛清されてきた白系ロシア人の避難所になっていた経緯と、彼らが密告に今もおびえる日々が描かれています。
さらに登場人物も肉体的あるいは心理的な病巣を抱えており、事件の判明する以前の段階から殺人の予兆や下地を感じさせる、見事な描写が続くのが特徴的ですね。
革命後に母国を追い出された白系ロシア人の物悲しさも感じられ、物語の説得力を強くするのに加え、心理描写が事件の最後の決め手にもなってきます。
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物語はロマノフ朝の秘宝を巡る陰謀や、赤軍のスパイによる暗殺説から、上記の様な様々な人間像が絡み、様々な推理が展開していくと言うのも作品の特徴です。
特に小栗虫太郎は医学的考察や物理的考察を非常に緻密に書き、そこから推理を分岐させていく手法が得意なのですが、
その中でも”不動点”、つまり物語を貫く一本の謎を通して、話をぶれない様にしています。
この物語の場合は”鐘の音”と”登場人物の心理像”、この2点を不動点としており、その他で主人公や警察が色々な推理を試みても、最終的には不動点となってる謎の解決――特に心理像――により事件の解決を見る方法です。
特に前半は物理〜医学的考察に重点を置き、徐々に後半に登場人物が持つ犯罪心理に重点を移していく、言うならばコナン・ドイルのシャーロック・ホームズと、ヴァン・ダインのファイロ・ヴァンスの要素を両方併せ持った小説を、昭和初期の段階で書いていたと言えるでしょう。
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動機と異常心理を扱う作品は、横溝正史や江戸川乱歩作品も多いですが、小栗作品は医学的プロファイルや物理的裏付けも進めながら、心理の奥底に迫ると言う上手い作品です。
その最高傑作のひとつが「黒死館殺人事件」ですので、機会が有ったら読んでみて下さい。
比較すると面白いのはドイルのホームズシリーズや、ヴァン・ダインの「ベンスン殺人事件」「カナリヤ殺人事件」あたりがおすすめですよー
では今宵はこのへんで（・ω・）ﾉｼ
by 拓也 ◆mOrYeBoQbw
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