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2025年07月15日00:00

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映画『サブスタンス』

『サブスタンス』(イギリス,フランス)
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鑑賞後あまりにインパクトが強かったのでコラリー・ファルジャ監督の長編デビュー作『REVENGE リベンジ』(2018年)も配信で鑑賞。血みどろのバイオレンス作品で、同じ監督の映像だというのがすぐに判るほど個性が前面に出ている。第42回トロント国際映画祭で注目を浴び、満を持しての新作がこの『サブスタンス』。カンヌ国際映画祭で脚本賞、アカデミー賞で5部門にノミネート。映像的にエンタメ度を増した本作こそがこの監督のスタンダードモデルになるだろう。
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冒頭は卵に薬液を注入すると黄身が増える映像。ハリウッド・ウォーク・オブ・フェイムに埋め込まれたエリザベス(デミ・ムーア)の星形プレート。そこで記念写真を撮る人々が、やがて見向きもせずにプレートを踏んで通り過ぎることで、一世を風靡した大スターの人気が凋落してきた過程を分かりやすく見せる。このプレートがラストシーンでの回収に繋がるのが秀逸で、極端なデフォルメ映像もここまで徹底すればフィクションの極み。今からでもアカデミー主演女優賞はデミ・ムーアにして欲しいと思いたくなる怪演。
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鑑賞後に思ったのは、作品賞は無理、監督賞も脚本賞も遠く及ばず。結果はメイクアップ&ヘアスタイリング賞の1冠。特殊メイクが際立つのは確かだが、これはもうメイクの領域ではなく特殊効果レベル。ラストはスプラッターホラーを超越して笑いを呼ぶブッ飛んだ映像センスに唖然となる。この役をデミ・ムーアに演じさせたことの贖罪はいったい誰が果たすのか。主演女優賞が若いマイキー・マディソンだったことも追い打ちをかけての皮肉だったが、それだけデミ・ムーアの脅威的な個性が際立ったともいえる。
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かつての人気女優は老いによる容姿で仕事が無くなり、周囲の自分への態度が変化していくことを気に病む。看板番組のエアロビクスショーを誕生日に降板させられるという侮辱を受けたエリザベス。老いの強迫観念に囚われ、焦燥感に耐えられない果てに「より良いバージョンの私」が得られるという裏取引き薬物「サブスタンス」を知った彼女は、不信感を抱きつつも欲望に囚われていく。
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エリザベスの分身・スー(マーガレット・クアリー)の誕生場面は生やさしいものではなく、浴室に倒れ込んだエリザベスの背中が裂けて、そこから自分の分身が脱皮するように産まれてくるボディホラーの幕開け。抜け殻となった自分自身の背中を縫合するスーのシチュエーションは尋常ではなく、生命維持に必要な栄養補給プロセスは自身の脊髄液で安定剤を注射する段取りまで赤裸々に描写される。
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若く美しい自分のアバターを手に入れ、スーと名乗って再びスターダムへの道を駆け上がるエリザベスだが、その身体は1週間毎に元の身体に戻らないといけない。スーが輝けば輝くほど本来のエリザベスに戻る1週間に葛藤する日々が始まり、やがてスーの人格がエリザベス自身を拒絶し始める。ルールを破ることで彼女の身体は異変が起き始め、美貌を取り戻した自分から後戻りできないスーのままでの暴走が始まる。
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コラリー・ファルジャ監督が進言する「エイジズムとルッキズムで女性を縛る社会への批判」という側面があまりにも解り易い。その象徴として登場する業界プロデューサーのハーヴェイ(デニス・クエイド)が悪意を持って醜悪に描かれており、特にレストランでエリザベスと対面しながらエビ料理を汚らしく食べる描写は超絶にえげつない。若さに拘るエリザベスの心理を正当化する意味も含め、男が女にエイジズムを求めることが、明らかな性差別であることを知らしめる役割りがハーヴェイのキャラクター。クライマックスとなる年末ショー番組では「私が作った完璧な作品をご覧にいれましょう」と豪語するが、そこで見せるのは胸と尻を出したセクシーダンサーのそれであり、下品で薄っぺらい性的プロデュースを視聴者側が求めているということを暗示する。
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そんな価値観の世界で足掻き続けるエリザベスの葛藤は、承認欲求を満たさずにいられないため益々陰湿な方向にシフト。自分の分身が思い通りに行動しないことによる対立が後戻りできない事態を招く。サブスタンスをやめるチャンスは何度かあった。身体に変化が起きた時も一旦はやめかけた。最も刺さった希望の光は、現在の彼女をありのままに憧れていた元クラスメイトとのデートの約束。鏡の前で何度も服や化粧をやり直すうちに、自分の容姿が耐えられなくなる卑屈な精神状態が、サブスタンスの過剰摂取に繋がる。
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暴走が止めらなくなったエリザベスは、自傷行為も含めてスーへの嫉妬心が憎悪と化すが、スーは構わずエリザベスから栄養を吸い上げ尽くす。目を覆いたくなるほど無残な老婆となったエリザベスは、ついにスーと心身全てが分離し直接対決へとエスカレーション。その果てに誕生するモンストロエリザベスーを目の当たりにした所で、本作はエンドロールでも充分だと思った。だが物語は更に歯止めが効かないファイナルステージが用意されており、エリザベス&スーの逆襲による地獄絵図を見届けることになる。
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それはある意味カタルシスでもあるが、吐き気を通り越した清々しさとでも言うべきか。かつて私生活でも整形や薬物依存などのスキャンダルに事欠かなかったデミ・ムーアが、自らのパブリックイメージを踏襲するかのように、美に拘り、若さにしがみつく役を演じるという自虐的演出と同時に、その潔いプロフェッショナル魂に感服する。特に前記したデート前の化粧の場面は説得力が有りすぎで、刻一刻と約束の時間が近づき意を決したところで視界に飛び込んでくるスーの看板で狂乱する様子は痛々しく切実過ぎる。普遍的に続く外見至上主義文化に、根本的な絶望感を持たざるを得ない状況は大団円でも変わらない。人の価値が外見の美醜によって判断されるルッキズムの助長を木っ端微塵にぶち壊すのが本作の決着どころのはずだが、吹きだしまくる血飛沫を鑑賞側にも浴びせてくるような狂騒、荒唐無稽な事態のせいでメッセージ性がスポイルされているのが少し残念。

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