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2011年09月20日22:08

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暗黒のシンフォニー

ペッテション(Pettersson)という作曲家をご存じだろうか。
グスタフ・アラン・ペッテション(1911〜1980)、スウェーデンの作曲家である。マーラーの亡くなった年に生まれているので、今年が生誕100年ということになる。ちなみに、誕生日は昨日9月19日とのこと。
まあ、日本では全くの無名と言っていい。かくいう私もつい最近知ったばかりである。

マーラー以降有数のシンフォニスト、つまり交響曲作曲家である。
完成した交響曲は2番から16番までの15曲(1番は破棄、17番は未完)で、これはショスタコーヴィチと同数である。

ショスタコーヴィチの曲も暗いが、ペッテションはその比ではない。ショスタコーヴィチにはまだおどけた感じの明るくユーモラスな部分も多いし、スペクタクルな迫力というものもある。いい意味で通俗的な部分も少なくない。ところが、ペッテションは徹底して暗い。明るい要素は少しもない。全編通じて、嘆きであり、慟哭であり、闘いであり、諦めである。
ほとんどの曲が単一楽章で、長いものになると1時間を超す。
現代の作曲家であるが、いわゆるゲンダイオンガク的なイディオムはあまり使っていない。それゆえ、わかりやすい音楽だと言える。
ただし、暗い。鬱々としている。その中に安らぎに満ちた抒情的な瞬間がある。
マーラーの6番の終楽章や、9番のやはり終楽章を拡大した音楽といえば、イメージしやすいかもしれない。

悲惨な家庭環境に育ったという。苦労してオーケストラのヴィオラ奏者となるが、難病を患い、演奏家を引退。ペンすら持てない中で作曲を続け、晩年は癌に冒される。
彼の交響曲は彼自身の闘いの歴史だとも言える。
一部ではトラウマ・シンフォニーとして有名らしい。世にも恐ろしい交響曲群として捉えられているようだ。
確かに暗い。救いはない。しかし、その世界はあまりに美しい。一歩踏み込めば、そこには無限の美しさが広がる。恐ろしいとするなら、それはペッテションの音楽の描く絶望が他人事ではないからだろう。いつ自分の身に起こるかわからない不安を煽る、というのは確かにあるかもしれない。

先週、このペッテションの交響曲全集(12枚組)を入手した。
演奏者はバラバラ。演奏の良し悪しよりも、まず曲の迫力に圧倒される。
これほど聴き手を選ぶ曲というのも珍しいだろうが、ハマる人はとことんハマりそうだ。
寒々とした弦の響き、金管の咆哮、小太鼓の脅迫的なリズム。
まだ全てを聴いたわけではないが、すごい世界に踏み込んでしまったような気がする。ある意味、どの曲も同じと言えなくもないが、彼の曲自体がそもそも異形なので、個々の曲を云々しても始まらないのかもしれない。
7番、8番、9番は間違いなく傑作だろう。9番はノンストップで69分ほどかかる。
ダメな人にとっては苦行に違いない。

気難しそうなおっさんだが、ライナーの写真を見ると笑顔のものがあったりしてホッとする。病魔との闘いの連続だったのかもしれないが、70年近く生きたことには注目していいと思う。強靭な意志力があってこそのあの音楽なのだろうと思う。単に暗いだけではないのだ。
それに愛する妻と幸せな結婚生活を送った事実も無視できまい。彼の人生も、悪いことばかりではなかったのだ。

ところで、CPOというドイツのレーベルは珍しい曲ばかりをリリースしている。秘曲マニア御用達レーベルとして珍重されている。
全集盤と言っても既出のCDをまとめて箱に入れただけという安直さだが、その代わり格安である。というわけで、全てバラで購入可能。
ちなみに、ライナーには譜例も記載されていて、曲の理解に役立つ。な〜んて言っても、もちろん一切日本語はないよ。というわけで、譜例を見て「ふ〜ん」と言っている程度…。

先のミャスコフスキーもそうだったが、世の中には知られざるいい曲がたくさんある。そういうのを見つけるのも楽しいものである。メインストリームから外れていることが軽んじていい理由にはならない。マーラーのように時代を経て人気が出る場合もある。また、その逆も…。

ちなみに、私はマイナー調の曲が大好きである。
悲劇的で、耽美的で、抒情的で、官能的な音楽が大好きである。
というわけで、ペッテションにハマった。
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