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2013年08月29日22:56

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三途の川の渡し守

三途の川は彼岸と此岸とを隔てる川。
英語で言うとstyx(スティクス)。これを名前にしたバンドがある。
アメリカン・プログレ、あるいはプログレ・ハードなどというわけのわからないジャンルでくくられている。産業ロックと揶揄される一派を代表するバンドでもある。サウンドや歌詞の世界観から見ると、スティクスとカンサスはプログレ、ジャーニーやTOTOやボストンはプログレ風のハード・ロックだと私は思う。ま、そんなのどうでもいいことだが。

黄金期のメンバーは以下の5人。
デニス・デヤング:キーボード、ヴォーカル
ジェイムズ・ヤング(JY):ギター、ヴォーカル
トミー・ショウ:ギター、ヴォーカル
チャック・パノッツォ:ベース
ジョン・パノッツォ:ドラムス

トミーが加入してから快進撃が始まった。
3人のヴォーカリストがそれぞれソングライターでもあり、その個性のコントラストがバンドのアイデンティティにもなっていた。
メロウで美メロ作成に秀でたデニス、メタリックでハードなJY、ポップ・センス豊かで劇的なトミー。クイーンやユーライア・ヒープを髣髴とさせる華麗なコーラス・ワークも個性のひとつだった。
派手さはないがパノッツォ兄弟のリズム・セクションも重量感があった。

80年代前半以降、集合離散を繰り返し現在に至る。

あの頃私にとってアメリカ三大バンドといえば、カンサスにブルー・オイスター・カルトにこのスティクスだった。
大好きなバンドだった。

そんな彼らの映像作品を見た。

まずは1996年の『Return To Paradise』。
バンドを離れていたトミーが復帰して、ツアーに出たときのもの。
ただ、ツアーの直前にジョンが急逝し、代わりにトッド・ズッカーマンがドラムを叩いている。
有名曲満載でベスト盤としても機能する。みんなルックスも全盛期とあまり変わらず、懐かしさたっぷりだ。ことにトミーは相変わらず少年のようでビックリだ。ジョンが不在なのは惜しいが、トッドの上手いことと言ったら…。

この後、バンドは紆余曲折。
チャックがHIV感染でバンドからの離脱を余儀なくされる。しかし幸いなことに投薬療法で症状が抑えられ、ツアーに帯同できるまで快復している。ただ、演奏は数曲のみで、名誉ベーシストという扱いのようだ。
また、バンドの顔でもあったデニスが脱退。これにはドロドロとしたいきさつがあったようだ。その結果バンドはデニスの作品である『Babe』や『The Best Of Times』といったバンドの代表作でもある曲を演奏できない契約になってしまう。

で、現在のメンバーは以下の通り。
ジェイムズ・ヤング(JY):ギター、ヴォーカル
トミー・ショウ:ギター、ヴォーカル
ローレンス・ゴーワン:キーボード、ヴォーカル
リッキー・フィリップス:ベース
チャック・パノッツォ:ベース
トッド・ズッカーマン:ドラムス

チャックがゲスト扱い的なので、オリジナル・メンバーはJYのみになってしまった…。

次は2011年のライヴで、名作『The Grand Illusion』と『Pieces Of Eight』を完全再現したもの。上記のメンバーで演奏されている。
デニスのいないスティクスなんて、と思っていたが、どうしてどうして、スティクスは健在だった。
ローレンスの声がデニスによく似ているのだ。デニスの曲を歌っても違和感がない。これはすごい。しかもキーボードのテクニックも十分にあるし、後ろ向きで弾くなどの曲弾きも披露する。
髪を切り髭も剃ったJYはすっかり気の良さそうなオッサンになっているが、なんだかとても楽しそうだ。
バンドをリードしているのはトミーで、さすがに年を取ったという印象は否めないし髭面は似合わないが、それでも年(このとき58くらいか)よりはずっと若く見える。なにより少年のような声が全く衰えていないのには驚きだ。私はギターにはあまり詳しくはないのだが、トミーはいくつものヴィンテージ・ギターを持ち替えて演奏しているらしい。
そして、ここでもトッドのドラミングは素晴らしい。

