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2024年01月20日23:56

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ちょっと気になる医療と介護 増補版 権丈 善一 勁草書房 2018年2月1日

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p.209
『ちょっと気になる社会保障』で、厚労省作成の上の図と財務省作成の下の図というふたつの図を結びつけて描いていたら評判が良かったので、この本の増補版作成を機会に年度を直近にして載せておきます。
下の2つの円グラフは国の支出項目と収入項目を示しています(国の財布の中では歳出と歳入と呼ばれます)。
 左の円グラフの左上の方に「国債費」というのがあります。これは、「利払費等」と「債務償還費」のふたつからなります。前者は借金から生まれる利子などを支払っているもので、後者は借金の元本を減らすのに使われる返済です。ふたつ合わさった国債費は、元本と利子の両方を含めた「元利払い費」と呼ばれています。いま、あなたが1年間の金利10%で1万円を借りると、1年後には1万1千円を返さないといけません。そのうち1万円が債務償還費、千円が利払い費になります。
 2017年度予算では、国債費23.5兆円で、歳出の24.1%を占めています。そして図表75の左円グラフの右上には「社会保障」というのがあります。32.5兆円で、歳出の中の33.3%を占めています。ここで押さえておいてもらいたいことは、歳出の中でも優先順位が高く、その額を節約できないのは国債費だということです。先の例で言いますと、来年には1万1千円をお返ししますよと約束しておきながら、その返済を踏み倒したら、誰ももう2度と化してくれなくなります。国債費というのは、そうした借金の返済に関わるお金でして、その額は値切れません。
 僕は、このあたりの話を、昔から、頭蓋骨と悪性の腫瘍にたとえて話してきました。頭蓋骨のサイズが一定のところに、脳の中の悪性腫瘍が大きくなってくると、他の健康な細胞が圧迫されてしまいます。
p.210
そんな感じが、国債費と社会保障をはじめとした他の歳出項目との関係なわけです。
 ところで、図表75の右側にある円グラフの左上の「公債金」34.4兆円というのをみて下さい。国債費のうち借金の元本を減らす「債務償還費」が14.4兆円であるのに、新たに借金しているのが34.4兆円なので、細かい点はとりあえず捨象してざっくりと言えば、差額の20.0兆円は2017年度に新たに借金が増えるということになります。
 先進国は普通、財政収支(=一般会計歳出−債務償還費)を視野に入れた財政運営をしているのですけど、先進国の中では日本だけですが、「日本の財政は厳しいのだから、新たな借金をなくするとかそんな堅いこと言うなよ。過去の借金の利払い分だけは、借金が新たに増えても良いじゃないか」ということで、そういう財政健全化目標(=一般会計歳出−国債費(=債務償還費+利払費等))をたてています。
 いま、仮にですよ、日本の一般会計に関して、こうした状況を達成できるとしたら、歳入の公債金34.4兆円から国債費23.5兆円を差し引いた10.9兆円の増税が必要です。これにより、専門用語で言いますと、「利払費等」分以外は借金が増えない「基礎的財政収支」がとれるということになるわけです⁵⁰。基礎的財政収支の対象経費とは歳出から公債金を引いた額のことで、その収支を基礎的財政収支=プライマリーバランス、略してPBと呼ばれたりもします。でも、ここで分かってもらいたいことは、10.8兆円の増税をしたとしても、社会保障をはじめとした基礎的財政対象経費は1円も増えていないということです。
p.211
でもそれはそれとして、基礎的財政収支がとれているのであれば、日本の財政は問題ないねっということになるのでしょうか?
 そのあたりを説明します。でも、ここからは少し難しいかもしれません――次は、僕がよく学期末テストに出す問題です。

金利(r)成長率(g)公的債務残高(B)GDP(Y)歳出(G)税収(T)添字_1は前年度とするとき、次のドーマー条件が成立する。
(r-g)(B_1/Y_1)=-(G-T)/Y
 仮に金利(r)が成長率(g)を1%ポイント上回るとき(すなわちr-g=0.01)の場合、公的債務残高÷GDPを発散させないためには、日本の財政は消費税にして少なくとも何%程度の黒字をださなければならないだろうか。その計算過程を示し、解説しながら解答しなさい。計算の便宜上、Yは本年度も前年度も約500兆、Bは前年度約1,000兆、消費税率1%の税収は約2.5兆円とする。
 なお、発散とは公的債務残高÷GDPが上昇し続けることとする。

