mixiユーザー(id:4380531)

2025年06月26日00:00

468 view

映画『最後の乗客』

『最後の乗客』(日本)
フォト
主演は『侍タイムスリッパー』で風見恭一郎を演じた冨家ノリマサ。55分の短編上映では劇場内のあちこちからすすり泣きと嗚咽が聞こえる。途中で結末の予想はほぼつくし、終盤はかなり直球の会話劇になるので俯瞰して観てしまった自分は泣けなかったが、あの出来事が未だに地続きであることを振り返らずにはいられない気持ちを呼び起こさせる。自分のような忘却論者がこの作品を観るべき筆頭格者なのかも知れない。
フォト
港町のタクシー運転手・遠藤(冨家ノリマサ)は、終電が過ぎても駅前で乗客を待ち続けていた。同僚の竹ちゃん(谷田真吾)が呆れて先に帰宅する間際にちょっとした噂話を始める・・・・・深夜の過疎地で若い女が一人でタクシーに乗り込み行先を浜町と告げると、実際に浜町に着いたところで女の姿は消えているという。
フォト
帰路につく遠藤の前に、竹ちゃんの噂通りに若い女がタクシーに乗ってきて行先を浜町と告げた。帽子とマスクとサングラスで顔を覆っている女は話しかけても答えない。するとそこに、小さな女の子を連れた母親(長尾純子)が路上に飛び出してきて遠藤は急ブレーキをかける。その母娘も行先は浜町だというので一緒に乗車させたのだが、何故かタクシーのエンジンがかからなくなる。そしてマスク女の正体は10年前に東京の大学に行くと言って家を出たきり、まったく便りがなかった遠藤の娘・みずき(岩田華怜)だった。なぜ娘がこんな所にいるのか?
フォト
冒頭の「あれから10年後」というテロップと港町の廃墟描写で、事前情報がなくとも本作が東日本大震災をモチーフにしていることが伝わる。回想シーンで遠藤の言うことを聞かないみずきが、玄関の母親の遺影らしき写真に合掌してから出ていくのが印象的で伏線にもなっている。堀江貴監督は仙台市出身だが、3.11当日はニューヨークにいたため震災を直接体験はしていない。七回忌の年から脚本を書き始め、クラウドファンディングを募って製作に挑んだ純然たる自主映画は、コロナ禍の中断を乗り越えて2022年に完成。
フォト
海外各地の映画祭に出品を続けて最優秀賞や作品賞にいくつも輝いたという履歴。自分のように東日本大震災の記憶を無意識に脳内風化させて、復興よりも既に活性への未来に思考が向く者に対するアンチテーゼがこの作品には込められている。だがその一方で本作の最も特筆するべき点は、忘れたくても忘れられない体験となって、その呪縛から逃れられない被災者や周りの人々に「忘れてもよいのだよ」と優しく語りかける部分にある。
フォト
行事等で声高に「忘れてはいけない!」と叫ばれる言葉が、逆に当事者たちのトラウマとなって苦しめる部分があるということに気付かされる衝撃。物語はミステリー仕立てで進むので、これ以上の展開は多く語れないが、数多ある震災モチーフ映画の中でも、このように異なる視点への気付きを提供してくれる作品は多くはない。本作はそれを自主映画という制約下でしっかりと訴えており、震災にとの向き合い方を一考させてくれる。
フォト
<映画レビューを切通理作さんのメルマガ内にて連載しています>
月2回配信、購読開始から1ヶ月無料
http://yakan-hiko.com/risaku.html
切通理作編集メールマガジン『映画の友よ』
【 料金(税込) 】 660円 / 月
【 発行周期 】 月2回配信
【 最新発行日 】2025年5月31日
映画の友よ Vol.270, 271
<『サブスタンス』『選挙と鬱』>
<『桐島です』『新世紀ロマンティクス』『異端者の家』>

16 11

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2025年06月>
日 月 火 水 木 金 土
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930     

最近の日記

もっと見る