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2025年04月18日00:00

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映画『型破りな教室』

『型破りな教室』 (メキシコ)
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テキサスとメキシコの国境エリアといえばドゥニ・ビルヌーブ監督『ボーダーライン』やリーアム・ニーソンの『マークスマン』など、カルテル組織による殺戮映画が最初に連想される。ところがこの作品は麻薬と殺人が日常化した2011年の同じ地域ながら、とある小学校での実際に起きた出来事が描かれている。
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マタモロスという実在する貧困街に赴任してきたひとりの教師によって、生徒たちの成績が向上したという実話は、アメリカの未来テクノロジー雑誌「WIRED」の表紙を飾った12歳の少女がきっかけだった。見出しには大きな文字で "The Next Steve Jobs” と書かれており、その子こそがこのマタモロス小学校出身のメキシコ人だった。彼女が国内トップの数学成績を残したことが報道され、その背景に興味を持ったジャーナリストが現地を取材。それが当時31歳だったフアレス・コレアという男性教師との出会いの始まりで、この映画が作られる最初のトリガだった。フアレスを演じた役者は、2022年アカデミー賞作品 『コーダ あいのうた』でも教師役だったエウヘニオ・デルベス。
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通学する子供たちの横にはシートを被った死体の風景。学年平均学力は全国最低水準。小学6年生の半分は卒業すら危ぶまれる状況だった。犯罪と隣り合わせの環境で育つ子供達に、この学校は規則ばかりで勉強にもやる気が出ない。対する在籍教師たちは学校の評価基準となるENLACE(全国共通試験)の成績向上にしか興味がない。
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出産退職者の後任としてこの町に来たフアレスの最初の授業は、椅子を教室の端に寄せて床に座り、並べた机を救命ボートに例えた問いかけから始まる。「君たちは23人いてボートに乗れる人数は限られているがどうしたらよいか?」唖然とする生徒たちに、構わず翌日もまた翌日もこんな授業を続けていく。するとやがて生徒たちは、ボートはなぜ浮くのかを自ら探求するようになる。体重によっては船は沈んでしまうかもしれない? 果たして何人を救えるか? という議論を通じ質量と体積の関係を解説するフアレス。まだピンと来ていない生徒たち・・・解らなければ実際にやってみようと、校庭の水汲み場にある貯水槽を使って実験を始めるフアレス。大柄の校長先生が危険だからやめろと注意しに来ると、フアレスはその校長をも巻き込んで体験授業を続ける。「校長先生がボートに乗ると沈む!」「どうしてそう思った?」「デブだから!」「なんでデブだと沈む?」「太った人とマッチョはどちらが沈む?」自分たちで考えることを促す教科書を使わない奇妙な授業に「あんな先生は初めて」と、戸惑いながらも生徒たちの目は輝きだす。
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多感な時期に巡り会う教師によって、人生が大きく左右されることを改めて知らされる本作で面白いのは、フアレスは決して優秀な教師ではなく、やっていることは動画サイトからの受け売りだったっり、時には行き当たりばったりなのもバレている。そんな自己流ながらも、生徒の自主性を重視した授業風景は実にドキュメンタリーチックに見える。実は演じているのが殆ど地元の子供達をそのまま使っているという素人俳優体制。3台のカメラを常時回し続けて授業風景を長撮りし、生徒たちのアドリブをそのまま本編に取り込む手法だったという。
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フアレスはパロマという生徒がノートに浮力の法則を書き込んでいるのを目にする。廃品回収業の父親とふたりで暮らすパロマ(ジェニファー・トレホ)は、距離の遠い通学路をロバに乗って登校する6年生。ゴミ捨て山から手鏡を見つけて微笑むような少女なのだが、数学の難問をさらっと解いていくことにフアレスは驚嘆する。「私は航空宇宙工学者になれますか?」とフアレスに尋ねるパロマ。夢を目指して一緒に頑張ろうと励ますのだが、彼女の父親からは「無責任な支援はしないでくれ」と吐き捨てられる。「お宅のお嬢さんは優秀なのだから勉強を続けさせるべき。奨学金を得て大学へ行くという方法もある」と説き伏せても、「じゃぁその後はどうする? またこのゴミ溜めに戻って来るしかないのが現実なんだよ。あんたがその先も面倒を見てくれるとでもいうのか?」と反論される。生徒が卒業すれば教師の仕事はそこまで。次の下世代の生徒達がまた待っているからだ。パロマには老いていく父親を助けながら、この土地で働き続けなければならない運命がある。歯がゆくても自分だけではどうにもできない現実を痛感して絶句するフアレス。
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そんなパロマに恋心を寄せる少年ニコ(ダニーロ・グアルディオラ)は、遠回しながらもフアレスに相談を持ちかける。女子に好かれるにはどうしたらいいのか? フアレスの答えは「自分ではなく彼女=パロマのよいところを褒めるんだ」。そう言ってフアレスは、パロマに渡そうとしていたNASAアカデミーキャンプの参加募集チラシをニコに託した。
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この町の治安の悪さは子供達にも多大な影響があり、ニコの兄は既にギャング一派に片足を突っ込んでいる。ニコもその仲間に誘われており、兄から預かっていたギャングのカバンに気付いたフアレスは中味を見ようとするも「バレたら殺される」と涙ながらに訴えるニコの態度でその場を見逃してしまう。「人生の行き先は自分で選ぶんだ」という言葉でニコを指南するフアレスだが、この時の判断がニコの運命を左右してしまった。
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他には哲学好きな少女ルペ(ミア・フェルナンダ・ソリス)が、弟妹の世話をする事情で学校に通うのを諦める話、盗難でパソコンが無いパソコン室を何とかしようと奮闘する話、そしてフアレス自身の過去にある挫折など、彼の不完全な教師像に不思議に魅了されながら物語は進行する。ドーナツ好きの憎めない校長先生(ダニエル・ハダッド)は極めて保守的でスアレスと意見が対立することが多い。その極めつけは不正に入手したENLACEの試験問題を頑なに受け取り拒否したフアレスに対し、不正の根源である教育委員長が制裁として2週間の停職処分を下す時。フアレスの情熱に理解を示し、協力側に変化していく校長とはやがて友情が生まれ、ニコが「パロマ」と名付けたボートをふたりで海に放つシーンは感動的。
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「学校は時間と制服で束縛して、静かにしろ整列しろと命じる教育をする。これは子供を機械の歯車にする教育だ。」学びたいと思いながら学べない子供達を理想へ導くには、教師だけが奮闘しても解決しない。それまで苦痛だった全国試験に挑む意欲が生まれた生徒たち。だがそこにニコの姿はなかった。
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ゴミ山の頂上で手作り望遠鏡を使って、国境先テキサスのスペースXロケット発射場をニコに見せながら夢を語るパロマの姿が脳内にリフレインし、否定的だった彼女の父親にも泣かされる。ラストのアインシュタインの言葉を引用したスピーチ「私の学びを妨げる唯一のものは、私が受けた学校教育である」よりも、前半の井戸に落ちたロバの話「このロバになれ。自分を埋もれさせるな。必要なものは君たち一人ひとりがもう持っている。それは可能性なんだ。」が印象深かった。日本の熱血先生ドラマが勉強よりも大切なことを学ばせる傾向なのと比べ、フアレス先生は勉強することそのものの面白さと学ぶ喜びを教えてくれる。これからメキシコ国境映画の筆頭には本作を推したい。メキシコという国の明るい未来を語る希少な作品なのだから。
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