先ずは亡くなられた方に哀悼の意を表したい。
無差別テロの被害に遭った多くはロシアの民間人だが、確かに日本とロシアは平和条約はまだ結んでいないものの、日本人だろうとロシア人だろうと、民間人であれば単純に悲惨なものは悲惨だからだ。
■盟友のルカシェンコが面子を潰す■
3月26日にロシアのプーチン政権の安全保障会議書記のパトリシェフ氏はSNSのテレグラムニュース、「ショット」でインタビュアーから、
「今回の惨劇の黒幕はイスラム国(注・以下ISとします)か、ウクライナか」
という問いかけに、
「当然ウクライナだ。多くのそれらしき兆候はある。」
と答えている。
しかしベラルーシのベルタ通信によれば、実行班はモスクワから逃れ、ベラルーシに逃亡しようとしたものの、ルカシェンコ大統領が該当する人物たちに対し、国境を閉鎖するよう命じた。すると彼らはロシア・ウクライナ国境に向かったと述べた。
この情勢を見て、アメリカのCNNは次の趣旨を述べた。
「ベラルーシの治安能力の高さがテロはウクライナの手先がやったという認識を弱めるものとなった。」
と述べた。プーチン大統領にとって、何とか信用出来そうなのはベラルーシのルカシェンコ大統領と北朝鮮の金正恩しかない。
一見友邦国ともいえる中国の習近平国家主席はあわよくば戦争でロシアがへたばり、経済属国にしようと虎視眈々と狙っている。インドのモディ首相は世界一になった人口を支えていくにはロシアから廉価な原油、天然ガスが無ければ経済がもたない事は承知しているため、プーチン大統領の再選に祝電を送っただけの話である。インドもなろうことならば、エネルギー、食糧の需要が解決出来さえすれば、ロシアから離れて、日本、イギリスの側についても構わないと考えているはずだ。実際、ロシアからは市価の30%オフで原油、天然ガスを輸入出来ているものの、ウクライナにチェコを通じて弾薬を送っているほどだ。
そのルカシェンコ大統領がこのような発言することは余りロシア・ベラルーシ両国の足並みがそろっていない事の証左なのは確かだろう。
■諜報力の違いを見せつけたアメリカ■
今回の無差別テロをアメリカはどのように見ていたのか。
当然知っていただろう。3月22日、ニューヨークタイムズによれば、何とアメリカはアフガニスタンのホラサン州の山岳地帯にあるISの拠点が今回のテロの策源地であると述べていた。
3月7日に在ロ米国大使館は
「モスクワにいる米国人は大規模コンサートを含む、大規模な集まりに行くのは当面の間避けるように。過激派がテロを画策している。」
と通達を出していたのだ。
ただ一応は同内容をFSBのボルトニコフ長官に共有はしていたようだが、彼らは「一般的な性格」と無視した。「一般的性格」とは少々回りくどいが、要はアメリカからのブラフ(恫喝)として一顧だにしなかった。それどころか、19日、プーチン大統領自身が「露骨な恫喝だ。」と述べた程だ。
ロシアにとって、アメリカは旧ソ連時代と同様に仮想敵国である。その仮想敵国に助言された事に対する面子が許さなかったのかもしれない。
これは権威(独裁)主義国家のある種の弱点でもある。
しかしであれば、カウンターパンチとして、いやいや、我々はもっと情報を知っているんだぞという内容をアメリカ(CIA)に突きつけたはずだが、それもない。
惨劇の現場となったクロッカス・シティ・ホールは約6200人の観客を収容出来る、音楽のバンド専用のコンサート会場としては実は世界的最大級だった。ロシアの国家親衛隊の拠点からクルマで数分のところにある。
すっかりFSBは安心切っていたのだろうか。
これは最早アメリカとロシアの諜報力の差というしかないのかもしれない。
モスクワで無差別テロが勃発する可能性をCIAが掴んだ根拠として、ロックバンドのチケットの売れ行きが不自然である事に気付いたからではないかという説もある。
実際、コンサートチケットをお買い求めになり、一度でも訪れた方であればご存じだろうと思うが、コンサートチケットは大抵1か月以上前から発売が始まり、次第に席が埋まっていくものだ。
ところが今回は前日にいきなり満席となっていたのだ。
テロ集団がチケットを買い占め、一気に満席にし、テロ行為に及んだ。計画的に多数のスリーパーが潜入、黒幕からの指示でかねてからの作戦通りテロを引き起こした事はトウシロの私でも察しがつく。
ロシアの対応に対し、いかにもアメリカらしい反応をした。
「我々の警告を軽視したからだ。」
と述べた。この一言が惨事をひどくした背景だろう。
■権威主義国家の弱点を露呈したロシア■
今回のテロの現場となったモスクワのクロッカス・シティ・ホールはロシアの軍施設からクルマでわずかの時間で行けるから油断しきっていたというのもあるかもしれない。
惨劇はメンツにこだわってアメリカの警告を無視した事が大きい。
更にプーチン大統領は今回のテロをウクライナの責任になすりつけ、国民から戦争の支持を得ようとした。しかしあろうことか盟友のルカシェンコ大統領が無差別テロの犯人はベラルーシの国境を閉鎖すると、ウクライナ方面に逃亡したと述べた事から、この手も使えなくなってしまった。
現在ウクライナ軍はドローン兵器を使って、ロシアの軍事関連施設、原油貯蔵庫などをピンポイントに攻撃している。プーチン政権を揺さぶったという点ではウクライナ側としては今回の無差別テロは願ったりかなったりだっただろうが、軍施設や石油関連施設ではない為、そもそもターゲット対象ではない。
ちょっとやそっとのことではプーチン大統領を暗殺することは難しいだろうが、国民からの反発が避けられなくなるのはほぼ間違いない。
(了)
写真:炎上する クロッカス・シティ・ホールとテロの状況
■143人死亡 ロシア・モスクワ銃乱射テロ事件 プーチン大統領の側近ら「ウクライナ関与の証拠ない」との見方示す 米報道
(TBS NEWS DIG - 03月28日 12:13)
https://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=266&from=diary&id=7804287
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