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2026年08月15日00:00

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映画『SIRAT シラート』

『SIRAT シラート』(スペイン/フランス)
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鑑賞したBunkamuraル・シネマ渋谷宮下は、かつての渋谷TOEI時代からの音響設備をベースに7.1chサラウンドシステムを導入しており、その恩恵をこれほど実感したのは本作が初めて。冒頭、モロッコの砂漠で展開するレイヴパーティー。ドラッグに陶酔した変性意識状態の光景は、積み上げられた巨大なスピーカーから放たれる重低音が耳だけでなく、身体そのものを震わせ、対面にそびえる巨大な岩壁へ反響し空間全体を支配する。レーザー光線によるアートパフォーマンスが暗闇に映え、俯瞰ショットによって砂漠で続く狂騒の全景が見えてくる。この映画はまず"音"で観客を呑み込み圧倒させる。
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異様な光景に終末感すら漂うレイヴ会場。唯一その場に溶け込んでいない親子は、半年前にレイヴへ参加したまま失踪してしまった娘を捜す父ルイス(セルジ・ロペス)と息子エステバン(ブルーノ・ヌニュエス・アルホナ)。やがて軍隊が現れ、集会は強制的に解散させられる。
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舞台は現代も緊張状態が続くサハラ・アラブ民主共和国とモロッコの軍事境界線付近と思われ、断続的な紛争が不穏な空気を覆っている。軍の命令を無視して序列から外れ、砂漠へ逃走したレイヴァーたちのトラックを追うルイスとエステバン。娘を探すためはるか南のレイヴ会場を目指す。
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同行するヒッピースタイルの登場人物5人を演じるのは実際のレイヴァー達だそうで、実際に手足が欠損している役者もいる。違和感のない自然体の演技は、多くを語らないその佇まいだけで、それぞれが複雑な過去を背負っていると想像させる。険しい道のりで深い川を渡り、水と食料不足、ガソリン補給、現地住民との摩擦。いくつものサバイバルを経験して、当初は相容れなかったルイスとレイヴァー間に、奇妙な連帯感が芽生える。
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その橋渡し役となるのが息子のエステバン。愛犬パピを可愛がり、残り少ないチョコレートを皆に分け与え、モヒカン姿に変身して無邪気に笑う。その存在が、この荒涼とした旅に束の間の温もりを与えている。
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ここまではスローペースなロードムービーという印象。だが本作はここから突然ギアが入れ換わる。終盤で物語は容赦なく反転し、多くが命を落とし、それまで積み上げてきた人間関係も崩壊の危機を迎える。不条理でショッキングの連続は観客側に考える隙を与えない。ジャンプスケアの延長とも言えなくはないが、本質的な恐怖演出ともいうべきか、人間の営みは世界の無慈悲さの前で、あまりにも脆いという事実を突き付けられる。
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押し寄せる重低音と爆発音。その直後に訪れる静寂。この音響設計は劇場でしか体験できないだろう。終盤、イスラム教徒らしき描写のあった人物が生き残る展開や、ある出来事を通過して、どこか達観したようなルイスの振る舞いを見ると、オリヴェル・ラシェ監督が信仰問題の意識を絡める要素を意識していることは間違いない。
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タイトルの「シラート(Sirat)」とはイスラム教で審判の日に天国と地獄を隔てる、髪の毛より細く剣より鋭い橋を意味するという。終盤にはその橋を思わせる場面が用意されており、さらにラストの線路もまた死生観の"道"を暗示する。サバイバル映画でもなければレイヴカルチャーを描くわけでもない。生と死の境界を旅として辿りながら、そこに直面した人間がどのような精神状態を持つことになるかが問われる、極めて宗教的なオフロードムービー。築き上げてきた世界を根底から覆す唐突さと不条理。その衝撃こそ本作が忘れ難い記憶に刻まれる要因となっている。
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