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2009年10月14日22:43

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伊藤若冲『動植綵絵』全点展示@国立博物館

休暇を取って行ってきた。
上野の国立博物館にて開催中の「皇室の名宝展」。
なんとも大仰なタイトルで、普通ならパスしてしまうところだが、観に行かずにはいられなかった。何しろあの伊藤若冲の傑作『動植綵絵』が全点展示されているのだから。

奇想の画家とも言われる伊藤若冲。江戸中期の絵師。
『動植綵絵』全30点は最高傑作との評価が高い。その名の通り、動物や植物がさまざまに描かれたものだ。いずれもがそのうちの一作でもものにすることができれば絵師としての評価が保証されるだろうと思えるほどの凄い作品だ。
2007年、相国寺での里帰り展示の際に京都に行った。平日なのにひどい混みようだったが、十分に堪能した。次に全てを観ることができるのはいつだろうと思っていたが、意外に早く巡ってきたと思う。

やはり凄い。
しかし、ああ綺麗だな、では絶対に済まされないものがある。
細密画のようにリアルなのに、どことなく幻想的な雰囲気が漂う。花や動物は恐ろしく写実的だ。しかし、現実と空想が交錯する。しかも空間が捩れているように感じる。何故か現実にはありえない構図。眩暈を感じるようなねじれた空間。
ありえない木の枝の生え方、低い方から高い方へと流れているように見える水、クリームのような質感の雪、などちょっと妙なところを挙げていったらキリがない。部分的には技巧を凝らした精巧さを追求したのだろうが、全体的には自由に想像力をはためかせて創作したのだろうと思う。それゆえ現実とも夢ともつかない世界が広がっている。ある種の幻想絵画として捉えることも可能だと思う。

ああ、そうか、若冲は此岸ではなく、彼岸を描こうとしたのか、となんとなく思う。
『動植綵絵』の世界は若冲にとって極楽浄土だったのではないか、そんな気がしてきた。

しかし、素晴らしい。
若冲の生きた時代は、西洋で言えば、フランス革命のあたりだ。後にロマン主義や新古典主義へと繋がる転換点ともいえる時期である。ドラクロワやアングルの少し前くらいだろうか。その時代の日本にこのような絵を描く絵師がいたのである。
音楽で言えば。ハイドンやモーツァルトと同時期だ。

さて、目的は若冲だったが、他はどうかというと、若冲を観た後では…、と思ってしまうのは否めない。
丸山応挙ですら霞んでしまう。というのは好みの問題だろうけど。
むしろ工芸品の方に観るべきものがあった。
大連窯業作『菊桐鳳凰文ガラス花瓶』その名の通り、ガラスの花瓶に鳳凰の細工を施したもの。当時の先端技術だったのだろう。今見ても素晴らしい。
並河靖之作『七宝四季花鳥図花瓶』は繊細な木々や花、そして鳥の図案が素晴らしい。360度から観ることができて、その素晴らしさを堪能できる。
旭玉山作『官女置物』は彫り物。象牙なのだろうか。とにかく動物の牙だろう。豪華な衣装を纏った官女を恐ろしいほどの精密な技術で掘り出している。柔らかな着物の質感は見事の一言に尽きる。また、官女の美しい表情も素晴らしい。
絵画では橋本雅邦作『龍虎図』もいい作品だ。猛々しい虎と、曇天に浮かぶ龍の対比に緊張感がある。
さらに葛飾北斎作『西瓜図』ものどかな感じで良い。北斎のイメージとちょっと違うだろうか。
また酒井抱一『花鳥十二ヶ月図』の12点も若冲とは異なるシンプルなたたずまいで、これはこれで十分楽しめる。
上記はそれだけでも観に行く価値のある逸品と言えるだろう。

西洋文化もいいが、それを偏重するあまり、自国の文化を知らずにいるのはどうだろうか。
偉そうなことを言えたものではないが、せめて他国の人に「日本にはこういう優れた作品があるんですよ」ということくらいは言えるようになりたいものである。

午前中、ほぼ朝一に行ったのだが、混んでいた。たぬ〜は若干人あたりしたようだ。
一昨年の相国寺も混んでいたが、そのときの方が見やすかったような気がする。
とはいえ、貴重な機会であることに変わりはない。
若冲の部屋だけで1時間。休憩をとって、さらにもう1周で1時間。都合4時間半くらいいたことになる。
狙い目は金曜の夜か。もう一度そこでチャレンジしてみるか。

写真左は今回の展覧会のポスター。
写真中央はその若冲部分のクローズアップ。
写真右は三の丸尚蔵館編纂の『動植綵絵』画集。修復の過程や、裏彩色の説明、色彩の分析など普通の画集とは異なった切り口が興味深い。若冲ファンなら目を通しておきたいところ。以前三の丸尚蔵館に行ったときには品切れで入手し損ねた。1200円と価格もお手ごろだ。
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