作詞家 売野 雅勇さん。昭和歌謡史にあってヒットメーカーの作詞家として、その名を広くこの世に知らしめたお方である。売野さんの同世代の作詞家としては松本 隆さんもヒットメーカーとしてつとに有名ではあったが、ぼく的には売野さんの斬れ味の鋭い詩作のほうが好みだった。
売野さんの影響もあってだろうか? ぼくは若いころ一度作詞家になろうと思ったことがあった。思い立ったが吉日で、いきなり万年筆を右手に原稿用紙と向き合った。
恐ろしいことに、そのころの自分は詩作の才能があるとマジで思い込んでいたのだ。それまでただの一度も歌謡曲に相応しい詩なんて書いたこともないくせに、ただなんとはなしに、何の根拠もなく、何故か自分にはそういう才能が備わっている、と勘違い出来るほど図々しい質(タチ)の男だったのだ。
・・・小1時間ほど左手にタバコ、右手に万年筆を持ちながら原稿用紙に文字を呻吟するように埋めていった。そ結果出来上がったいくつかの作品に改めて目を通しながら、ぼくは思った。
<・・・む、無理だ。俺には才能の欠片もない> と。
かくして、ぼくの作詞家への旅路はあえなく終わりを告げることとなった。短すぎる旅だった。
ログインしてコメントを確認・投稿する