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2023年03月28日10:06

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映画『Winny』作品レビュー

映画『Winny』作品レビュー

 2004年にファイル共有ソフト「Winny」の開発者が逮捕された事件と裁判の行方を、再現ドラマ風に描いた作品です。
  
 パソコンの歴史はまだ浅いですが、急速な発展に対し、理解や法の整備が追い付いていない部分があります。
 2002年、開発者・金子勇(東出昌大)は、簡単にファイルを共有できる革新的なソフト「Winny」を開発、試用版を「2ちゃんねる」に公開をします。
 彗星のごとく現れた「Winny」は、本人同士が直接データのやりとりができるシステムで、瞬く間にシェアを伸ばしていきます。しかし、その裏で大量の映画やゲーム、音楽などが違法アップロードされ、ダウンロードする若者も続出。Winnyを使えば匿名で違法アップロード、違法ダウンロードが簡単にできてしまうことから、次第に社会問題へ発展していくのでした。
 それだけ聞くと、Winnyは著作権を侵す悪用のためのソフトに聞こえるでしょう。そのため、金子も2004年に著作権法違反幇助の容疑で逮捕されました。
 サイバー犯罪に詳しい弁護士・壇俊光(三浦貴大)は、「開発者が逮捕されたら弁護します」と話していた矢先、開発者金子氏逮捕の報道を受けて、急遽弁護を引き受けることになり、逮捕の不当性を主張して弁護団を結成。全面対決します。

弁護団の壇は、仮に刺殺事件が起こった場合「このナイフを作った人を罪に問えるか?っちゅう話や」と発言し、開発者逮捕の不当さをこぼしていました。悪いのはシステムを利用し著作権違法行為を働いた側であり、開発者ではありません。では何故、金子勇氏は逮捕に至ったのか? なぜ「誓約書」と偽って用意した、警察側に有利な「申述書」を書き写させたり、「あとで修正が出来る」などと言いくるめるまでして、逮捕を急いだのか。紐解いていくうちに、警察側の闇が次々と暴かれていきます。

 Winny事件と並行し描かれているのは、警察内部の腐敗した実情です。そもそも警察側が何故、金子勇氏を訴える原告となったのでしょうか。警察側は「著作権団体から相談を受け調査に乗り出した結果、金子勇氏が著作権法違反の幇助を認めた」と主張していますが、その実は、開発者を逮捕してWinnyそのものを早く抹殺したかったのではないかという警察内部の事情が覗えそうな展開が描かれました。

 警察内部の事情ひとつとして伏線として触れられるのは、Winny事件当時に大問題となった警察の裏金問題がありました。
 愛媛県警に勤める仙波敏郎(吉岡秀隆)は、警察に憧れ職についた若者が、上司に頼まれ、捜査協力費という名目で領収書を偽造するという汚職に手を染めている現状に我慢の限界を迎え、県警内で蔓延っていた裏金問題を内部告発するのです。
 しかし県警上層部は裏金の存在を一切否定します。けれども仙波の告発を決定づけたのがWinnyを通じた裏金の証拠となる領収書などの流出でした。
 裏金問題とWinny事件とは直接にはつながっていません。しかし警察情報のWinnyによる流出が、警察の不祥事発覚につながることを恐れさせて、開発者の逮捕をいそぐ結果につながったのではと連想させる伏線となりました。
 
 そもそも東出が演じる金子を見れば、Winnyを著作権を侵害する目的で開発をしたのではないことがわかります。金子は喋り始めると止まらず、純真で無垢で、変わり者といっていいほど悪意を感じさせませんでした。Winnyについては、思いついたから夢中で開発したに過ぎなかったのです。それも、目的は著作権を侵すやり取りではなく、事件などで匿名の関係者が証言する場合の、秘匿性を想定したものでした。
 裁判では、開発者が著作権法上の違法行為が蔓延することを認識していたかどうかが争点となりました。でも違法行為の蔓延は、金子の意図とは全く違っていたことなのです。
 この裁判劇も面白いところ。プログラムオタクの金子の話は難解で長いので、弁護士チームは別の作戦を立てるなど、金子のキャラクターを前面に打ちだしたドラマ運びが秀逸です。ITに詳しくないわたしのようなアナログ人間が見ても、社会性とエンタメ性の巧みなさじ加減でぐいぐいひきつけられました。
 
 警察の卑劣さやソフトの脆弱性、当時の世相などを、あおることなく描き出そうとする松本優作監督の真摯なスタンスが、作品への信頼度を高めていると思います。
 主演作が続く東出が、探求心に没頭する技術者の姿をひょうひょうと好演。役作りのため、約18キロもの増量や、遺族や関係者たちへの取材、模擬裁判なども経て「今も自分の中に金子さんがいる」と語るまでに至りました。

 毎作品余白を残すことにこだわる松本監督は、本作でも京都地裁の裁判に絞った構成が現代にもつながる問題をより鮮明にしています。しかしその反面その後の無罪判決を勝ち取るまでの過程は、全く描かれずカタルシスというか満足度みたいなものがあやふやで終わってしまうのです。果たして全部描き切らずに完結してしまうことが本当によかったのでしょうか。

  最後に、Winnyの使用については、人の倫理観に頼らざるを得ないところがあります。金子がネットに「著作権を侵すことはできるが、そのように使うな」と書き込んでいましたが正直に従う者はどれだけいたことでしょう。性善説はソフトの世界では脆弱であると思います。

公開日 :2023年3月10日公開
上映時間:127分
https://winny-movie.com/


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