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2025年12月21日00:00

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映画『ふつうの子ども』

『ふつうの子ども』(日本)
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呉美保監督と高田亮脚本のタッグで連想されるのは『そこのみにて光輝く』(2014年)だが、本作鑑賞中に記憶が蘇るのは『きみはいい子』(2015年)。数多ある子供主役映画中でも、その世界軸が完全に子供の視点で固定され、周囲の大人たちをノイズとして描く構成は希有。大作『宝島』でも脚本に名を連ねる高田亮だが、作家性の純度という意味では本作の方が圧倒的に際立っている。会話劇の独自性は群を抜いて記憶に刻まれ、くすっと笑いながら観るかほのぼのコメディを装いながら、鑑賞側に鋭い宿題を突きつける。
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小学四年生の上田唯士(嶋田鉄太)が気にしている同級生の三宅心愛(瑠璃)は、環境問題に強い関心を持ち、先生にも臆せず意見を述べるタイプ。唯士は図書館で彼女に接近を試みるが、心愛の想いはクラスのリーダー格である橋本陽斗(味元輝大)に向いているらしい。そんな三人が始めた“環境活動”は予期せぬ方向へ事態を拡大させ、やがて大人を巻き込む大騒動へと発展していく。
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子役たちの演技は驚くほど自然で、あの是枝裕和監督作品を凌駕していると言いたい。冒頭の作文発表シーンからクラスメイト達それぞれが、演技と見紛うばかりの個性を発揮。これほどに子役達が名演を見せるのは、呉美保監督の卓越した演出力に大きく依存しているとしか思えないため、撮影手法にも興味を抱かずにはいられない。やや多めのカット割りから察するに、テイクを重ねて小刻みに緻密に編集しているのではないかと想像するが果たして…
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子供世界の人間関係を把握していない大人達が「ああしなさい、こうしなさい」と言っても、子供社会構造の根本を理解していないため響かない。傍聴人としてその一部始終を咀嚼できる立場となる我々観客は、状況を自身の現実世界に置き換えてハッとさせられ、子供への理解の浅さに気付かされる。大人に従う“良い子”ですら我々大人はその理由を理解していない。これを目の当たりにすると、定番学園ドラマに登場する万能教師像が、いかに胡散臭い幻想であるかを思い知らされる。
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担任の浅井先生(風間俊介)は、生徒の声に耳を傾ける模範的な教師ながら、子供の発言にカウンターを返す術を持たない、ある意味で非常にリアルな青年教師像といえる。唯士の母・恵子(蒼井優)は、育児ハウツー本を読んでいても息子の本音を掬い上げる機転を持たず、良き親を表層的に演じることに終始する。対照的に終盤で登場する心愛の母・冬(瀧内公美)は、娘を蔑むような口調で圧をかけ、子供を大人の世界へと対峙させようとする。
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陽斗の母親も含めた大人たちの論争は、子供達の論理とは相容れない空虚さが滑稽で、そこに現実社会のリアルを炙り出す。主人公の唯士を演じた嶋田鉄太の飄々としたリアクションは全体の緊張を解きほぐしてくれるが、下ネタ作文が滑って落ち込んだり、環境問題で先生に鋭い意見をぶつける心愛へ向ける羨望の眼差しが愛おしい。お調子者で喜怒哀楽をメリハリつけて表現する姿こそ、まさにタイトルが示す“ふつうの子ども”の魅力に満ちていると思う。
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陽斗役の味元輝大も、家庭と学校で豹変する二面性をリアルに体現。彼の抱える重圧が過激な行動へと転化する過程に、痛々しい真実味が滲み出ている。他に脇を固める子役陣も実に魅力的で、唯士に好意を寄せるキャベツ太郎女子を演じる長峰くみ、徹底したヒール役に徹した本間さえ、虫好き少年の大熊大貴、それぞれがリアルで確かな輪郭を持ったキャラクターとして味を出している。
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心愛を演じる瑠璃が、冷静さの奥に張り詰めた緊張感を宿す演技は圧巻で、最初は“グレタ・トゥーンベリ被れ”のツンデレ理想主義者に見えたが、母親との関係を晒すことによって印象は一変。子供達が大人の会議に巻き込まれる尋問シーンで、彼女の訴えは社会への抗議であると同時に、自分自身の救済の叫びに繋るのだが、それを涙ながらに熱演する姿は素晴らしかった。
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緊張空間でコメディの軽やかさを保ちながら、世代間の断絶を極限まで可視化する演出力を改めて感じた直後、感情が頂点に達したクライマックスで、まさかの唯士による勇気ある告白があるのだ。これによって物語は再び“ふつうの子ども”の目線を取り戻し、日常へと優しく還っていく落とし前をつける。ユーモアセンスの皮を被りながら、子供の内面的な論理を理解しない大人の欺瞞を対比する社会派ドラマは、笑いの裏に痛みを掬い上げる脚本の精度と、無垢な現実感を融合させた呉美保監督の代表作を更新するだろう。鑑賞後は静かな自省を促される。
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