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2015年01月23日00:35

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名作コラム・芥川竜之介「偸盗」 〜平安期の愛憎劇、深淵の風景〜

 今回は私が芥川作品の中で繰り返し読む「藪の中」と「偸盗」の2作品の内、「偸盗」(青空文庫http://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/31_15217.html)に関して書いてみたいと思います。

 この作品は芥川作品に魅力を然程感じてなかった時分、「これだけは面白いなー」と思った作品で、その後になって「芥川本人が生前に最も忌み嫌った作品で、何度も手直ししようとしたが結局適う事が無かった」と聞き、さらに興味を持った作品です。

 では解説して行きましょう〜
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 この物語は荒廃した平安末の平安京を舞台にした、盗賊団の男3人、女3人の愛と憎しみが交錯する物語ですが、実際には5人の主観で描かれたと女1人の物語という事が出来ます。
 主要人物で主観で描かれない盗賊の首領の女”沙金”は完全なサイコパスで、主要人物の男3人(義父を含む)や、貴族や他の下賎の男とも肉体関係を結び、嘘や人殺しに罪悪感を感じず、他人を操るのに非常に長じてます。

 明治大正期に日本の心理学研究の黎明期であったとはいえ、現代でも通じるような見事なサイコパス描写であり、その”沙金”に感情と運命を翻弄される男3人と実母が物語を織り成していきます。

 疫病や盗賊、荒廃した平安京で盗賊となり闇に落ちた人々が、良心あるいは純粋な愛を僅かに萌芽させながら、死に、あるいは生き延びていく。自身が深淵に堕ちる恐怖を抱きながら、何らかの光明を感じていく、
 いわゆる物語のカタルシスという大きなものではありませんが、僅かな、ほんの僅かな芽の様な物を与えてくれる作品ですね。

 作品中のモチーフと流行り歌の反復も作品の特徴の一つです。序盤では蝿のたかる蛇の死骸が繰り返し描写され、疱瘡で死んだ女に集約して行きます(女は場面の最後で息を吹き返す)。
 終盤では主要人物の一人で妊婦の阿濃の流行り歌(今様)から、誰ともわからぬ歌が時折繰り返され効果的に使用されています。
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 芥川がこの作品を失敗作、駄作と言ったのは、私個人の私見ではあるのですが
『サイコパスや王朝期の題材、モチーフの反復や主観の切り替えと言った手法を材料として十分用意したのに、
思ったような調理が出来ず自身の思う芸術性を得られなかった。』
 といった感じの事だろうと推測致します。

 ただ私の場合は、技巧や技術が浅かった分、ある種のリアリティ――ヒトのシンプルな心模様――が見えて、変に説教臭かったり小洒落た物語より、愛着を感じてしまうのです。

では、今宵はこの辺で(・ω・)ノシ 
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