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2013年03月29日23:41

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アレクサンドル・メルニコフ@東京文化会館 小ホール

昨年2月のイザベル・ファウストによるベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会でこのオッサンにすっかり魅せられてしまった。すぐ後のショスタコーヴィチの24の前奏曲フーガ全曲演奏会のチケットを滑り込みで手配するほどの熱の入れようだった。
ヤロウのピアノに魅せられるとはヤキが回ったとしか言いようがないが、いいものはいいのだ。

アレクサンドル・メルニコフ。ロシア出身のピアニスト。
ハルモニア・ムンディからいくつものCDをリリースしている。ことにイザベル・ファウストとのコンビは理想的なデュオとも評されているし、確かにそうだと思う。

1年ぶりの来日は東京・春・音楽祭というイベントの一環であるようだ。音楽祭が盛り上がっているのかどうか知らないが、まあそれはいいか。
春の華やかさには似合わない渋いプログラム。

01.シューベルト:さすらい人幻想曲 ハ長調 D.760
02.シューベルト:3つのピアノ曲 D.946
<休憩>
03.ブラームス:シューマンの主題による変奏曲 作品9
04.ブラームス:幻想曲集 作品116
<アンコール>
05.プロコフィエフ:束の間の幻影 作品22-10
06.シューマン:知らない国々(『子供の情景』より)
07.ショパン:練習曲 嬰ハ短調 作品10-4

なんというか、この人のピアノの音には温もりがある。
心の襞にぴったり寄り添ってくれるようなピアノなのである。
滋味深いとはこういうことを言うのであろうか。

さすらい人幻想曲はシューベルト自身ですら弾きこなせなかった難曲として知られる。そんな曲をメルニコフは技巧的には弾かない。いや、すでに技巧を感じさせるレベルをとうに超えていると言うべきか。確かな足取りで、構築的ではあるのだが、そこに感じるのは確かにシューベルトの歌である。
この人の演奏でシューベルト晩年のソナタを聴いてみたいと思った。

3つの小品はその晩年のソナタに先立つ作品。
実は2曲目が大好きなのだ。ことに中間部のトレモロを多用した美しさ切なさはシューベルトの真骨頂だと思う。
この曲集でのメルニコフはさすらい人よりもさらに歌を感じさせる。
やはり2曲目が良い。柔らかなタッチで奏でられるメロディー、永遠に続いて欲しいというかなえられない願い。
シューベルトのメロディーは日なたの匂い。

メルニコフ、あんたは凄いピアニストだよ。

おっと、まだ後半があるのか…。

ブラームス初期の作品の変奏曲。
メロディーを書くのが苦手だというのは本当だったのだろうな。借りてきたメロディーを展開させる能力はさすが。シューマンに対する尊敬の念と、その先にクララに対する思慕が見え隠れするというのは穿ちすぎか。
メルニコフの抑えたタッチが見事。

晩年のブラームスには名曲が多い。冴えたメロディーもむしろこの時期の方が多い。一言で晩秋の音楽と言ってしまうのは危険だが、私はシンフォニーやコンチェルトよりもこの時期の室内楽やピアノ曲を好む。
ピアノ曲ではこの幻想曲集が最も好きである。
秋の終わり、暖炉に火を入れ、来るべき冬を迎える。
メルニコフの演奏にはそんな優しさに溢れている。枯れているのではなく、むしろ瑞々しい。

アンコールは小品を3曲。
プロコフィエフが特に良かった。
柔らかな表情のシューマンも、豪快なショパンももちろん良い。

いいリサイタルだった。

ステージを降りると、柔和な表情の気さくなオッサンである。
握手をした手は大きくぶ厚かった。
また来てくれよな。
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