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2026年06月07日07:00

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映画『オールド・オーク』

『オールド・オーク』 (イギリス・フランス・ベルギー)
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労働者階級の不条理などを常に弱者側から描いてきたケン・ローチ監督は、今回も移民をめぐる現実と杞憂を真正面から捉える。2015年当時のように本人が明言したのか定かではないが、メディアでは「これが最後の監督作」と報じている。実際、これまで厳しく観客を突き放す結末が多かったローチ作品にしては、今回はエンドロールの余韻がどこか穏やかで映画的な装いを保っていたところに、最後の作品としての気配を感じさせるのも事実。パルムドール受賞『麦の穂をゆらす風』(2006年)『わたしは、ダニエル・ブレイク』(2016年)はいずれも名作だが内容はあまりにも重く救いが乏しい。それに比べると『天使の分け前』(2012年)のように、社会の底辺にいる若者をユーモラスに描きつつ、更生しないアウトローにどこか希望を滲ませる作品もある。今回の作品はそれらの中間に位置するトーンといえる。
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舞台はイングランド北部。かつて炭鉱で栄えるも現在は寂れている町に、シリア難民の受け入れが始まったことで住民たちのざわつきが始まる。投資目的で空き家を安く買い上げて難民に提供する仕組みは、同じ家をかつて6倍以上の値段で購入した先住者にとって面白いはずがない。シリアからの移民家族を露骨に嫌悪し罵声を浴びせるのは、炭鉱産業の衰退で職を失った元労働者やその子供世代による鬱屈の裏返し。町に唯一残ったパブ「オールド・オーク」を溜まり場にする彼らにとって、よそ者はただ“目障り”でしかない。町に到着した時のトラブルで大切なカメラを壊されたシリア移民のヤラ(エブラ・マリ)が店に現れ、店主のTJ・バランタイン(デイブ・ターナー)に相談を持ちかける。TJはカメラを壊した男を知ってはいるが、弁償するような人間ではないことも分かっている。そこで彼は封印していたパブ奥の会場部屋を開けて、保管していた古いカメラをヤラに手渡す。
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その部屋には、炭鉱労働者や閉鎖時の闘争を記録した写真が並んでいた。ある一枚にはTJの母の言葉で「When you eat together, you stick together(共に食べて団結を)」と書かれ、この言葉はやがてこの物語の軸となっていく。ヤラはその写真に見入ることで、この町の歴史と痛みを直感的に理解する。自らのシリア戦禍の経験とは異なるが、ここにもまた別の喪失があるのだと悟ったのだろう。
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TJは難民支援活動家ローラ(クレア・ロッジャーソン)を手伝っているが積極的とは言い難い。妻とは離婚、息子とも断絶し、父は海底炭鉱の落盤事故で死亡、母もすでに失っている。孤独な身で志も自己主張もないまま惰性でパブのオーナーを続けており、唯一の支えがマラと名付けられた犬。父が亡くなった日に海に身を投げようとしていたTJの前に、どこからともなく現れたのがこの相棒との出会いだった。しかしそのマラでさえも物語中盤で大型犬に殺されてしまう。失意のTJを慰めに来るのはヤラとその母親。こうしてTJとシリア移民家族の交流は深まりを強め、倫理的な反転へと繋がっていく。
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一方、パブでくだを巻く旧友たちは、相変わらず移民者を見下し罵ることで鬱屈した感情を晴らす。特に同級生のチャーリー(トレヴァー・フォックス)は、TJが移民たちと協力して、閉ざされていた会場部屋を復旧し、食事会を開こうとする活動を裏切りと受け取っていた。移民への敵意はSNSを通じて増幅され、町の分断は深まっていくばかり。それでもボランティア団体やわずかな協力者の支援は進展し、ヤラとローラの念願だった食事会は大成功。移民者たちとの交流は一気に深まっていく。
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だがその後、修理したはずの配管が深夜に破裂して会場が水浸しとなり、漏電で電気も使えなくなることで希望の道は閉ざされる。ヤラ、ローラを含む協力者4人の前でTJが吐露する弱音には、いかなるカタルシスも用意されていない。配管を壊した真犯人に向かって放つ言葉「この町は難民が来る前から壊れていた」という厳しい認識と、自分たちよりも弱い者しか攻撃できないという問題を的確に突いてくる。
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クライマックスでは本作で直接登場していない人物の訃報が告げられる。悲しみに暮れる家族に寄り添う追悼場面は、これまでのローチ作品と比べてエモーショナルな方向に気持ちを寄せるやさしさが垣間見える・・・とはいえ何ひとつ問題は解決していない。移民と先住者の軋轢と融和の境界線を綱渡りのように行き来する不安は、外国人労働者に依存せざるを得ない近未来の日本社会と比べても他人事ではないだろう。
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それでも本作は、断絶だけを描いて終わることを選ばなかった。「共に食べて団結を」という極めて原初的な行為に接点を見出そうとするその試みは、果たして有効なのか無力なのか。共存を肯定する時代の到来を否定しない終わらせ方に着地した今回のケン・ローチ監督は、現在の世界情勢のどこかに希望を見出した兆しということになるのか。もしそうであるなら、90歳を超えてからの更なる次回作を期待するのも自然なことなのでは?

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