『大長編 タローマン 万博大爆発』(日本)
2022年の東京都美術館で開催された「展覧会 岡本太郎」は、史上最大のTARO展という触れ込みに違わぬ濃度と熱量に圧倒され、全展示を観終えた頃には疲労困憊で座り込んでしまった。その会場で展示されていたジオラマが、タローマンとの最初の出会い。
この映画も展示会同様に集中して観たらエネルギー消費が激しくて、鑑賞後に席から立ち上がるのに一呼吸必要なほど全身疲労に包まれる。深夜枠5分だからこそ耐えられた狂乱の岡本太郎ワールドを、105分連続で浴び続けるのは集中力の限界に近い。まるで病床で見る謎夢のように潜在意識に岡本太郎イズムが刷り込まれ、怠惰な日常に溺れていた甘い常識を混乱させる。
物語は1970年に奇想された“2025年=昭和100年の日本”を舞台に展開する。現実の2025年とは似ても似つかない“ノスタルジックな未来”で開催される宇宙大万博の開幕を前に、人類は「秩序」と「調和」に支配された理想社会を築いていた。そんな心地よい…でも実は歪な世界に、偽りの常識を破壊するべく現れる巨人・タローマンがベラボーに驚愕な太郎魂をぶち込みにやって来る。「デタラメを取り戻せ!」の勢いでルールと既成概念を破壊する。
万博の平和を守るべく立ちはだかる未来の機械人類「エラン」。秩序と混沌、創造と破壊、文明と原始が衝突する中で、タローマンの理念に呼応するCGB(Cosmic Guerrilla Band)が社会に抑圧された“自由の断片”を取り戻すため精神を増幅させていく。それは人間の中に潜むタローマン的衝動の具現化として観客の意識にも干渉してくる。そしてエランも対立の果てに“芸術の爆発”という共通の原点にたどり着き共鳴する。
全編合成(たぶん)による偽りのユートピアはある意味デストピアでもあり、約5分単位で太郎語録が吹き込まれる展開は支離滅裂、意味不明……と思いきや、そこには反戦、反万博、労働社会、貧富問題、創造性、対極主義といったテーマが潜んで現代社会を風刺する。言葉と映像の奔流を、巧みな編集リズムや音響効果によって絶えず煽り立て、テレビシリーズでは散発的だったカオスが、劇場では津波のような体感へ昇華して再来する。
太郎作品群から飛び出してきた奇獣たちの登場に一喜一憂。拘束されている「太陽の塔」はもちろん「火の接吻」「縄文人」「地底の太陽」「夢の鳥」「顔」「ノン」「森の掟」「駄々っ子」「河童像」「疾走する眼」「雷人」――そして紳士的な振る舞いでその場の空気を台無しにする「水差し男爵」。未来から来た機械人類「エラン」は、武器として持つスティックが彫刻作品であると気付くのは鑑賞後だった。エランを演じる岡村渉はタローマンのスーツアクターでもあるので、デタラメを取り戻すため自らタロー汁に身を投じてタローマンに呑み込まれる展開はまさに一体化。ここからの少女との交流時におけるタローマンの挙動はまるで常識人で違和感たっぷり。そこから始まるクライマックスへの怒涛の展開はついていくのがやっとで、形勢逆転の必殺武器がスクリーンの「画角」という凄さにも脱帽。
終盤、秩序側の切り札として登場する奇獣「明日の神話」は、渋谷駅で自分が毎日見ている巨大壁画がモチーフ。そんな原爆の申し子が秩序を“守る側”として立ち塞がる瞬間は鳥肌が立った。対するタローマンと共闘するCGBは、未来の秩序に抗う最後の砦となるが、終始一貫してふざけているので、根幹にある価値観のぶつかり合いというテーマ性の考察に辿り着くまでとても時間がかかってしまった。タローマンがデタラメの象徴なら、CGBはその炎を受け継ぐ人間たちと解釈する。
太郎作品のエッセンスを凝縮した「秩序&常識vsデタラメ」の闘いを通じて、人間が人間らしく生きるとは何かを再認識。エンドロールに提示される「人間 岡本太郎」の存在感によって、彼を知る者には “再会の祝祭” 知らない者には “初対面の衝撃” となるのだろうか。芸術家の魂が時代を超えてスクリーンに再臨する。
この作品はパロディでもなければアート映画でもない。105分の中に“爆発する映像”という太郎の思想を宿し、アナログ特撮・合成映像・電子音楽の要素がひとつの巨大彫刻として、スクリーンを媒介に “創造する者” へと覚醒させていく。それこそがタローマンのメッセージであり、岡本太郎が未来に仕掛けた芸術の時限爆弾なのだろう。
<映画レビューを切通理作さんのメルマガ内にて連載しています>
月2回配信、購読開始から1ヶ月無料
http://yakan-hiko.com/risaku.html
切通理作編集メールマガジン『映画の友よ』
【 料金(税込) 】 660円 / 月
【 発行周期 】 月2回配信
【 最新発行日 】2025年9月30日
映画の友よ Vol.278, 279
<『カリガリ姉妹』『この夏の星を見る』『顔を捨てた男』>
<『蘭島行』『リライト』『スーパーマン』>
ログインしてコメントを確認・投稿する