名作アルバムの完全再現ということで、それまでライヴで演奏されたことのない曲も披露されている。
これは思った以上に楽しめる。
往年の名作の完全再現というと聞こえはいいし、オールド・ファンには嬉しいだろうが、新しいものでは勝負できないということでもある。
そんな批判もある。確かにそうかもしれないと思わなくもない。
しかし、ロックの在り方が多様化した現在、何も新作をリリースしツアーを行なうだけが正しいということもあるまい。昔の曲なのに今の時代にもアピールする。これは凄いことである。それを演奏し続けるということも歴史を作ったバンドの使命とも言えるのではないか。
『Cornerstone』や『Paradise Theater』の再現ライヴも、と期待したいところだが、現在のところ実現不可能である。先に記したように収録曲のいくつかが演奏できないためだ。

最後に2006年のオーケストラの共演を収録した『One With Everything』。
2011年の名作完全再現の少し前になるが、バンド・メンバーは同じ。
クリーヴランドのコンテンポラリー・ユース・オーケストラとの共演で、コーラス隊もいる。
前半はビートルズやウィリー・ディクソンらのカバーも演奏されている。デニスの曲は完全に封印。しかし、トミーの曲にもいいものは多い。むしろ私はトミーの曲の方に好きなものが多いようだ。
これは楽しい。
イエスのときも思ったのだが、オケのメンバーはなんでこんなに楽しそうなのだろうか。
演奏していないときは踊っているし、歌詞を口ずさんでいるし、みんなこのステージをとことん楽しんでいるというふうなのだ。コーラス隊には子どももいるし…。
ヤロウも多いが、美人女子率はなかなか高い。コンミスが結構可愛い。ってどこ見てるんだか。
そういうのも含めて、見ていて幸せな気分になるライヴである。
もともとスティクスの曲はドラマティックなものが多いから、オーケストラとの相性はいいのかもしれない。

デニス・デヤングとトミー・ショウ。
この二人がスティクスの両翼であったことは間違いない。片翼を失ったスティクスをはたしてスティクスと呼べるのか。
結論は、紛れもなくそれはスティクスだった。
確かにデニスがいればと思わないこともない。しかし、デニスに声質が似ていて、優れた鍵盤奏者であり、ソングライターでもあるローレンス・ゴーワンを見つけてきたのは大きい。これでは確執がなくなったとしてもデニスが復帰する余地はないように思う。
バンドとしての一体感があるのだ。
トミーはJYにとても気を遣っている様子で、逆にJYはトミーに花を持たせている感じ。JYはもともと第三の男のような位置付けだったわけだが、今はそれを楽しんでいるかのようでもある。実はコーラス・ワークのキーマンでもあり、ハードなギター・ソロも聴かせ、バンドの中での存在感は抜群だ。
リッキー・フィリップスもいいベースを弾く。むさ苦しい格好をしているが、実は結構イケメンなのではないかと思う。
凄腕と評判のトッド・ズッカーマンがドラマーとして存在しているのも大きい。パワーもテクニックも申し分ない。手数の多い彼のドラミングは気持ちいい。
それにしてもトミーの声が衰えていないのは凄い。イエスのジョン・アンダーソンの声を変声期前の少年に喩えるとするなら、トミーの声は大人になりかけの少年という感じだろうか。ギターもことさらテクニカルというわけではないが、メロディックないいソロを弾く。JYとタイプが異なるのもおもしろい。
チャックは年を取った。1996年と2006年とでは別人のようである。年齢というだけでなく病苦によるものもあるのだろう。数曲とはいえ、ステージに立つくらいには元気だというのが嬉しい。バンド創始者の一人、スティクスに対する愛着は人一倍だろう。

というわけで、スティクスは健在だった。
あの当時産業ロックと揶揄されていたが、やはりあの時代の連中は底力が違う。ミュージシャンシップの高さは半端ではない。
年を取った連中が昔の名曲を演奏する。
意外なほど若々しくてとんがっていたり、年輪を感じさせる熟成した表現だったり。
そういうのも悪くないと思う。
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