�掘シ邁爾龍兇両紊砲�
「おじさんは随分立派な格好をしてるね、そのシルクハットだって高そうだ」
「そんな風に見えるでしょうか？私の場合はこれが普段着な物で・・・・、
そういう貴方は、ライフルにナイフに背嚢と、お若いのにかなりの長旅をしてこられたご様子ですね？」
「うん、この先の南軍の駐屯地に行って志願しようと思って来たんだ。ボクの家はミズーリなんだけど、ミズーリは合衆国に残ったからね。
兄さんももう南軍の兵士なんだよ」
「家のお仕事などは、どちらも継がれなかったのですか？」
「うん、ボクの父はパプテスマ派の牧師なんだけど、収入は綿花畑なんだよね。ほら奴隷が居ないと仕事にならないでしょ？奴隷制度が良いとは言わないけど、綿花が作れなくなると父も奴隷も飢え死にしちゃうんだよ。
ボクはホワイトウォーターって所で別の仕事をしてたんだけど、兄さんが南軍に志願した知らせを聞いて、仕事を辞めてここまで来たんだ」
「家族の為に南軍に志願しようと決めたのですね」
「そうだよ」
「おじさん、
おじさんは頭良さそうだから聞きたいんだけど、この戦争は南軍が勝つかな？
そりゃ北軍の方が人数は圧倒的だけど、リー将軍や歴戦の将軍は南軍の方が多いよね。それと何より、南軍には金がたんまり有るじゃない。
北軍が何倍いたって、金で武器も兵士も弾薬も次々買えるんだから、南軍も勝てると思うんだ。」
「それは難しい質問ですね、
私が一つ言えるのは、新しいアメリカと古いアメリカが戦ってるという事だけです。
アメリカは膨大な金の採掘と奴隷労働力による農業生産で、短時間で歴史有るヨーロッパの国々に肩を並べるまでに拡大発展してきました。この方法論を守り伝統のアメリカを維持しようと言うのが南軍です。
しかし産業革命以降、工業力と流れ作業による大量生産で国を興そうという流れが現れてきました。馬車と馬の時代から既に鉄道の時代です。大量生産と大量輸送、高速輸送こそが国を豊かにすると、古いアメリカを切り捨てようと思っているのが北軍と言う事でしょう。」
「難しいね、でも金と工業力っていうのは結局どっちが強いんだろうね？金が無くちゃ工場も作れないし動かせないと思うんだけど」
「そうですね、でもいずれ新たな工業製品、土地、資源に付加価値が付き始めて、金や綿花の価値はそれほどでも無くなってしまうんです。
南軍は自由貿易で資源を世界に輸出したいのですが、貿易を保護しないと北軍の工業製品に付加価値は付かない。その違いで戦ってるんです」
「偉い人やお金持ちの考える事は解らないね。でも偉い人の都合なのは、おじさんの話でボクでも良く解るよ。」
「川から瓦礫に混じって、死体が流れてきてるね。」
「そうですね、昼に上流の方で大規模な戦闘があったようですね。」
「銃で撃たれた死体はボクもいっぱい見てきたんだけど、頭や身体に大穴が開いていたり、手足や首が壊れた人形の様に無くなってるのは初めてだよ」
「大きな銃痕は新式のミエニー銃ですね。南軍はイギリスから輸入、北軍はスプリングフィールドで大量生産してるものを使ってます。
命中率も威力も旧式銃より格段に上がってますね。
手足が無いのは榴弾の仕業でしょう。火薬と破片が遠くの人間を一度に吹き飛ばす新兵器です。」
「そうなんだ、軍服の人間以外にも大分、農民や女の死体も流れてきてるけど・・・・」
「武器の扱いが簡単に、高威力に、大量生産になっていけば、昔は職業軍人だけだった戦争から、新たに志願兵や義勇兵が中心の戦争に変わって行くものです。
それは戦争そのものの拡大と非戦闘員の犠牲拡大と同値と言えるでしょう。
この戦争が人類が体験する初めての国家を総動員した総力戦ですが、未来には更に多くの死者が出る総力戦が行われるのは間違いないでしょう。」
「武器を売ってる金持ちや、武器を買ってる金持ちが居なければこの流れてくる死体も減ってたんだね。」
「極論を言えばその通りです。」
「そういえば名乗ってなかったね、ボクの名前はジェシー（注１）」
「私の名前はグラシャラボラスです。」
「ミスター･グラシャラボラス、言い難い名前だね。でも昔聞いた事ある懐かしい名前って感じがするよ。」
「流れてくる軍人の死体は、南軍の制服ばかりだね。」
「上流の橋梁の攻防で、南軍が敗走したのかもしれません。ジェシー君が向かってる駐屯地も既に引き払っている可能性が高いですよ。」
「そうなんだ・・・・、じゃあ後方の駐屯地に向かって見るよ、ミスター・グラシャラボラス」
「お気をつけて、北軍の残党狩りも出ているでしょう」
「ありがとう、ボクは北軍も金持ちも好きじゃないけど、ミスター･グラシャラボラスのような人は好きだよ。ボクが将軍みたいに有名になったら、また会えるかな？」
「おそらく、会えると思いますよ」
「じゃあ、さようなら」
「さようなら」
注1、ジェシー･ウッドソン･ジェームズ（Jesse Woodson James）―アメリカのガンマン、無法者、殺人者
南北戦争時は南軍のゲリラ部隊に所属し、終戦後、兄や戦友と強盗団を結成する。1866年に歴史上初の銀行強盗に成功、ジェシーは金持ちから財産を奪う事をモットーと公言していたが、無抵抗な銀行員をナイフで殺した事により、急速に人望を失っていった。
1882年、賞金目当ての仲間の裏切りによって死亡
by 拓也 ◆mOrYeBoQbw
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