 模範解答を示しておきますと、
 0.01×2(=5000兆円/500兆円)=-(G-%)/500、ゆえに-(G-T)=10兆円。
 したがって10/2.5=4%。
 すなわち、消費税で4%分の黒字を出さなければ、公的債務残高÷GDPは上昇し続け、「発散」してしまいます。いや本当は、消費税が4%も上がれば物価も情報しますので、その分、これまでの公共サービスの量を維持しようとすると歳出Gの総額は増えます。ですから、発散を避けるための上述の計算では、消費税4%分の黒字ではすまなくなります。
p.212
 発散は、永遠に続けることはできませんので、いつかは公的債務残高÷GDPを上昇しないように安定させなければなりません。安定させるために必要となる税収は、借金の総額B、これをこれからは「借金のストック」と呼びますが、そうした借金のストックBと、金利rと成長率gにも依存していることを、ドーマー条件は示しています。
 といっても、国債を国内の人たちが購入しているのだから、国の借金も国民の資産であって、なんの問題もないじゃないかという人も、そこかしこにいるようです。でもですね、借金のストックが大きいから、r>gの場合は、財政にかなり大きな黒字を出さなければならなくなり、そこでの歳出は国債費が相当の割合を占めることになります。先に国債費を脳腫瘍にたとえたのですが、そうした脳腫瘍が大きくなると、健全な細胞は圧迫されて圧縮されます。支出の優先順位が最も高い国債費を賄うために、歳出の中で社会保障関係費が削られ、教育への支出や地方交付税が削られるということが起こりうる……としたら、それって、社会保障をあまり利用する機会がないかもしれない、先ほどの財務大臣のような大富豪にとっては構わないことかもしれませんけど、社会保障と関わりながら、この助け合いの制度の便益を受けて生きている普通の人たちにとっては、けっこうな不幸がおそってきます。
 実際のところ、借金のストックがどんどんと積み上がるということは、次の図表76に示す、高負担なら高福祉、中負担なら中福祉、そして低負担なら低福祉をつないだ実行可能領域が、日夜、東南方向にシフトしていることを意味します。
 将来世代にとっては、高負担で高福祉、中負担で中福祉の社会を享受することは難しく、高負担だったら中福祉、中負担だったら低福祉程度の社会しか実現できないところにまできているとも言えます。
p.213
では負担と給付の差額はどこに行くのかというと、それは国債費です。でも、国債が国内で購入されて、それが国内で保有されているんだったら、国債費は国民の所得になるんだから、なんの問題もないじゃないかというなんだかいつも、経済学の害を被って世の中のことを半分かりのままに発言する経済学者とかが登場してくるわけですけど、まぁ、なんというか……。
 このあたり、ピケティの『21世紀の資本』には、次のような文章が書かれています。

 1970年代以降の公的債務の分析は、経済学者たちがいわゆる代表的エージェント・モデルにおそらく依存しすぎたせいで歪んでしまった。このモデルだと、エージェントたちはみんな同じ所得を手に入れ、同じ量の富に恵まれる(だから同じ量の国債を所有する)と仮定される。……これらのモデルは、富と所得の分配の格差問題をまったく回避してしまい、しばしば極端で非現実的な結論を導き出し、明確さよりむしろ混乱をもたらしてしまう。
p.214
代表的エージェント・モデルを使うと、公的債務は国民資本の総額に関してのみでなく、財政負担の分配においても、完全に中立だという結論になってしまうのだ⁵¹。

