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2024年11月02日23:13

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映画『侍タイムスリッパー』

『侍タイムスリッパー』(日本)
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たった1館上映のシネマ・ロサが起点で、またしても自主制作映画がヒットしていると口コミから公開拡大となった本作。失礼ながら近場の新宿ピカデリーで鑑賞してしまったのだが、なるほど一周廻ってこういう作風が賞賛されるのは実にタイムリーだと感心したのが最初の感想。現代にタイムスリップした侍というだけでは新鮮度は皆無だし、脚本だけをなぞるとステレオタイプなタイムスリップもの。なのにどうしてこんなに笑って泣けて熱くなれるのか。実はタイムスリップそのものは副次的な要素に過ぎず、見知らぬ環境に放り込まれた自分に何ができるのか、性根を据えて存在意義に挑む物語だった。それは時代劇の斬られ役で現代に生きる術を見つけたことではなく、台詞にもあった「あの時代を生きた人々の想いを伝える責任」という意味に繋がっている。
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長州藩士との一騎打ちの最中に会津藩士の高坂新左衛門(山口馬木也)が落雷で幕末からタイムスリップした先は、現代の時代劇撮影所。戸惑い狼狽しつつも、助監督の山本優子(沙倉ゆうの)を始めとする周囲の人々に助けられ、新左衛門はこの時代でなんとか生きようとする。偶然の展開でエキストラを演じたことをきっかけに「我が身を立てられるのはこれのみ」と斬られ役として生きていく決心をする新左衛門。だがもはや斜陽文化の時代劇業界は風前の灯火だった。そこに現れたかつてのスター風見恭一郎(冨家ノリマサ)が、新作時代劇映画の製作発表を引っ提げて撮影所に帰ってきた。風見は自分の敵役として無名の新左衛門を大抜擢すると宣言。実は彼こそ、新左衛門が刃を交えた密命の宿敵・長州藩士の山形彦九郎だった。現代で再会したふたりの火花が散る。
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自主制作ならではの作り手の情熱を受けて、東映京都撮影所が特別協力支援をしているという背景に好感度が上がるのと同時に、映画製作現場を舞台としているだけに、廃れる時代劇文化と自主制作現場環境の苦労が被る錯覚を覚えるところも鑑賞側の気持ちの入りに力が加わる要素。とにかく時代劇への愛が作品から嫌というほど滲み出てくる。
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いくつかの寸劇を繰り返しながら、現代人たちは主人公を記憶喪失の脇役者だと信じて疑わない流れが続く。ここで違和感のない自然な展開を作り上げるのは役者の熱演と間合い演出の上手さ。タイムスリップ物で定番となるカルチャーギャップコメディは抑えめに、エモーショナルな要素に笑いのスパイスを少し効かせるという小技が目立つ。絵が動く箱(TV)に驚くだけでは済ませず、そこで観る時代劇ドラマの人情噺に感涙したり、ショートケーキを食べるとあまりの美味しさに「日の本は良き国になった」と涙を流して安堵するシーンは、本作最大の号泣場面と言っても過言ではない。
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殺陣師・関本(峰蘭太郎)に特訓を受ける新左衛門が、組手中にどうしても斬る側になってしまうのもベタだが楽しい。実はここチャンバラ劇という独特の文化が “人を殺すのを見せるエンタメ” だということの神髄を問う予感をさせる場面でもあり、終盤への伏線になっていると思うのは考え過ぎか。更に風見恭一郎の登場でそれはより顕著となり、江戸時代という歴史の「継承手段としての時代劇の意義」を司る立場を担う風見の現代でのポジショニングは他類を見ない。
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終盤の問題について(ネタバレあり)劇中劇のクライマックスで新左衛門と風見(本名・山形彦九郎)が真剣を使って殺陣を演ろうとするのが骨子。ここは強引さが拭えず興醒めしてしまう。会津藩士と長州藩士が現代で“最後の武士”としての決着をつけるべく、文字通り決死の戦いへ自らを追い込んでいくという流れは、それまで現代で生きる術を模索してきた新左衛門の志に反する。また、彼を記憶喪失の現代人だと思っている優子達が、本気でそれを止めないのも不自然(だが新左衛門と優子にほんのりとラブコメ要素を入れているので、そこのオチに繋がる上手さはある)。
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守るべき幕府が既に無いことを理解して受け入れたのなら、ここで侍魂を再燃する理由付けがどうにも弱い。140年前に滅んだ江戸幕府と会津藩の悲惨な末路を知った新左衛門の、無念を晴らそうとする心境と、風見恭一郎のこの時代で成せるもの=時代劇を歴史に残す使命と覚悟がそれなのか? 無理な展開を役者の熱演でねじ伏せて、本当にどちらかが斬られてしまうという緊迫感で手に汗握る鑑賞側は、自分も含めて送り手の術中にまんまとハマっているのだろう。ベテラン山口&冨家による迫真の殺陣場面の素晴らしさが、劇中劇の栄枯盛衰を懸けたクライマックス・・・果たしてそれが真剣勝負だから凄いという理由付けが必要だったのか。時代劇斜陽の理由付けとして墓穴を掘ってはいまいか。
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エンドロールでは『JUNK HEAD』のそれを彷彿させるように、監督と役者がスタッフをいくつも掛け持ちしていたことが判明するなど、インディーズ作品の計り知れない苦労と努力が伝わってくる。シネマ・ロサ単独上映作品は今後も要チェックだと再認識した。

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