先日クリス・スクワイアが亡くなってしまった。
急性リンパ芽球性白血病を患っていたという。
イエスのベーシストである。
唯一人イエスの全てのアルバムに参加したメンバーである。
イエスというとジョン・アンダーソンが顔だったわけだが、実はクリスこそがイエスだったとも言える。
そう思うとイエスもこれで終わるのかもしれない。
リッケンバッカー・ベースを巧みに操るベーシストとして知られた。
単に上手いベーシストではなく革新者でもあった。
ジョン・エントウィッスルとともにリード・ベースを代表する奏者と言えよう。ロック・ベースのあり方を変えた人でもある。
バリバリゴツゴツ、どんなに乱暴な聴き方をしても彼のベースは耳に入ってくる。
おそらくクリス・スクワイアとビル・ブラフォードのコンビはロック界最高峰のリズム・セクションのひとつだろう。もちろんドラマーがアラン・ホワイトに替わっても彼の弾きっぷりは変わらない。
とにかく暴れまくるベースなのである。
ジョン・アンダーソンとリック・ウェイクマンが抜けるという最大の危機を『ラジオスターの悲劇』でヒットを飛ばしたバグルズの二人を迎えることで切り抜けた。
『ドラマ』は「ジョンのいないイエスはイエスではないのではないか」という疑念を振り払うような力作だった。少なくとも前作『トーマト』よりも優れていると思う。
これで80年代を乗り切っていけると思ったものだが、結局このメンバーでのイエスは支持を得られず結局解散を迎えてしまう。
クリスの落胆はいかばかりか。
イエスはその後うまく時流を取り入れた『ロンリーハート』で華麗にカムバックするわけだが、これがイエスなのかという疑問は常に付いて回った。
それ以降はメンバーの出入りも多くなり(もともと多かったが)、ホントにイエスかなと思うことも多いのだが、結局クリスがイエスだと言えばイエスなのだ。
少なくとも『ロンリーハート』以降は「オレがいればイエスだ」ということなのだろうと思う。
イエス・サウンドで最も置き換えが利かないのがベースだったということなのだ。
人生をイエスに捧げたベーシストでもあった。
ソロ・アルバムも一枚のみで、ほかのセッションにもほとんど参加していない。
彼のベースはほとんどイエスでしか聴けない。その代わりイエスのどのアルバムを選んでもベースを弾いているのは彼である。
初めて『ラウンドアバウト』を聴いたときの衝撃は忘れられない。
アコースティック・ギターの静かなイントロから一転、バリバリと異様な存在感で迫るベースと硬く抜けの良い音色のスネアに圧倒された。曲をリードしているのはベースとドラムだったのだ。
この1曲でクリス・スクワイアという名前は強烈に記憶に刻まれた。
好きなベーシストを5人挙げるとすれば、間違いなくその中に入る。
67歳、鬼籍に入るにはまだ早すぎた。
イエス・ファミリーでは初代ギタリストのピーター・バンクスに続く故人になってしまった。
冥福を祈る。
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