 ここにある、代表的エージェント・モデル(representative agent models)というのは、その国には1人しか住んでいないと想定して議論を進めることです。日本には1人しかいないと仮定した世界で、国債が国内で買われているとすればその人が買うわけで、国債費を支払えば国債を買ってくれたその人の所得になるでしょう。だから、国債というのは、その国の中でお金をぐるぐる回しているだけだから、なんの問題もないではないかという話になります。こうしたことは学問の怖いところでして、「はじめに〇〇と仮定する」という虚構の前提をおくと、あとは論理的に考えを進めていけば論理的に間違えてしまうんですね。
 でも先に説明をしたように、借金のストックが増えて大きくなった国債費は社会保障と歳出項目において競合します。そして、社会保障費よりも国債費の方が歳出の優先順位は高い――だから、国債費を賄うために社会保障は減らされてしまい、国民負担相応の福祉を享受できなくなってしまうわけです。そうしたことは、国が国債費を自分の子孫たちにちゃんと払い続ければなんの問題もないと考える大富豪にとってはお構いなしのことかもしれません。でも、社会保障が生活の上で密接に関わっている普通の人たちにとっては、大惨事です。
p.215
 日本は、赤字国債を発行しながら、社会保障の給付を先行させるという、他国がなかなかマネのできない形での福祉国家を作り上げました。こうした給付先行型福祉国家では、今後、仮に増税ができたとしてもその相当部分は、財政再建にまわさざるを得ません。普通の人たちはそんな切羽詰まった財政事情は知りませんから、そうした人たちは、「えっ、増税をするのに社会保障の給付がその分だけ増えないの?」「それって詐欺じゃない?」などと考えるのだろうと思います。
 2011年頃から進められていた「社会保障・税一体改革」も、こうした制約条件の中で展開されていました。(国・地方による)社会保障の支出は、消費税10%による税収よりも大きいです。狩りに、消費税5%の水準から5%ポイント増税して10%にし、そこで得られた増収分のすべてを社会保障にまわしても、社会保障はまったく増えないこともあり得ます。そうしたなか、一体改革では、せめて1%分は、新たに社会保障の機能の強化を図るということをやっていました――いや、本当は基礎年金にすでに投入されていた消費税1%分の国庫負担が恒常的に消費税から賄われることになったから、社会保障の機能強化分は消費税の2%分と表現しても良いはずなんですけどね。
 ですけど、やはり、世の中、そして残念ながら一部の研究者からは、「国に騙されるな、増税した分が社会保障の給付増になっていない」という観点から批判されていました。
 しかしながら、圧倒的多数である普通の人たちにそうした勘違いをされてしまう運命にあるのが、給付先行型福祉国家だと思います。その上、このあたりも普通の人たちには分かりづらいところかもしれませんが、政府というのは、別に一枚岩ではないんですね。
p.216
たとえある政党のままであってもある勢力が力を持っているときに社会保障のための消費税の増税を言っていて、その後、他の勢力に権力が移り、その勢力の下では、増税分以上に法人税の減税をしたり公共投資を殖やしたりすることも起こり得ます。この様子を、あたかも政府に一貫した合理性があるかのような観点から眺めると、政府は、はじめから国民をダマして、大衆課税である消費税を増税して企業を優遇しているかのようにもみえるものです。
 給付先行型福祉国家でスタートしたら増税分のすべてが社会保障給付の増加にまわらないという制約がある上に、いつもその他様々な状況が重なってしまうもので、そうした現象を紐解いて理解することを国民に求めることはおそらく無理だと思います。結果、「給付先行型福祉国家」というものは、必然的に世の中にヒステリーを引き起こし、財政を再建するための財源を得ることが永遠にできずに「給付だけをしてしまった福祉国家」のままであれば、財政の行く末は、ちょっと悲しい状況しか待っていないことになります。
 社会保障と借金のストック、すなわち増税のタイミングの間には、次の図表77の関係があります。
 もっと早く増税をしていたら、増税分からの社会保障の取り分は大きかったわけですし、そもそもはじめから増税をして社会保障の財源を賄っていたら、今でも、増税による増収の100%を社会保障にまわすことができていました。しかし、長い間、給付先行型福祉国家を選択してきた日本は、残念ながらそうはいきません。そのあたり、次の知識補給などもご参照ください。
知識補給・指標と政策概念の間にあるギャップ 324頁へ
p.217
 実は、僕は大変な幸せ者でして、消費税を上げる、その財源で医療介護の機能強化をどのように図っていくかという、おそらく、日本の行政、財政面では、高度経済成長期以来の明るい雰囲気の中で、2013年に社会保障制度改革国民会議というところで政府の仕事に関わることができていました。それはそれは、霞が関界隈にはやる気が満ちていた明るい時代でした。彼らのやる気が出るのも当たり前で、社会保障というのは助け合い、連帯の制度として人々を幸せにするためにあるのですから、それら社会保障の機能強化のために働く人たちも、気分は当然明るくなります。逆に、それを減らす仕事しかないときは、その犠牲になる人たちから責められるばかりで、あまり楽しい仕事には思えないはずです。
 図表78にみるように、当時、つまり2013年に社会保障制度改革国民会議が運営されていた頃、政策形成に関わっていた人たちの将来への「期待」は、2014年4月に消費税が8%に上がり、そして2015年10月1日からは、10%になっているというものでした。
 さらに言えば、2016年夏の参議院選挙の終了後の今頃は、さらなる増税の議論にとりかかっていることもできたはずです。
p.218
以前から、僕は次のようなことを考えていたようです。

2013年9月19日の権丈講演録より
 消費税は毎年2%ずつ、財政の持続可能性が保てるまで上げていくのが望ましい。厚生年金の保険料率は、毎年0.354ポイントずつ上げていくことが法律に明記されていますが、あれが理想形です。今回は消費税を3%上げて次に2%上げることが予定されています。妥当な線じゃないでしょうか。でも、その次のことをやらなければなりません。今回の国民会議で、私が意識していたことの1つは、「この増税で、国民が、増税すればこういう良いことがあるんだと思えなかったら、次がきつい」ということでした。だから、今回の国民会議は、私にとっては――たぶん、参加していた委員のなかで私だけだったと思うのですが――次の増税の準備ですし、消費税の増加分を用いて、形の見える医療介護改革の道筋を示さなければならなかったわけです⁵²。
p.219
2014年8月19日の権丈講演録より
 社会保障の機能強化が必要だからといって、増税分のすべてを社会保障へ回すように求めることは遠慮せざるをえず、増税が景気にブレーキをかけるからといって、それだけで増税を諦めるほどの余裕もありません。もっとも、財政再建、社会保障の機能強化、景気対策の優先順位は、たとえばリーマン・ショックや東日本大震災レベルのショックに見舞われれば短期的にはかわりえますが、長期的には財政の持続可能性を確保するための財政再建が最優先の課題と位置づけられます。そう位置づけざるをえないんですね、残念ながら。財政の持続可能性がなければ元も子もなくなりますから⁵³。

 そしてもし2018年4月からは消費税10%の先の引き上げを行うことができていれば、それで財政再建をさらに進めながらも、増税からの財源を元に、2018年の診療報酬、介護報酬の同時改定、地域医療構想・介護保険事業(支援)計画、そして国民健康保険の都道府県化という、第4章で説明した惑星直列を迎えるという流れを作ることもできていたかもしれません。
 しかしながら、現実には、2014年11月に、2015年10月1日からの消費税引上げが1年半先の2017年4月1日にまで先送りされ、そしてこれがさらに、2016年5月末には2年半先の2019年10月1日まで先送りされました。
p.220
 でもまぁ、仕方がない。国民の7割近くが支持をするわけですからね。

世論7割の壁
 僕は、世論7割の壁と呼んでいるのですけど、消費税増税先送りも、2015年末の軽減税率導入の決定も、2009年の政権交代総選挙も、2005年郵政選挙も、そして、2004年年金改革の時も(この時は世論の7割が04年改革の廃案を要求)、世論の7割は後に後悔をするだろう態度を示しているようです。7割の説得は無理でも、2割、せめて7割の中の2割に分かってもらえれば5分5分となり、その争点は政治的うまみがなくなり、政局から解放されます。――このあたり、シリーズへのへの本? にガンバッテもらいたいところですけど、へのへのもへじじゃ、まぁ、無理ですね(笑)。昔は、世論がおかしくても、一部の政治家と官僚で、歴史の評価に耐えうること、つまり国民の多くが後に後悔することのないようなことができる環境はありました。しかし最近はダメ。小選挙区制、内閣人事局、ネットの普及などなど、歴史の評価に耐えうる政策を実行できる政治環境とは逆向きに世の中が動いてきたのかもしれません。
p.221
 ところで、2012年になされた社会保障・税一体改革に関する三党合意⁵⁴というのは、奇跡のような話でした。何が奇跡かというと、野党が増税を言っていたことです。普通は、野党は、本来、そういう「責任のある立場」にありません。ところがあの時の野党は、野党に下野する前の与党の時から増税を言い続け、野党になってもその方針を貫いて、三党合意に持ち込みました。そして、国民も、与野党が揃って増税を言うのだから、きっとそれしかないに違いないと、積極的には支持はしないが仕方がないと思っていたのではないでしょうか。
 ところが、最近は増税が、ひとつの選択肢にすぎないものになったようです。与野党が揃って増税の延期を言うのですから、国民はなんだそういう選択肢もあったのかと思うのも無理はありません。

ドーマー条件と現実の金利と成長率
 図表79では、ここで話題にしている社会保障関係費と国債費の推移を描いたものです。
 1980年代は、社会保障関係費と国債費は一般会計歳出の中で抜きつ抜かれつのデッドヒートを繰り返してきました。21世紀にって、国の借金は増え続けているのに国債費の増加が鈍化しているのは、国債の金利が低くなって、国債費の中の利払い費が低くなっているからです。
p.222
 再び211頁で説明したドーマーの条件をみてみましょう。
(r-g)(B_1/Y_1)=-(G-T)/Y
 ここで、(r=g)ならば(r-g=0)ですから、Bがどんなに大きくても問題なくなりますし、r<gならば、日本は今後も財政赤字を続けていても、B/Y=公的債務残高/GDPを発散させないでいくことができます。そして、次の図表80をみれば、なんと日本は2013年からr<g、すなわち、名目金利が名目成長率よりも小さくなっているではないですか!?
p.223
 と言っても、2013年からr<gが成立したのは、いわゆる「三本の矢」のうちの第1の矢「大胆な金融政策」(つまりは日銀が国債を大量購入」と第2の矢「機動的な財政政策」(要は公共支出増)によるものです。第1の矢で名目長期金利(r)が下がり、第2の矢で名目経済成長率(g)は上がるのは当然です。特に第1の矢の規模と影響はすさまじく、第2の矢を放ちやすい市場環境を作り上げてくれています。
 でもこうした2本の矢をいつまでも放ち続けることはできませんし、矢を放つことを止める時には逆のことが激しさを増して起こるおそれがあります。だから、当面の成長率をかさ上げし、金利を引き下ろすことは技術的にはさほど難しくなくできるとしても、問題をより大きくして将来世代に先送りすることになるから、やってはいけない禁じ手だというのが、人類の知恵だったわけです。
p.224
 そう言えば、アメリカの中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)の前議長バーナンキさんが2016年7月に来日し、官邸で「日銀には金融を緩和するための手段はまだいろいろ存在する」とアドバイスしたという新聞記事がありました⁵⁵。でもまぁ、なんと言いましょうか、次の図表81や図表82をみても分かりますように、金融緩和に関しては、日銀の方がFRBよりも大先輩です。FRBは日本が2005年から2006年にかけて福井日銀総裁がやっていた程度しか金融緩和の経験がありません。そうした日本よりもはるかに後輩のFRBに、大先輩の日本が何か学ぶことがあるのかなっという感じでしょうか。
 「大胆な金融政策」という矢を放つのを止めると金利が上昇し、歳出における国債費が急増すれば、歳入面で増税をするか、歳出面で社会保障などの給付をカットするかの選択に迫られます――他に赤字国債を殖やすという方法があるにはありますけど、金利上昇局面では難しいです。この時には、社会保障はかなりきつい状況に追い込まれます。でもそれでも金利増加による国債費の増加を賄いきれなかったら……う〜ん、そこから先はご想像にお任せいたします。

 ところでピケティの『21世紀の資本』の第一の発見は、いろいろな国の歴史をずっと調べてみると、「成長率よりも資本収益率の方が高い――r>g」というものでした。したがって、資本家の所得が経済全体の伸びよりも大きく伸びていくのがどうも資本主義だというのが、『21世紀の資本』のメインストーリーです。そういうことで、『21世紀の資本』の帯には、r>gと大きな文字で書かれていました。
p.226
そして今では、ピケティの本に登場する『ゴリオ爺さん』の文庫本(新潮)の帯にもr>gと大きく書かれてあったりもします。
 もっとも、ピケティの言う資本収益率は、金融資産だけでなく土地を含む実物資産からのキャピタルゲインも含めた総合的な利回りでして、金利は、その部分になるのですけどね。

 2度目の消費税増税先送りがなされると、僕のところには、「先日、社会保障と財政改革で講演を依頼しましたが、財政改革ではなく財政再建について話をしてくれ」という連絡が来ていました。フランス革命に関する本や、みなさんもよく高校の時に使っていたでしょう『世界史用語事典』などには、フランス革命のところに、「財政改革」という項目がありまして、フランスは財政改革に失敗して、革命が起こったと書いてあります。財政再建を図ろうとして、それに幾度も失敗し、一国の財政がある状況に達すると、財政再建と財政改革は同じ意味になってしまいます。そしてそれに失敗すると国が壊れる――悪性のインフレが起こって、それをきっかけとして主婦を含めた市民が立ち上がったのがフランス革命。まぁ、随分と昔の話ですけどね。

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■医療・介護の賃上げ、岸田首相要請=22日に「政労使会議」
(時事通信社 - 01月19日 16:01)
https://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=4&from=diary&id=7717426

 岸田文雄首相は19日、首相官邸で医療・介護・障害福祉関係団体との会合を開き、業界の賃上げを要請した。2024年度の改定で診療報酬や介護・障害福祉サービス報酬を引き上げたことに触れ「報酬改定に見合う賃上げの実現をお願いする」と呼び掛けた。政府と労働界、経済界の代表による「政労使会議」の22日開催も表明した。


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